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論文

 ついに東京の都心ではガソリンの値段が平均で1リットルあたり140円、高いところでは150円になりました。そしてガソリンの原料となる原油の価格も、ハリケーン「カトリーナ」がメキシコ湾岸の油田や石油精製施設に大打撃を与えたときには一時的に1バレル70ドルを突破し、その後も60ドル台のままです。
 2004年10月には44ドル、2003年10月には30ドルでしたから、この2年で倍になったことになります。
 そして大元の油田は後35年とか40年という時間で枯渇するという予測もなされていますから、石油に依存した現代社会を真剣に考え直す時期だと思います。そのような背景か最近、急速に注目されるようになってきたのがエタノール燃料です。
 そこで今日はエタノールの現状と見通しについてお話しさせていただきたいと思います。

 まずエタノールとは何かということですが、一言で言えばアルコールの一種です。
 アルコールにはエチルアルコール、メチルアルコール、プロピルアルコールなど何種類かありますが、化学用語でエチルアルコールと言われるものの慣用の名前がエタノールで、日本語では酒精といわれます。
 ブランデーなどに火をつけると燃えるように、エタノールは燃えますので、これを自動車などの燃料にしようという動きが高まってきたというのが、最近の動向です。
 その先端を走っているのがブラジルです。ブラジルは世界の鉄鉱石生産の1位、アルミニウムの原料であるボーキサイトの生産で2位、スズ鉱石の生産で5位、マンガン鉱の生産で3位と天然資源に恵まれた国ですが、唯一の弱点は石油がほとんど国内で生産できないということです。
 そこで、すでに1970年代の石油危機のときに、サトウキビからアルコールを生産して石油の代わりにするという政策を採ってきました。その結果、ブラジルは現在、世界のエタノール生産の4割を生産するエタノール大国になっています。
 ご参考までに、昨年の世界のエタノール生産の勢力図は、ブラジルが1500万キロリットルで1位、アメリカが1150万キロリットルで2位、中国が30万キロリットルで3位、インドが200万キロリットルで4位という状態です。その合計はすでに石油の生産量の2%にまでなりつつあります。

 次にエタノールの原料は何かということですが、サトウキビ、トウモロコシ、ビート、小麦などで、これらを発酵させ蒸留して生産します。
 焼酎などと原料も製法も同じなのですが、自動車の燃料にする場合は、水分が含まれていると燃料タンクを腐敗させたりするので、水分をほとんど含まない無水アルコールにします。
 そして、ブラジルではサトウキビ、アメリカではトウモロコシ、中国では小麦とトウモロコシ、インドはサトウキビを材料にしています。
 ブラジルにはサトウキビ畑が500万ヘクタール、その生産に従事している人が300万人といわれ、丁度、日本の農業の全体と同じ規模です。そして現在では、サトウキビによるエタノールの生産と砂糖の生産は半々の比率になっています。

 自動車の燃料としてはガソリンに混ぜて使います。例えば10%混ぜた燃料をE10、20%混ぜた燃料をE20と言いますが、ブラジルではE25、すなわち25%を混ぜることが法律で義務づけられていますし、アメリカではミネソタ州、ハワイ州、モンタナ州が義務化しており、現在、カリフォルニア州、ミシガン州、オレゴン州、コロラド州など9つの州が新たに義務化を検討中です。

 日本では、2003年から地球温暖化対策の一環としてE3、すなわち3%までは混合していいという制度になっていますし、インドではE5を可能にするように法律を作成中、中国でもE10を使用することを計画中です。
 当然、自動車もエタノール混合燃料で走ることの出来るエンジンが必要ですが、現在ではフレックス車といわれる、0%から100%まで、どのような混合割合でも走ることの出来る自動車が開発されており、ブラジルでは今年の3月までに約50万台、今年中には新たに80万台が売れると予測されていますし、アメリカではE85対応車がすでに400万台走行しているそうです。

 それではエタノールはどこが優れているかということですが、第一は再生可能なエネルギー源であり、太陽と水がある限り、いくらでも生産できること、そして石油のように一部の地域に資源が集中しているわけではなく、どの地域でも生産可能なこと、ガソリンよりは二酸化炭素の発生割合が低いことです。
 しかし、問題が無いわけではなく、エタノールの生産を増大させていけば、サトウキビ栽培のための農地を増やすために森林の伐採が進むという環境問題がありますし、食糧を生産する農地の面積がサトウキビやトウモロコシに奪われていき、「金持ちの自動車が貧乏人の食糧を奪う」とも言われる食糧問題もあります。
 しかし、これは日本でも生産可能なエネルギー資源であり、もっと真剣に取り組むべき対象だと思います。





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