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論文

 今回は観光戦略で新しく登場してきたデスティネーション・マネージメント(DM)という概念を紹介させていただきます。
 ここ10年ほど「インバウンド」という言葉が使われるようになりました。
 海外から日本に来る外国人の人数や消費という意味で、簡単に言えば海外からのビジネス旅行者や観光客を増やし、お金を日本に落としてもらおうという戦略です。
 長期的に調べてみると、日本がバブル経済で豊かであった1980年代から90年代にかけて、日本から海外に出かける人が急増し、1980年には400万人程度でしたが、90年には1000万人を突破しました。
 その後も増加しましたが、バブル経済が崩壊した90年代後半からは頭打ちになり、ここ20年ほどは1600万人前後で推移しています。
 しかし、来日する外国人は着実に増え、1980年代は200万人程度でしたが、2000年頃には500万人を突破、2015年には2000万人になって出国者数と入国者数が逆転、昨年は約3000万人と爆発的に増えています。
 それに伴って、外国人が日本で消費する国際観光収入も2011年の8000億円から昨年は4兆4000億円と7年で5倍以上に増加しています。

 そこで政府は強気の目標を設定し、東京五輪大会の開かれる2020年には4000万人で8兆円、2030年には6000万人で15兆円を目指すとしています。
 昨年の貿易収支は3兆円ですから、実現すれば素晴らしいことになります。
 しかし、世界全体で見ると日本はまだ観光大国というほどではありません。
 国際観光客数が人口の何倍になるかという数字を調べて見ると、人口の少ないクロアチアの3・2倍という観光大国もありますが、人口1000万人以上の国ではギリシャが2・3倍、スペインが1・6倍、フランスが1・3倍であるのに、日本は0・2倍でしかありません。仮に4000万人になっても0・3倍です。
 観光収入についても、国内総生産(GDP)あたりの国際観光収入の比率ではタイが10%、マレーシアが6%、スペインが5%ですが、日本は昨年で0・8%、2020年で1・4%程度ですから、これも観光大国ではありません。

 そこで登場してきたのがデスティネーション・マネージメントで、簡単に紹介すれば地域を挙げて観光を盛り上げていこうという活動で、岐阜県高山市、和歌山県田辺市、兵庫県豊岡市などが、その活動を推進する組織DMO(オーガナイゼーション)を立ち上げています。
 活動内容は官民一体の広域連携で観光に関する情報を収集し、宿泊施設や観光施設の水準を向上させ、観光情報を観光客に提供しようということです。
 そのような活動をすると、地域には温泉があります、絶景があります、国宝がありますというモノ中心になりがちですが、何度も日本に来た人には伝統文化や現代文化、農村で田植えや稲刈り、山村で植林や伐採など、漁村で地引網を曳くというようなコト消費といわれる活動に人気があります。
 観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、日本の現代文化を体験したいという比率はフランス人の32%、オーストラリア人の27%、カナダ人の26%になっていますし、農山漁村体験についてもアメリカ人の15%、フランス人の14%、ロシア人の13%が希望しています。

 そこで意外なモノやコトが外国人に評価されている、すなわち観光資源になるという事例を紹介させていただきます。
 私が創刊号から愛読している『ジャパン・クラス』という隔月刊の雑誌があるのですが、そこに紹介されている例を中心に紹介したいと思います。
 まず日常生活を代表する衣食住の「衣」からです。
 「浴衣」は最近では観光地で外国人が着て歩いている時代になりましたが、「女性の伝統衣装として世界一だと思う」という意見もあるほどです。
 「ジーンズ」はアメリカの作業用ズボンでしたが、現在では岡山県の児島の製品が世界を席巻し、外国人も買い物に来るほどです。
 「食」では昼食に「弁当」を持っていく風習に人気があり、その影響で「弁当箱」が関心の的になり、アマゾンで日本製の弁当箱を買った人のコメントで「信じられないほど可愛い上に、こんな便利で驚いた」というわけです。
 ロウ細工の「食品サンプル」も外国人が食事の注文を的確にできるというだけではなく、土産品として人気ですし、製作体験も行われています。
 日本産の「ウィスキー」も大人気です。2016年の「世界トップ50バー」のウィスキーの売上の1位はニッカ、3位が「山崎」、4位が「響」、5位が「白州」だったそうで、最近では在庫がなくなった製品さえあります。
 昨年、北海道余市のニッカの工場の見学に行った時、出口付近にある土産品の建物の中は外国人で一杯でした。
 「住」は日本の木造住宅が人気で、新国立競技場の設計をした建築家の隈研吾氏は国産木材を使用していることで有名ですが、その業績で「持続可能な建築」賞という国際的な賞を受賞しているほどです。

 意外な人気は「ラブホテル」で「日本人の独創性と想像力は本当に素晴らしい」と外国人から絶賛です。
 40年ほど前のことですが、名古屋市で大規模な国際会議を開いた時、当時はホテルが不足しており、苦肉の策で参加者の宿泊用にラブホテルを借り切って利用したところ、そこに宿泊できなかった人たちから苦情があったという本当の話があるほどです。
 それ以外に、日本のスーパーマーケットやコンビニエンス・ストアも買い物をした外国人に人気で、アメリカ人の「なぜ他の国は、この素晴らしい国の真似をしないんだ」という笑い話のようなコメントもあります。
 ご存知のように、どちらも元祖はアメリカです。
 温泉も絶景も国宝も観光資源であることに間違いありませんが、1年に4000万人もの人々が来れば、リピーターも増えていきますから、通り一遍ではない資源を発掘することこそデスティネーション・マネージメントの役割だと思います。





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