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論文

 そろそろ南の方から梅雨明け宣言が始まり、雨の季節が過ぎようとしていますが、今年も各地で渇水と洪水が発生し、被害も発生しました。そこで今日は日本の水について考えてみたいと思います。
 1970年に出版され、300万部を越えるベストセラーンになった、イザヤ・ベンダサンの「日本人とユダヤ人」のなかに、日本人は「水と安全は無料」と思っている珍しい国民だと書かれています。
 しかし、最近では犯罪発生率が増える一方で、検挙率が20%前後に落ち、入口などにガードマンが常駐している建物も増え、安全は以前のように無料ではなくなってきました。
 水も水道水の1000倍もの値段のミネラルウォーターの売上げが急増しており、有料の時代になりつつあると思います。
 それでも多くの皆さんは、日本は水の豊かな国だと思っておられるかもしれませんが、意外とそうではないのです。

 ある国の土地に降る水と雪の量を降水量といいます。ここから蒸発して無くなる量を引いた値を水資源賦存量と定義していますが、その値をその国の人口で割算した数字があります。
 この値の大きい国から並べてみると、上位にはカナダ、ロシア、オーストラリア、アメリカなどが名前を連ねていますが、日本は1年に1人あたり3337立方メートルで何と156カ国中91位で、カナダの28分の1、ロシアの9分の1、アメリカの3分の1という程度ですし、世界平均の半分以下です。
 国内の地域ごとに見ると、北海道は日本の平均の3倍ほどで豊かですが、近畿地方は2分の1以下、関東地方は4分の1で、エジプトやモロッコなど砂漠の国と同じ程度です。

 さらに日本の問題は降るときには土砂降りになるし、降らないときにはまったく降らないという差が大きいことです。
 例えば、ニューヨークなどは毎月100ミリメートルほどの一定の降水量があるし、ロンドンやパリでも雨の多い月と少ない月の差は2倍もありません。ところが東京では台風の影響もあり、もっとも雨の多い9月と少ない12月では7倍も違います。
 その結果、川を流れる水の量も最大と最小のときでは大変な差になります。例えば、高知県を流れている仁淀川は最大のときと最小のときは4000倍も流量が違いますし、利根川でも2000倍の差があります。ところが、アメリカの中央を流れているミシシッピー川は4倍とか、ライン川は5倍という程度で安定しています。
 明治時代に河川工学を教えるためにオランダから日本に来て、淀川や木曽三川の河川改修を行ったヨハネス・デ・レイケは富山県の常願寺川を眺めて「これは川ではなくて滝だ」と言ったというエピソードが伝えられていますが、それが洪水や渇水の主要な原因なので

 当面の対策はダムによって調節することだと思います。ダムについては賛否両論があり、不要なダムもあると思いますが、日本全体としてダムは十分ではないのが実情です。
 日本では堰堤の高さ15メートル以上のものをダムと名付けていますが、国内に2784存在しています。その合計した総貯水量は200億立方メートルですが、これは二重の意味で少ない量です。
 第一は、一人あたりの貯水量が少ないということです。日本は一人あたり73立方メートルですが、ロシアは5455立方メートル、アメリカは3384立方メートルと50倍から70倍もの差があります。
 第二は、日本のダムの貯水量は全体としても少量だということです。世界最大のダムはウガンダにあるオーウェンフォールズダムですが、この貯水量は何と2兆7000億立方メートルで、日本のダムすべての貯水量の135倍もあります。ただし、この数字はもともとの湖の水量も入っているので除くとして、世界5位の有名なアスワンハイダムでも1689億立方メートルですから、約80倍です。
 さらにコロラド渓谷にあるフーバーダムも有名ですが、このダムだけでも、日本のダムすべての貯水量の2倍にもなります。
 もちろん国の地理条件の違いがありますので、一概にダムが必要だ不要だとは決められませんが、今年の西日本での渇水や給水制限を考えると、まったくダムが不要という議論にはならないと思います。
 1910年代には降水量の多い年と少ない年の差は300ミリメートル程度でしたが、最近では700ミリメートルにもなっており、1960年以降、大規模な渇水が7回も発生しています。このような異常気象が拡大しているということを考えると、ダムも再考する必要があると思います。





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