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論文

 明後日9月15日は何の日かということですが、丁度10年前の2008年にリーマンショックが発生した日です。
 アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻し、世界全体に金融危機は波及する発端となった事件がリーマンショックでした。
 この事件には伏線があり、前年にアメリカでサブプライム住宅ローン危機が発生しました。
 貸付の相手として返済能力が十分にある顧客をプライム層と言い、それ以下の層をサブプライム層というのですが、その階層の人々が住宅を購入する場合に資金を貸し付けていたのがサブプライム住宅ローンでした。
 当初は住宅の価格が上がっていたので、このローンの評価は高く問題はなかったのですが、2007年頃から住宅価格が下がり始め、サブプライム住宅ローン自体が不良債権になり始めただけではなく、この債権を抱き合わせた金融商品の価値も下がり始めました。
 その結果、リーマン・ブラザーズも多大な損失を抱え、ついに10年前の9月15日(月)に連邦倒産法第11章(通称チャプターイレブン)により倒産処理手続きをすることを要請しました。
 これに対する連邦政府の対応が遅れたため、世界規模の金融危機になり、日本でも日経平均株価が前の週の最後の12214円から一時は7000円弱と半分近くに下落しました。

 このような事件をバブル経済崩壊と言いますが、歴史上、何度も繰り返し発生しています。
 世界最初のバブル経済事件と言われるのは17世紀前半にオランダで発生した「チューリップバブル事件」です。
 現在のオランダは花の生産では世界2位の大国ですが、とりわけチューリップの栽培で有名です。
 しかし、チューリップはオランダ原産ではなく、16世紀に原産地のオスマン帝国'(トルコ)からヨーロッパにもたらされた花でした。
 最初は植物学者や貴族が趣味で栽培していただけですが、球根がウイルスに感染すると珍しい模様の花が咲くことに興味を持った市民が栽培するようになり、急速に普及しました。
 17世紀前半のオランダの経済水準は世界最高であったことも影響し、珍しい模様のチューリップが高値で取引される投機対象になりました。
 その中でも最高の値段をつけられたのが「センペル・アウグストゥス」という白地に赤色の縞模様の入ったチューリップで、1624年には、その球根1個が当時の労働者の年間賃金の3倍から6倍で取引されるようになりました。
 現在の日本に当てはめてみれば、球根1個が1000万円から2000万円ということになります。
 さらに取引が過熱して実物の球根がないまま空売りが普通になり、1637年には球根1個で、現在の価格で4000万円を突破し、アムステルダムの豪華マンションの値段に匹敵するまでになりました。
 ついに1637年2月5日に崩壊し、3000人以上の人が破産、自殺する人も登場して終了しました。

 もう一つ歴史的に有名な「南海泡沫事件(サウスシー・バブル)」を紹介したいと思います。
 17世紀の最後から18世紀の初期にかけて、イギリスは9年戦争、スペイン継承戦争、アン女王戦争などを戦い、財政が逼迫していました。
 そこで1711年に財務大臣ロバート・ハーレーが南海会社を設立し、イギリス国債の一部を引き受け、その見返りに南米大陸のスペイン植民地との貿易の独占権や南米大陸への奴隷販売の独占権を獲得しました。
 しかし、会社が経営困難になったため、自社株とイギリス国債を時価で交換する仕組みを作り、株が値上がりするようにします。
 戦争の時代が終わって泰平の時代になっていたイギリス国民は次々に南海会社に投資し、貿易は不振であったにもかかわらず、1720年1月に100ポンドであった株は5月に700ポンド、6月に1050ポンドと、半年で10倍以上になりますが、一気に破綻し、多数の破産者や自殺者が出て幕を閉じました。

 それ以外にも第一次世界大戦が終了した1920年代後半にヨーロッパからアメリカに資金が大量に移動して、1929年10月にニューヨーク証券取引所から発生した「ウォール街大暴落事件」、1990年代中頃のタイでの不動産バブルが破綻して発生した「アジア通貨危機」など、世界では繰り返しバブル崩壊が発生しています。
 日本も例外ではなく、明治初期には輸入された愛玩用のウサギが人気になってウサギのオークションが実施されて値段が高騰した「ウサギバブル事件」、第一次世界大戦で好景気になった1910年代後半の「大正バブル」などがあります。

 現在話題になっているスルガ銀行の主導した「カボチャの馬車」も同様です。冷静になってみれば、チューリップの球根1個が10億円するとか、豪華アパート1軒と同じ値段になるということはありえないということが分かります。
 日本でも、ウサギ1羽が明治初期の小学校教員の月給の10倍以上に相当する500万円近い値段になるということも冷静になってみればおかしいことはわかるはずです。
 それでも時々、バブル事件が発生するのは、残念ながら人間に欲望があるという理由しか思い当たりません。
 18世紀前半にイギリスで発刊された「カトの手紙」という文章があります。
 カトとは古代ローマの高潔な性格で知られた政治家マルクス・ポルキウス・カト・ウティケンシスの名前で、その名前を使って南海泡沫事件を戒めた文章がありますので、それを最後に紹介したいと思います。
 「人間の愚かさには限りがない。それでなければ同じ落とし穴に1000回も落ちるわけがない。過去の失敗を覚えていても、またしても失敗を繰り返すことになる」
 リーマンショックから10年目の時期に、過去の失敗を噛みしめる必要があると思います。





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