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論文

 本日2月24日の夕方に、鹿児島県種子島にある宇宙センターから「H-UAロケット7号機」が打ち上げられる予定でしたが、低気圧の影響で風雨が強まると予想され、26日以後に延期になりました。
 このロケットで「運輸多目的衛星新1号(MTSAT-1R)」という人工衛星が打ち上げられる予定ですが,大変に注目されています。

 注目される第一の理由は、打ち上げられる衛星の目的です。運輸多目的衛星という役所の縄張り丸出しの名前がつけられていますが、分かりやすくいえば中心は気象衛星です。 
 しばらく前まで、日本には「ひまわり」という気象衛星がありました。これは1977年に打ち上げられた「ひまわり1号」から始まり、1995年に打ち上げられた「ひまわり5号」までが活躍し、日本の天気予報の精度を上げるのに貢献してきましたが、この「ひまわり5号」の設計寿命は5年で、1999年には寿命がきれることになっていました。
 そこで、その年に後継機の「MTSAT-1」を打ち上げたのですが、打ち上げに失敗してしまい、寿命の近づいた「ひまわり5号」をだましだまし使っていました。
 しかし、2003年からはアメリカの「ゴーズ9号」という気象衛星を毎月1600万円の使用料金を支払って使っています。皆さんが毎日、テレビジョン放送の天気予報でご覧になっている衛星写真は、この「ゴーズ9号」の撮影した写真です。
 ところが、この「ゴーズ9号」も1995年に打ち上げられた古い衛星ですでに寿命が近づいており、今回の「MTSAT-1R」が打ち上げに成功しないと、日本の気象観測はピンチに陥るのです。

 最悪の場合、期限切れの「ゴーズ9号」に頼るのですが、それが故障した場合には、引退した「ひまわり5号」を再度使用するという苦肉の策が予定されています。しかし、もう一つの理由で、今回の打ち上げが成功しないと困るのです。
 日本のロケットの歴史は、1955年4月に糸川英夫教授が東京都国分寺の工場跡地で水平に発射したペンシルロケットから始まっていますが、これは直径1・8cm、全長23cmの玩具のようなものでした。
 そこから始まって次第に大型になり、1970年には「ラムダ4S」ロケットで、日本初めての人工衛星「おおすみ」を打ち上げるまでに発展しました。
 ちなみに、アメリカがアポロ計画で、人間を月面に立たせたのが1969年ですから相当に遅れていたわけです。

 そして1975年に本格的な「N1シリーズ」のロケットの打ち上げに成功して82年まで打ち上げ、81年からは「N2シリーズ」になり87年まで打ち上げ、86年から92年までは「H1シリーズ」、94年から99年までは「H2シリーズ」と発展してきました。
 参考までに、各国の代表的なロケットを低軌道に衛星を打ち上げる能力で比較してみると、日本の「H2」が10・5トン、アメリカの「スペースシャトル」が20・8トン、ロシアの「ソユーズU」が6・9トン、中国の「長征3A」が8・5トン、ヨーロッパの「アリアン5」が18トンですから、十分な能力です。
 「N1」では79年に一度失敗しましたが、97年の「H2」までは失敗ゼロで、日本のロケット技術は優秀と思われていました。
 ちなみに、日本のNシリーズとHシリーズの成功率は89%、アメリカのアトラスは91%、ロシアのプロトンは89%、中国の長征は89%、ヨーロッパのアリアンは93%ですから、特別に失敗が多いという訳でもないのですが、問題があります。

 第一は2001年からの「H2Aシリーズ」が6回連続成功したのですが、2003年から失敗が続いていることです。まず10月に環境観測技術衛星「みどり2」が電源系統の故障で運用中止、火星探査機「のぞみ」も火星目前で機能停止、そして2003年11月には「H2Aシリーズ6号機」の打ち上げに失敗して2基の情報収集衛星を無駄にしてしまっており、今回が排水の陣であることです。
 第二は、日本は打ち上げ回数が少ないために、打ち上げ費用が高いことです。日本は「Nシリーズ」と「Hシリーズ」で37回しか打ち上げていませんが、アリアンは161回、プロトンは300回、アトラスは147回ですから、どうしても1回あたり高くなり、ロシアの軍事ミサイルを転用したロケットの10倍もするという数字もあります。
 天気予報の精度が下がることも問題ですが、ロケットは国の技術力の総合力ですから。ぜひ数日後の打ち上げに成功してほしいと思います。





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