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論文

 先週5月1日は世界最南端の町プエルト・ウィリアムスから放送地させていただきましたが、その翌日からのクライマックスを御紹介したいと思います。
 早朝6時に機関砲3門を搭載した巡視艇「イサザ(ISAZA)」でプエルト・ウィリアムスの桟橋から出航し、ビーグル水道を西方に向い、ムライ海峡という狭い水路に入って、一路南方に進行しました。後側や右側には万年雪をかぶった山々が見え、なかなかいい景色でした。
 南米大陸を横断する水路は2つあり、ひとつは1520年に、マゼランが苦闘の末に発見したマゼラン海峡ですが、その南側にあるのがビーグル水道です。ここは1834年に生物学者のチャールズ・ダーウィンを乗せたイギリスのビーグル号が通過したことから名付けられています。
 ウィーガント艦長は好人物で「あそこには海軍の施設があるから、疲れたら立寄って風呂にでも入れてもらえ」などと親切に案内してくれました。
 この辺りまでは両側に山が迫っているので、波も静かでしたが、ナッソウ湾という広い海域に入ると、次第に荒波になり、最大で3・5メートルほどの波高で船の揺れが大きくなり、来年はこのような海をカヌーで漕ぐのかと不安になっていたところ、ユーモアもある艦長が「ここがお前の墓場になるかもしれない」などと説明してくれた途端、これまで船酔いの経験がまったくなかったのですが、突然気分が悪くなり、洗面所に駆け込みました。ところが、安心したのは、私が吐いている隣の洗面台に水兵が駆け込んで来て、一緒に吐きながら、指を喉に突っ込んで吐けば楽になるなどと教えてくれ、次第に気分が良くなりました。

 出発してから7時間ほど経過した13時頃に遠方にホーン島が見え始め、ついに到達したと感激していたところ、私と一緒に行った友人の二人をホーン島に上陸させると言われ、驚きました。
 巡視艇は沖合い500メートルくらいに投錨し、海軍特製の救難服の新品をわざわざ着せてくれ、エンジン付きのゴムボート(ゾディアック)で島に向いましたが、浜辺があるわけではなく、崖の下の大きな石がゴロゴロしている岸辺に強引に船をつけて上陸しました。
 無人島だと思ったところ、出迎えの人が居て驚きましたが、海軍の軍人が奥さんと2匹のイヌとで灯台を守っているのです。まさに絶海の孤島に滞在しているので3ヶ月交替で、大変高額の手当てをもらっているそうです。
 急な崖を登って灯台のところまで行って、お茶を御馳走になっていたら、本船から風が急になってきたから早目に戻れという指令がきて、すぐに戻ったのですが、島の南側、すなわち南極に近いほうの海を眺めたところ、恐ろしい波で、確かにここを船で乗り切った人は「ケープ・ホナー」と尊敬されることも分かりました。
 今回、自力ではないのですが、私もホーン島に上陸したので「ケープポナー」くらいにはなったのではないかと思っており、これから食事をするときには、テーブルの上に足は投出しませんが、ヒジくらいはつかせてもらおうかと思っております(笑)。

 今回の訪問を海軍が支援してくれたのは特別の理由があります。
 チリはパタゴニアやイースター島など、世界で有名な観光地があるのですが、なにしろ世界の中心から遠く離れているので、なかなか観光客が来てくれないので熱心に観光の推進をしています。
 このホーン島が象徴する一帯は、アルゼンチンとの紛争があった時代には、ほとんどの島に地雷が敷設されて立ち入れませんでしたが、現在のような平和な状態になったので、観光地として利用したいという意向があり、先週の番組に登場していただいたウィッテル司令官などは、そのような構想を検討しています。
 しかし、荒々しい気象条件やすべてが無人島なので普通の観光は無理ですが、地域の自然や文化を理解した人たちが、十分な準備をして訪問してくることを期待しています。
 私の来年のカヌーでの周回は、そのテストケースとして期待されているようで、丁重に応対していただいたのだと思います。

 私はチリを訪問したのは今回が初めてですが、素晴らしい国だし、日本人に合う国だと思いました。
 第一にチリは南北に4500キロメートルの長さのある国で、多様な気候が揃っているので、砂漠の旅行から氷河の見物までできます。
 第二に西側はすべて海岸で、豊富な海産物があり、これも日本人好みで、しかも安いのです。例えば、プンタアレナスという南側で最大の都市のレストランで食事をしましたが、生ウニと海産物サラダとカニを食べ、しかもチリ名産のワインまで飲んで、一人5000円程度です。しかも、生ウニはドンブリ一杯というほどで腹痛になるのではないかと心配したほどです。
 そして、人柄が素晴らしく、正直で勤勉で正確で、昔の日本人を思い出させるような国民性で、しかも日本好きの人たちが多いのです。
 最大の難点は遠いということで、今回も首都のサンチャゴからサンパウロに4時間、サンパウロからニューヨークへ8時間、ニューヨークから東京へ13時間と、合計25時間以上も飛行機に乗らなければならないのですが、行く価値は十分にあると思います。





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