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論文

 今日は循環経済という環境活動をご紹介したいと思います。
 来週の22日(月)と23日(火)に横浜で「第2回世界循環経済フォーラム」という国際会議が開催されます。
 循環経済という聞き慣れない言葉は英語では「サーキュラー・エコノミー」と言いますが、これまでの物質を使い捨てる経済ではなく、物質を循環利用して環境を保護する新しい経済を創り出そうという活動です。
 昨年6月にフィンランドのラハティというノルディックスキー世界選手権が何度も開催されている都市で第1回目のフォーラムが開かれ、2回目が来週、横浜で開かれるというわけです。

 この契機を作ったのはエレン・マッカーサーという今年42歳になる世界的に有名なヨット乗りの女性です。
 2005年の28歳の時、彼女は1人乗りのヨットで、途中で一度も港に立ち寄ることなく、約5万kmの距離を平均時速約30kmで帆走し、71日間で世界一周するという新記録を達成しました。
 これがどのくらい偉業かというと、一度に20分以上は眠らなかったということでも分かると思います。
 この航海で、彼女は途中で一切、食料や物資の供給を受けないで航海しているヨットは、有限の資源で人類が生活している地球環境と同じだと悟ったのです。
 しかし、現実の世界では化石燃料でも鉱物資源でも有限であるのに贅沢に使い、いずれ使い尽くしてしまうような生活が展開しており、これを阻止しようと、2009年にエレン・マッカーサー財団を設立し、有限の資源を使い尽くすのではなく、循環させていこうという運動を展開するため、世界循環経済フォーラムを創設し、昨年から活動を開始したというわけです。

 この目標は資源を使い捨てる直線経済の社会から資源を再利用する循環経済の社会に移行させることですが、その背景にあるのが直線経済の無駄です。
 一例が廃棄される食品です。
 日本では年間2842万トンの食料が供給されていますが、食べられることなく捨てられている食料は646万トンで23%にもなります。
 製造過程で廃棄されるのは魚の頭やパンの耳など仕方がない部分もありますが、例えば宴会では出された料理の14%が捨てられているという無駄が横行しており、最近、3010運動という、宴会の最初の30分と最後の10分は歓談を止めて、出された食事を食べようという活動も始まっています。
 家庭ではさらに多く、45%を捨てています。
 日本の646万トンという廃棄食料が如何に大きな数字かというと、食料が満足に手に入らない世界の人々に食料援助が行われていますが、その量は380万トンです。
 私たちが捨てている食品の4割で世界の飢餓は解決されるという数字です。
 世界全体では想像もできない量ですが、40億トンの供給食料のうち3分の1の13億トンが捨てられています。  

 そこで循環経済の実現のために新しい制度や活動が始まっています。
 フランスでは2016年に食品廃棄禁止法が施行され、スーパーマーケットは消費期限切れ前の食品の廃棄は禁止され、慈善団体などに寄付することが義務になっています。
 特に売り場面積400平方メートル以上の店では慈善団体と寄付の契約を結ぶことが義務となっており、違反すると1000万円近い罰金や禁固刑にさえなるという厳しさです。
 最近はマイクロプラスティックの海洋汚染が世界規模で問題となり、ストローを提供しないか、紙製のストローを提供する店が出てきましたが、オランダのアムステルダムでは、食品の包装にプラスチックを使わない店が登場しています。
 野菜や果物は包装なしで陳列され、肉やチーズや菓子などは生分解可能なプラスチックや紙で包装されています。
 これは実験的に行われたもので、現在は終了していますが、新しい試みです。

 これまで廃棄していたゴミを有効な製品に転換する活動も始まっています。
 アメリカのフェニックスという都市では街路樹のヤシの木の葉が枯れて落ちてくると、費用をかけて埋立地に運んでいましたが、細かく砕いて他の材料と混ぜて家畜の餌として売り出したところ、年商10億円以上のビジネスになっています。
 フィンランドの衣料品会社は白樺など木質系の繊維で作った布地を開発していますが、栽培に大量の水を必要とする綿の生産に比べて1%の水で生産でき、使用後は堆肥にできるという特徴があります。

 鉱物資源についても、現在のまま掘削して使用していけば、金、銀、鉛などは20年、銅が30年、さらにレアメタルの多くは20年から50年で枯渇すると推定されています。
 そこで循環させようという活動が始まり、その象徴が東京五輪大会の「都市鉱山からつくる、みんなのメダルプロジェクト」です。廃棄される携帯電話やコンピュータの素子から金銀銅を回収してメダルを製造しようという運動です。
 このような活動は金属の枯渇を防ぐだけではなく、鉱石を精錬して金属を生産するよりもはるかに少量のエネルギーで生産でき、二酸化炭素の排出を減らす効果もありますます。

 自動車は持たないでレンタカーで間に合わせる、晴着も新調しないでレンタル衣装で済ませるなど、物を買わない経済が登場し、シェアリング・エコノミーという言葉が使われるようになっています。
 これは個人の行動ですが、そのような方向に社会全体を進めていくのがサーキュラー・エコノミーです。
 日本で発明されたメルカリは不要になったものを廃棄するのではなく、再利用されるようにするサーキュラー・エコノミーを象徴するサービスです。
 人類が使い捨て経済に目覚めた契機を作ったのは大量生産を実現した産業革命ですが、それがもたらした問題を解決するのはメルカリのような情報革命を駆使したサービスです。
 ご関心ある方は、来週の月曜と火曜に横浜で開かれる人類史上の大転換を議論する「世界循環経済フォーラム」を覗かれてはどうかと思います。





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