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論文

 今日は国民の祝日について考えてみたいと思います。
 明日7月20日は国民の祝日である「海の日」だった日です。
 すでに今週の月曜日の16日に休んだよと言われるかもしれませんが、1995年に祝日に制定された時は7月20日でした。
 ところが2003年に祝日法が改正され、通称「ハッピーマンデー制度」が成立し、三連休を実現するために、7月の第3月曜日を「海の日」にしたのです。
 「海の日」はどのような日かというと、海開きが行われる日ではなく、もともとは「海の記念日」でした。
 明治9年(1876)6月2日から明治天皇が東北地方を巡幸された時、「明治丸」という汽船で移動され、7月20日に横浜港に帰着されたことを記念し、1941年に記念日として制定されました。
 国民の祝日に関する法律では「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国家日本の繁栄を願う」という目的で制定されたことになっています。

 政府は「世界の中で「海の日」を国民の祝日としている国は日本だけ」と自慢していますが、実は「山の日」も日本だけの国民の祝日です。
 これは「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」という目的で2016年に8月11日を国民の祝日「山の日」に制定したのですが、「海の日」のように由緒があるわけではなく、日本山岳会などが「海の日」があるなら「山の日」もということで主張し、最初はお盆が始まる前日の8月12日を「山の日」にすることになりました。
 しかし8月12日は1985年に日本航空123便が群馬県の山中に墜落した日のため、祝日にするのには違和感があるという地元からの意見を反映し、8月11日になったという経緯です。

 この結果、日本には国民の祝日が16日もあることになりましたが、これは世界でも多く、かつ他の国とは内容も異なっています。
 祝日の日数だけで比較すると、スリランカの26日、イランの25日、カンボジアの22日、アルゼンチンの20日など、日本より多い国は何カ国かありますが、それらの国の多くは宗教に関係する記念日が多く、スリランカの26日のうち、13日は毎月の満月の日を祝う満月祭になっていますし、インドネシアは複数の宗教が国民の間に浸透しているので、キリスト教関係の「キリスト受難の日」「キリスト昇天祭」、イスラム教関係の「ムハマッド昇天祭」「ムハマッド生誕の日」、仏教関係の「釈迦歴新年」「仏教祭」などと多くが宗教関係の祝日です。
 インドは17の国民の祝日が制定されていますが、数多くの宗教が信仰されていますので、共和国記念日、独立記念日、マハトマ・ガンジー生誕日以外はすべて宗教関係の祝日です。

 日本は一般に先進諸国といわれる国々と 比較すると祝日の数が多く、かつ他の国にはない建国や宗教に関係しない祝日が多いという特色のある国です。
 まず数を比べると、ドイツとイングランドが8日、スコットランド、オーストラリア、ニュージーランドが9日、アメリカ、フランス、スペインが11日という程度です。
 しかもイングランドやスコットランドにはバンクホリデーという月曜日に銀行が休業する日が含まれており、祝日というよりは仕事休みの日なので、実質は4日か5日しかありません。
 さらにいずれの国も1月1日の新年以外はキリスト昇天祭、クリスマスなど宗教に関係する祝日か戦勝記念日や独立記念日など国家の成立に関係する日のみで、日本のように「成人の日」「子供の日」「海の日」「山の日」「敬老の日」「体育の日」「文化の日」などが祝日の半分近いというのは珍しい国です。

 なぜかという理由について、このような祝日にでもしない限り、日本人が休暇を取らないからではないかという、うがった意見があります。
 まず日本は祝日による休日が多い半面、有給休暇が認められている日数が少ないという事実があります。
 ドイツ、フランス、イタリアの祝日は11日で日本の16日よりも少ないのですが、労働者に与えられている有給休暇の平均日数(2014)はドイツとフランスは30日、イタリアは28日であるのに、日本は18日しかありません。
 しかもその消化日数は2017年の調査で、フランス、スペイン、オーストラリアは100%、すなわちすべての有給休暇は休んでいますが、日本は50%で、調査をした30カ国で韓国を上回っただけでした。

 その背景として、有給休暇を取得するのに罪悪感を感じるという人が多いという数字があります。
 これも2017年の調査ですが、日本は63%、韓国が61%と断然多く、以下はアメリカが31%、フランスが23%、オーストラリアが20%、イタリアが19%、スペインが18%と大差です。
 これは労働ということへの価値観の差が反映しています。
 キリスト教やユダヤ教では労働は神から与えられた罰だと考えられ、そこから逃れたいという意識があるのに、日本や韓国など儒教精神の影響がある国では労働は価値のある仕事だと考えられるので、ついつい働いてしまうというわけです。
 その結果、罰から早く逃れたいという欧米は働くときは集中し、なるべく早く労働から解放されたいという意識になるのではないかと推察されます。
 これには数字の裏付けがあります。労働生産性と言われる時間あたりの付加価値額です。
 OECD加盟国の2016年の数字によると、有給休暇取得率の高いアメリカの労働生産性は6位(日本の1.45倍)、フランスは9位(1.35倍)、オーストラリアは14位(1.16倍)であるのに、日本は20位、韓国は31位です。
 しかも日本は最近下がったわけではなく、過去46年間、19位から21位の間を上下している状態です。
 ゆったりと長時間働くか、短時間に集中的に仕事をして、切り替えて休みを楽しむか、労働についての価値観が違うのでどちらが良いかはわかりませんが、少なくとも、これ以上、祝日を増やせば、さらに労働生産性が下がることは確かだと思います。





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