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論文

 ノーベル賞は秋の話題のはずですが、今年は早々と話題になっています。
 まずノーベル文学賞が今年は発表されないということになりました。
 ノーベル賞を創設したアフルレッド・ノーベルは母国語のスウェーデン語は当然として、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロシア語にも堪能で、それらの言葉の文学作品の翻訳を趣味にしていたほどした。
 そこで遺言で「理想的な方向を示す文学を表彰の対象にした」という言葉を残し、科学分野だけではなく文学も対象になった経緯があります。
 つまり、ノーベルの想い入れが強い賞ということになります。
 そのような背景のある文学賞はスウェーデン・アカデミーの会員によって選考されますが、その1人である女性会員の夫が何人かの女性に性的暴行で糾弾されるとともに、受賞者の情報を事前に漏洩していたということも発覚しました。
 このアカデミーは230年以上前の1786年にスウェーデン国王が設立し、作家や学者など18名の終身会員で構成されていますが、そのうち8名の会員が騒動のために活動を辞退したため、当面、受賞者の選考は見送り、発表は来年の受賞者とともに発表することになりました。

 もう一つの科学分野ではない賞はノーベル平和賞ですが、これについてもノーベルの強い想いがあります。
 ノーベルはダイナマイトの発明で巨額の富を得ますが、本来は土木事業などを容易にするはずの爆薬が戦争に使用され、多数の死傷者を発生させる原因になったことで、世間から批判もありました。
 そこで批判に答える形で平和賞の創設を遺言に残し「国家間の友好関係、軍備の削減廃止、平和会議の開催推進のために最大最善の貢献をした人物・団体に授与する」ことを目的としました。

 その平和賞が騒がれているのは4月28日にトランプ大統領のミシガン州の集会で、支援者が会場から「ノーベル!ノーベル!」と声援したことが話題になり、さらに2000年にノーベル平和賞を受賞した金大中(キムデジュン)大統領の夫人から文在寅(ムンジェイン)大統領に「大きな仕事を成し遂げられた。ノーベル平和賞を受賞すべき」という祝電が送られたことに対して、文大統領が「ノーベル平和賞はトランプ大統領が受け取るべきで、我々は平和さえもたらすことができれば良い」と発言したことも話題になりました。
 5月2日にはアメリカの共和党の下院議員18名が連名で、ノーベル委員会に「トランプ大統領をノーベル平和賞に推薦した」と発表し、これも話題になっています。
 現在、イギリスの賭けの元締め(ブックメーカー)の予想では1位が「文在寅韓国大統領と金正恩北朝鮮委員長」で2位がトランプ大統領となっています。
 しかし、5月下旬に開催予定の米朝首脳会談の結果次第ではトランプ大統領が一気に1位になる可能性もあります。

 そこでこれまでノーベル平和賞はどのような状況で授与されてきたかを振り返ってみたいと思います。
 1901年から始まり、第一次世界大戦や第二次世界大戦の時は受賞者なしですが、これまで117年間で104名の個人と27の団体が受賞しています。
 その個人のうち半分以上の56名が政治家で、その半分の27名が大統領や首相という国家の代表者です。
 この数字からもわかるように、平和賞は、その目的から政治的な判断が左右するため、これまでも選考結果には疑問がある事例がいくつもあります。
 ノーベル平和賞を受賞しているアメリカの大統領は4名、副大統領が2名いますが、1901年にノーベル平和賞が創設されてから現在まで20名の大統領が就任していますから平均すれば5人に1人がノーベル平和賞を受賞していることになります。
 流石に大国で世界の平和に貢献しているかのようですが、必ずしもそうではない例もあります。
 第26代のセオドア・ルーズベルト大統領はノーベル賞が創設された1901年に就任していますが、1906年の在任中にアメリカ人として最初の受賞をしています。
 業績は日本の小村寿太郎外相の要請により日露戦争の停戦を実現し、日本とロシアにポーツマス条約を締結させたことです。
 しかし、ルーズベルト大統領は親日家と言われますが、アメリカ海軍次官であった1897年に、日本はアメリカが太平洋に進出していくときに邪魔になるとの判断から、海軍に日本を完膚なきまでに打倒する戦略の作成を命じていますから、後になってみれば、日本にとって納得できない受賞でした。

 第44代のオバマ大統領は2009年に大統領に就任した年に受賞していますが、理由はプラハで行った「核なき世界」を訴えた演説に代表される核軍縮政策を進めたという理由です。
 一昨日、トランプ大統領が離脱を表明した「イランの核合意」はオバマ大統領が締結したものですが、それ以外に「核なき世界」に向けた明確な業績はなく、「演説だけで受賞した」という意見もあるほどです。
 2000年に韓国の金大中(きむでじゅん)大統領は初めて南北首脳会談を実現したことで、その年に受賞していますが、大統領就任直後から受賞のための組織的な工作をし、北朝鮮に5億ドルを不法に送金していたことが、後にアメリカへ亡命した側近に暴露され、「カネで買った平和賞」という批判も発生しています。

 ノーベル賞の中で科学系の3つの賞や文学賞は過去の実績に対して与えられていますが、平和賞だけは、これらの例でもわかるように、期待で与えられる例がいくつもあります。
 そう考えると、トランプ大統領は朝鮮半島の和平を実現する期待で平和賞を受賞する可能性は十分にありますから、米朝会談を途中で退席するようなことがなければ、意外に掛け率で1番になる可能性もありそうですし、南北朝鮮の首脳の受賞も十分にありえることだと思います。





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