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論文

 昨日(4月18日)は残念ながら大谷翔平選手は敗戦投手になってしまいましたが、シーズン初めから大活躍をし、田中将大投手、ダルビッシュ有投手、前田健太投手などの活躍もあり、日本でもアメリカのプロ野球「メジャーリーグベースボール(MLB)」の人気が急速に高まっています。
 プレーが豪快なことと、その背景にあるビッグデータを活用したデータ野球が面白いからだと思います。
 豪快の代表はホームランの打ち合いです。
 昨年、MLBの全試合で飛び出したホームランは6105本でしたが、これは1試合平均で2.5本になります。
 一方、日本のプロ野球では1501本で、1試合平均は1.7本ですから、MLBの試合では平均1.5倍のホームランが飛び出していることになります。

 田中将大投手がMLBのボールはよく飛ぶと言っていましたが、その影響や球場の広さなども関係あるかもしれませんが、ホームランが多くなった背景には「フライボール革命」と言われる、ビッグデータ解析の結果があるのです。
 MLBの試合で飛び出したホームランについて計測したところ、打った瞬間の初速が時速158km以上、飛び出し角度が30度前後の時に、もっともホームランが飛び出しているという結果が出ています。
 実際に時速161km、角度27度で飛び出した場合は52%がホームランになっていますが、20度の場合は3%でしかないという分析結果が発表されています。

 このような分析が可能になった背景には、2015年からMLBの試合が行われるすべての球場に軍事用レーダーと多数のビデオカメラが備え付けた「スタットキャスト」というシステムが導入されたからです。
 これで投手の投げる一球一球について、速度や回転数、打者の打った打球の初速、角度、飛距離、外野手の守備位置、打球の落下地点までの距離、走って行った速度、そのルートなどをすべて記録して分析できるようになりました。

 それがどのような成果を発揮しているかをご説明する前に、MLBにビッグデータが導入された歴史をご紹介したいと思います。
 最初は1970年代から始まりますが、野球の統計分析をしていたビル・ジェームズが従来の野球の作戦には間違いが一杯あるということを発見し、そこから「セイバーメトリクス」という理論体系が構築されました。
 セイバーというのはアメリカ野球学会のことです。
 バントは進塁には効果があるが、確実にアウトが一つ増えるので打った方が良いとか、盗塁は過去に7割以上成功している選手以外は実行しない方がいいというような事例があります。
 それを活用して大成功したのが「オークランド・アスレチックス」で、作家のマイケル・ルイスが2003年に『マネーボール』というノンフィクションで紹介し、ブラッド・ピット主演の映画にもなって話題になりました。
 当時のオークランド・アスレチックスは選手の年棒の合計が全米30球団の下から3番目で、ニューヨーク・ヤンキースの3分の1しかない貧乏球団で、そのジェネラル・マネージャーになったビリー・ビーンがセイバーメトリクスを駆使して球団を強くするのに成功したという物語です。
 一例では、野手は打率で評価しますが、打率は四死球を除いた打席数のうち出塁した比率で、四死球は数えていません。
 出塁するという観点では同じ効果ですが、従来は高打率の選手が良いという評価でした。しかし四死球の効果は同じどころか、投手へのダメージはより大きいということで打率ではなく、出塁率、すなわち全打席のうち出塁した比率で評価しろというわけです。
 しかも、一般には打率が高い選手よりも給料も安いというわけです。

 次に話題になったのが「ピッツバーグ・パイレーツ」ですが、ここも選手の年棒の合計がサンフランシスコ・ドジャースの4割しかない貧乏球団でした。
 2011年から監督になったクリント・ハードルが利用したのがセイバーメトリクスで、登場した有名な作戦が守備シフトです。
 打者の過去の打球の方向を分析し、極端な場合は内野手を4人とも1、2塁間に集め、2、3塁間は無人にして守るという作戦で大成功し、2013年と14にはワイルドカードに進出するまで躍進しました。
 この経緯はトラヴィス・ソーネックの『ビッグデータ・ベースボール』(2015)というノンフィクションをお読みいただくと詳細に紹介されています。

 そして2015年から新登場したのが「スタットキャスト」です。
 先ほどご紹介した「フライボール革命」が一例ですが、それ以外に外野手の守備を評価する「CP(キャッチ・プロバビリティ:捕獲率)」と「OAA(アウト・アバブ・アベレージ:平均以上の捕獲率)」という指標が話題になっています。
 MLBの試合中継で外野にフライが飛ぶと、外野手がときどき見事なダイビング・キャッチをしますが、画面に打球の飛んだ軌跡と選手が走ってきた軌跡が表示され、キャッチした瞬間に「キャッチ・プロバビリティ何%」という数字が表示されます。
 この打球や選手の軌跡は「スタットキャスト」で計測されていますが、この打球を平均的な外野手であれば捕ることのできる確率がキャッチ・プロバビリティで、例えば25%であれば、平均的な選手は4回に1回しか捕ることができないという意味です。

 もし上手い選手がキャッチすると、その選手には「1−0.25」で、0.75ポイントが与えられ、取れなかった場合はー0.25になります。
 この点数を年間合計した数字が「アウト・アバブ・アベレージ」になり、点数が多いほど上手な外野手ということになり、評価も給料も上がるというわけです。
 206人の外野手について昨年の点数が発表されていますが、1位はミネソタ・ツインズのバイロン・バクストンで29点、2位がアトランタ・ブレーブスのエンダー・インシアルテで21点、3位がシカゴ・ホワイトソックスのアダム・エンゲルで20点でした。
 昨年、アメリカン・リーグのホームラン王になったニューヨーク・ヤンキーズのアーロン・ジャッジは17位で9点、ナショナル・リーグのホームラン王で今年ニューヨーク・ヤンキースに移籍したマイク・スタントンは140位で−2点、イチローは115位で−1点でした。
 このようなデータ重視の風潮について「野球はデータではなく、人間がプレーするもの」という反対意見もありますが、観戦の新しい興味を引き起こすものだと思います。





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