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論文

 今日は「脳は口ほどにものを言う」という新しい技術を紹介させていただきます。
 5月24日に「フェイシャル・プロファイリング」と言う「顔は口ほどにものを言う」技術を紹介させていただきました。
 要約しますと、顔の表情から人間の性格を分析する技術ですが、最先端では職業さえ推定することができ、実際に多数の顔写真の中からテロリストを発見することに成功している例もあることを紹介しました。
 人間がコミュニケーションに使用する最大の手段は言葉ですが、残念ながら、言葉は嘘をつくことができる手段です。
 そこで本当のことを知るために、言葉以外の手段として顔の表情などを使うのですが、これも内心では相手を嫌いだと思っていても笑顔で接することもできるので、やはり正確とは言えません。
 それでは言葉や表情より前の段階を調べようと、脳波で本心を探ろうと言う研究が進んできました。
 その中でも有名な技術は嘘発見器(ポリグラフ)で、すでに1920年代から開発されていますが、それを使って本音を知ろうと言うわけです。

 本音を知りたい分野の一つが商品の好みを調べる嗜好調査で、ここに脳波を利用する「ニューロマーケティング」という調査方法が登場してきました。
 消費者がどのような商品を好むかを調べる市場調査は、これまでマーケターと言われる市場調査の専門家が消費者に質問して、その答えで判断していたのですが、これには2つの問題がありました。
 一つは同じ言葉でも人によって意味が違うということです。
 「格好いい」とか「夏らしい洋服」と言っても、人それぞれです。
 もう一つは、消費者は最初に好みで商品を選んで、その後で納得するために「格好いいから」とか「値打ちだから」とか理由をつけるので、本心がわからないと言う問題です。
 そこで本心を調べる方法が研究されてきましたが、以前から使われてきた方法が「アイ・マーク・レコーダ」という装置を使って人間の視線がどこを見ているかを追跡する方法です。
 例えば、新しいデザインの洋服を見せて、視線が襟のデザインに向くか、袖口のデザインに向くか、全体の模様を眺めるかなどを調べて、商品の設計に応用すると言うわけです。

 これは「目は口ほどにものを言う」ということになりますが、好感を持って襟の部分を眺めるのか、好みではないので眺めるかなどは適切に判断できません。
 そこで最近出てきたのが「脳は口ほどにものを言う」と言う手段で、消費者にアイ・マーク・レコーダと脳波計を装着してもらい、商品を見たときの脳波の変化を調べて、どの部分を眺めた時に好意的な反応したか、どの部分には反応がなかったかなどを調べようと言うわけで、これが「ニューロマーケティング」と名付けられている方法です。
 鉄道会社が新型の車両の乗り心地を調べるときに、実験車両に人を乗せて脳波で反応を調べるとか、酒造会社が新しい酒を飲んでもらって脳波で好みを調べるためなどに使い始めています。

 このような技術は先進諸国のどこでも開発していますが、商品開発に利用する程度です。ところが、中国がこの方法を政府主導で大々的に利用しはじめ話題になっています。
 中国の寧波(ねいは)大学で、ヘルメットに脳波計を組み込んだ「ニューロキャップ」という装置を開発し、工場の製造現場で作業する人が装着して脳波をリアルタイムで収集、人工知能が仕事のペースが全体の流れに合っていないと判断すると、他の仕事に異動させたり、休暇を取らせたりしています。
 北京と上海を結ぶ高速鉄道の運転士はツバの部分に脳波計を組込んだ帽子を被って運転しており、脳波の状態から疲労や集中力の低下が判明すると、運転席で警報がなるというシステムがすでに導入されています。
 航空会社でもパイロットに同様の帽子を着用させ、パイロットが安全に操縦できる状態かを判断して、眠たそうにしているなど問題があれば警報を発するようにする計画も進んでいます。
 さらに詳細は明らかにされていませんが、この技術を軍隊に導入する検討も進んでいるようです。
 目指すところは、産業競争力を上げることと、社会の治安維持をすることのようです。

 次のステップは機械の操作を脳波で行うことです。
 1982年に公開されたクリント・イーストウッド製作・主演の映画「ファイアフォックス」では、ソビエトが極秘で開発した完全なスティルス性能を持つ最高速度マッハ6の戦闘機をイーストウッドが演ずる主人公が盗み出す物語ですが、その戦闘機の機関砲やミサイルはパイロットがロシア語で発射しようと考えると発射できる仕組みでした。
 この映画から40年近く経過した現在、このSF映画の世界は実現しはじめ、2014年にはフライトシミュレータを使った実験ですが、ミュンヘン工科大学で脳波を測定できるヘルメットを被った人間が、操縦桿に触ることなく、思っただけで離着陸に成功しています。
 すでに実用になっている製品もあり、脳波でギアシフトする自転車、脳波で操縦するドローンなどが登場しています。

 私たちは、電話や電子メールでの言葉を監視され、居場所や買物履歴など行動も把握され、指紋、声紋、掌紋、顔面など生体情報も監視され、ついに頭の中まで監視される時代になり、残るのは、存在するかどうかは定かではありませんが、魂くらいになっている社会に生活していることになります。
 これを逆行させることは不可能ですが、そのような社会に生活しているということを自覚して行動する必要があると思います。





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