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論文

 今日は地球は大丈夫かという物騒な話をさせていただこうと思います。
 今年の夏の異常な高温や豪雨を体験されると、地球に異変が発生しているのではないかと感じられた方も多いと思います。
 日本では、関東甲信、東海、近畿、九州北部で戦後最高気温を記録し、1970年代から全国に設置されてきた無人観測装置のアメダスの2割が最高気温を記録しました。
 埼玉県熊谷市では7月23日に41・1度になり日本の観測史上、最高気温になり、東京都青梅市でも40・8度を記録しています。
 世界では、さらに驚くような現象が発生しています。
 フィンランドの北極圏内にあるソダンキュラという人口9000人弱の町では7月17日にこれまでの7月の平均気温を12度も上回る31・8度になりましたし、中東のオマーンのクリヤットという漁村では7月28日に夜間の最低気温が42・8度という世界記録になりました。

 降水量にも異常が発生しており、日本では7月初旬に西日本を襲った豪雨で四国と中国地方で大変な被害が発生しましたが、これも93の観測地点で史上最高の降水量を記録しました。
 世界でも同様で、チュニジア、ギリシャで観測史上最高の降雨を記録し、メキシコのクリアカンではこれまで雨の降ったことのない9月に豪雨による洪水が発生しています。
 旧約聖書のノアの方舟を想像させるような異常事態です。

 このような事態を警告するような報告書が10月8日に発表されました。
 1988年、国際連合が「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」という組織を設立し、 地球温暖化について世界の数千人の学者が集まって検討してきました。
 1990年に第1次報告書を発表し、以後、5、6年毎に報告書を発表し、2013年に第5次報告書を発表しています。
 2007年に第4次報告書を発表したときには、アメリカのゴア元副大統領とともに、IPCCにノーベル平和賞が授与されています。
 今回は特別報告書ですが、そのような臨時の報告書を発表するということは、かなり事態が切迫していることを示しています。
 その要点は、現在すでに、産業革命時代より気温は1℃上昇しており、このまま推移すれば、2030年頃には1・5℃上昇するということです。
 なぜ産業革命の時期を基準にするかというと、地球の気温が上昇する主要な原因は石炭や石油など化石燃料の使用による二酸化炭素の発生だとされており、その化石燃料を人間が大量に使用するようになったのが産業革命時代以後だからです。
 その影響は恐ろしいもので、1・5℃上昇すると、干ばつの影響を受ける人が1億1430万人、洪水に直面する人が21世紀初期の2倍、海面上昇が最大で77cmになると推定されています。

 どうすればいいのかということですが、なんとか1・5℃の上昇で止めるためには、2030年まで、つまり12年後までに二酸化炭素排出を2010年の半分以下である45%にし、2050年にはゼロにすることを要求しています。
 これを実行するために、2015年にパリ協定が成立し、世界の100以上の国が批准しましたが、昨年6月に、世界で2番目に二酸化炭素を排出しているアメリカが離脱してしまいました。 

 ところが影響は温暖化だけではないという警告を発表している組織があります。
 ストックホルムにある「レジリエンス(回復力)センター」という組織で、ヨハン・ロックストローム所長が中心となり、2009年に「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」という報告書を発表しました。
 この報告書では、気候変動以外に、オゾン層の破壊、海水の酸性化、淡水の不足、森林の伐採などによる土地利用の変化など9つの地球が直面している問題を示し、それらの中でも気候変動と生物多様性は危機的状態にあると警告しています。
 生物多様性では1・5℃上昇すれば、昆虫の6%、植物の8%、脊椎動物の4%の生息している範囲が半分に減少し、サンゴの生息域は最大で90%も減ってしまうという予測も発表されています。

 この地球の危機を実感させる統計が2016年にドイツのカールスルーエ工科大学から発表されています。
 これは1900年から2015年まで115年間の世界の自然災害による損害を金銭で表した数字です。
 そこで120年前の1900年から1920年までの21年間と、最近の1995年から2015年までの21年間の経済損失を比較してみると、20世紀最初の21年間と最近の21年間では損失額が60倍も違うのです。
 私たちはまったく別世界に生活していることがわかります。
 この数字には地震と火山の噴火という気候変動には関係ない災害も含まれていますので、それを除外した森林火災、干ばつ、暴風、洪水だけにすると、70倍に増えています。
 もちろん、1920年から2015年までに世界の人口は4倍に増えていますから、低地や急斜面など生活に適さない場所に住む人々も増加して被害を受けやすい状態になっていますし、一人当たりの経済水準も10倍以上に増えて、エネルギーやモノの消費も増加していますから、二酸化炭素の排出も増えていますが、我々がいかに脆弱な社会に生活しているかが分かると思います。

 よく使われる例えですが、ある日、池に1枚のハスの葉が浮かび、翌日に2枚になり、翌々日に4枚になるというように増え、29日目に池の半分をハスの葉が覆っていた。
 それでは池の全体が覆われるのは何日後かと聞かれると、これまでの経緯を知っていれば明日だとわかりますが、池の半分が水面という状態を見て明日だとはなかなか気付かないものです。
 現在が地球の限界まで何日残されている時期かはわかりませんが、IPCCの報告やレジリエンス・センターの警告に耳を傾け、できる限りのことをするべき時期だと思います。





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