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論文

 今日は3Dプリンターが銃の製造に活躍し始めているという話題をご紹介したいと思います。
 昨年10月1日にはアメリカのラスベガスで58人が無差別にライフル銃で殺害された事件が発生、今年2月14日にはフロリダ州の高等学校で17人がライフル銃で殺害された事件も発生しました。
 ジュネーブにある大学の調査によると、アメリカには人口100人につき113丁の銃が存在している社会です。
 その結果、2017年にはアメリカで銃で死亡した人が1万1000人以上でした。
 参考までに日本は100人あたり0.6丁でしかありませんし、銃による殺人は例外的にしか発生していません。

 そこでフロリダの事件を契機にアメリカでも銃規制をしようという動きが出始めましたが、1871年創設で、現在では会員が500万人にもなる全米ライフル協会(NRA)が立ちはだかっています。
 何しろトランプ大統領はNRAから30億円の政治献金を受け取っていますし、フロリダ州が選挙区の共和党のマルコ・ルビオ連邦上院議員も3億円を受け取っていますから、動きが鈍いのです。
 しかし、流石に今年11月の中間選挙を前にまずいと考えたのか、トランプ大統領もラスベガスの事件で使用された半自動ライフル銃に取り付けて高速連射を可能にする「バンプストック」という装置の販売禁止の検討を指示するようになり、連邦政府の上院も同様の法案を超党派で審議し始めました。
 しかしカリフォルニア州では2016年に登録番号のない銃の所有は禁止するものの、80%まで完成状態の組み立てキットや部品の売買は合法とする法律を制定し、今年の7月1日から施行することになったため、既成の部品や3Dプリンターで作った部品を組み立てて銃を製造する動きが活発になってきました。

 まず3Dプリンターとはどのような装置かを説明します。
 プリンターは15世紀に金属活字の活版印刷が発明されて以来、平面に印刷する技術でしたが、1980年代から立体を造形する技術が登場しました。
 いくつかの方法がありますが、プラスチックや金属の粉体を少しずつ固めて積み重ねて、目的の立体を作っていく技術と考えていただいたら良いと思います。
 この技術の原理は1980年に名古屋市工業研究所の小玉秀男さんが発明し、アメリカの学術雑誌に論文を発表したのですが、まったく反響がありませんでしたし、研究所内でも評価されませんでした。
 ところが6年後にアメリカのチャック・ハルという技術者が世界最初の3Dプリンターを発売し、その功績で2014年には「国立発明の殿堂」に、無線通信を発明したマルコーニやトランジスターを発明したバーディンなどとともに顕彰されており、日本にとっては残念な結果になっています。

 2009年に基本特許の期限が切れたため、安価な製品が大量に開発されて3Dプリンターブームが出現し、現在では7000億円規模の一大産業になっています。
 人物の彫像、建築の模型、義手や義歯、ゴルフのパターなどを一品生産する分野などに利用されていますが、ドバイでは実用になるオフィスの建物を印刷技術で生産していますし、ヨーロッパでは月面に3Dプリンターを送り、遠隔操作で基地を建設するプロジェクトも進んでいます。
 さらに3Dプリンターに食材を投入し選択ボタンを押すと、スパゲッティー、ピザ、ハンバーグなどを作り出す装置もアメリカでは通信販売されていますし、生体細胞を素材にして人工の皮膚や耳を印刷する研究も進んでいます。

 本題の銃ですが、2013年5月に世間を騒がす事件がありました。
 3Dプリンターで9個の部品をプラスチックで作り、組み立てるとピストルができる設計図をアメリカの組織がインターネットで公表したのです。
 司法省は削除を命じましたが、公開されていた2日間ほどの間に10万程度ダウンロードされ、世界に設計図が拡散してしまいました。
 プラスチックですから数発程度しか発射できませんので実用になるピストルではありませんが、3Dプリンターの潜在力を知らしめることになりました。
 アメリカで流通している銃器には製造登録番号が刻印されていますが、法律の隙間を利用して、80%は組み立てられており、20%の部品を組み立てれば、製造登録番号のない「DIY(ドゥーイット・ヨアセルフ)銃」が製造できるキットが発売され、対応できないほど注文が殺到しているそうです。
 また禁止されるであろう連射装置の「バンプストック」を3Dプリンターで製造するための情報もインターネット上で流通しています。
 アメリカ人が銃を信奉している実態がうかがえます。
 しかし、数万円程度で購入できる簡易な3Dプリンターはプラスチックで部品を製造しますが、これは200℃前後で溶けてしまうので、多分、1発、上手くいっても発射したら壊れてしまいます。

 一方、金属の粉末を高温で燃結する3Dプリンターで部品を作って組み立てれば、普通の鉄砲と同じ程度の耐用性はありますが、そのプリンターは1000万円以上しますから、個人が趣味でピストルやライフルを製造するのでは採算が取れません。
 しかし、3Dプリンターは急速に価格が低下していきますから、今後、自家製のピストルやライフルがアメリカに溢れるかもしれません。
 参考までに日本では、3Dプリンターで製造すると犯罪になるものは銃器、硬貨、錠前を解錠するピッキングの道具がありますし、公共空間で販売などすると問題になるものは他人の印鑑、鍵、警察や消防の紋章や議員バッジ、殺傷力のある刃物、わいせつ物などがありますので、注意が必要です。
 包丁は料理に使えるが凶器にもなるように、技術は使い方次第で、どのように社会が技術を管理していくかが、ますます重要な時代になると思います。





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