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論文

 今日は現代社会になくてはならないプラスチックについての話です。
 人類が社会で使用している材料は4種類に大別されます。
 古くから使用してきたのは、石や粘土のような無機物、金銀銅鉄などの金属、毛皮、木材、綿、麻など天然の動物や植物の3種類ですが、ここ70〜80年くらいで急速に利用量が増えてきたのがプラスチックという人間が合成した材料です。
 いずれの材料も問題を抱えており、無機物の代表であるセメントは素材の石灰岩が枯渇するのは当分先ですが、掘削のため自然環境を破壊しているという問題があります。
 金属材料は金や銀では10数年で新規の採掘はできなくなると予測されていますし、天然素材は一部の動物や植物が狩猟や採集の対象となり、絶滅の危機に直面するなど自然環境の破壊という問題を抱えています。

 プラスチックの原料は石油ですが、現状では原油消費量全体の3%弱ですから、当分、原料供給は大丈夫ですが、新しい問題が発生してきました。
 一部のプラスチックは19世紀中頃に発明されていますが、現在使用されているプラスチックが本格的に生産されるようになったのは1950年代からです。
 ところが大変に便利な材料だということで、生産が急速に増加し、1950年には世界全体の生産量は200万トン程度でしたが、現在では4億トン近くになり、70年ほどで200倍に増加しています。
 これまで生産されたすべてを累積すると、80億トン程度になっています。
 これがどの程度なのかを分かりやすく説明します。
 今年は東京の霞ヶ関ビルディングの竣工から50年目ですが、この建物の重量は約10万トンですから、最近の年間生産量は重量で霞ヶ関ビルディングの4000本分、これまでの累積生産量は8万本分という量です。

 このプラスチックの用途は国によって多少違いますが、日本では包装材料やペットボトルなどの容器として50%、建材やパイプとして15%、電子部品や機械部品などに10%という比率です。
 包装材料やペットボトルに使われていることからも想像できるように、大半は捨てられ、現状でリサイクルされているのは10%弱、ゴミとして焼却されるのが10%強、それ以外の80%は埋め立てられたり、海に流れ出たりしています。
 焼却も二酸化炭素を発生しますから地球の大気温度上昇に影響しますので問題ですが、海に流れ出るプラスチックも深刻な問題になると憂慮されはじめ、2015年にドイツで開催されたG7でも世界的課題だと指摘されています。
 それを象徴する将来予測があります。
 2050年、すなわち今後30年後にはプラスチックの生産量は現在の4倍になると予測されていますが、かなりが廃棄されて海に流れ込み、その蓄積量が世界全体の海の魚の重量を越えることになるという驚くべき結果です。

 そのプラスチックのうちで直径が1ミリメートル(5ミリメートルという意見もある)以下のものを「マイクロプラスチック」と定義していますが、この出所はいろいろあります。
 もともと微小なプラスチックの粉末は歯磨粉、化粧品など家庭用品に含まれていますし、産業用の研磨材にも使用されていますから、下水に流れ出て海に到達しています。
 大きな比率を占めるのは洗濯機の中で化学繊維の衣料の一部が切れて排水と一緒に流れ出るものです。
 さらにペットボトルや食品容器などが海に流れ出て、波の力で壊れたり、紫外線の影響で分解されたりしてマイクロプラスチックになるものもあります。

 これがどのような問題をもたらすかは完全に明確にはされていませんが、懸念されるのは魚や貝などがエサと間違えて食べ、それが魚や貝の生存に影響するだけではなく、より大きい魚や鳥や怪獣が魚や貝を食べて生物濃縮が進んで人間にも影響する懸念もあります。
 またマイクロプラスチックに魚の卵や海藻の種子が付着して広範に拡散すると、それらの生物が従来は繁殖していなかった海洋に進出し、海洋の生物多様性が脅かされる可能性も危惧されています。

 そこで研究されているのが、プラスチックを燃やしたり捨てたりするのではなく、生物の力を使って処理しようという方法です。
 スペインの研究者がミツバチの巣の蜜蝋を食べてしまうハチノスツヅリガの幼虫「ワックスワーム」をポリ袋に入れておいたところ、しばらくしてポリ袋が穴だらけになって幼虫が逃げ出していました。
 これは蜜蝋とポリエチレンが同じような構造を持つ高分子なので食べることができたのですが、思いついたのはポリ袋をワックスワームの餌にして廃棄物処理をすることです。

 そのようにして育てた幼虫を人間の蛋白源にすることも可能になります。
 昆虫食は勘弁してほしいという方々には別の研究もあります。
 イギリスのポーツマス大学とアメリカの国立再生可能エネルギー研究所は日本のリサイクル工場で発見された「プラスチックを食べる酵素を生産するバクテリア」の分子構造を一部変更したところ、衣類やペットボトルなどに使われているプラスチックを食べる能力が増大しました。
 さらに発展させて産業として成り立つほどに酵素の能力を向上させ、廃棄されるプラスチックを原材料の石油の組成に戻すことが可能になれば、完全なリサイクルが実現し、ゴミが減るだけではなく、原料の石油の消費を減らすことも可能になります。
 しかし、このような幼虫や酵素が処理施設の外部に逃げ出せば、地球上のあらゆるプラスチック製品を食べ尽くして行くというSF小説の世界になりかねません。
 やはり、当面、私たちがするべきことは使い捨ての容器などを減らすことと確実に回収してゴミにしないことだと思います。





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