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論文

 最近、ピークオイルという言葉が盛んに使われるようになり、石油の枯渇が取りざたされていますし、それを反映してか原油の価格が高騰し、ガソリンも値上げになっています。
 このような状況のなかで石油を確保するために日本は石油の備蓄を行っています。
 日本では1972年から民間で60日間の需要に相当する石油を備蓄する計画を開始し、1974年までに目標を達成しようとしていたのですが、その矢先にオイルショックが発生したので、目標を90日の備蓄に変更し、最初はタンカーに備蓄し、やがて苫小牧(北海道)、久慈(岩手)、菊間(愛媛)、串木野(鹿児島)など国内12カ所に備蓄基地を建設して、現在では民間で70日分、国家で90日分を備蓄しています。

 この石油の備蓄については比較的知られていますが、もう一つ国家が備蓄している資源があります。それがレアメタル、すなわち希少金属といわれる資源です。
 これはニッケル、クロム、タングステン、コバルト、モリブデン、マンガン、バナジウムなど31種類の金属ですが、共通する特徴は
  1)そもそも地球に存在する量が少ない
  2)単体として取り出すことが技術的に困難
  3)精錬の費用が高価
ということですが、現実に利用する視点からは
  4)特定の地域に偏って存在する
  5)現代の工業製品の生産には必要不可欠
という特徴もあります。

 例えば、ニッケルは地球の地表近くに存在する元素の比率を示すクラーク数は24番目の0・01%で、現在知られている埋蔵量が約4600万トンですが、年間120万トン程度を採掘しているので、このまま採掘していけば45年で枯渇することになります。
 その埋蔵量はオーストラリアに20%、ロシアに14%、カナダに14%、キューバに12%と、少数の国に集中しています。
 日本には存在していませんので、海外から輸入していますが、世界の20%を日本が消費し、貿易量の14%を日本が占めています。50円硬貨や100円硬貨にも使われていますし、変圧器の鉄心や録音機の磁気ヘッドなどにも使われていますが、最大の用途はステンレス鋼の製造で、日本が輸入している65%が使用されています。

 クロムのクラーク数は21番目の0・02%で、埋蔵量は11億5000万トンほどあり、現在の採掘量では80年以上採掘可能です。
 問題は大変に偏って存在していることで、南アフリカに83%、カザフスタンに9%が存在しています。
 メッキの材料として使われていることは良く知られていますが、錆びないし硬いのでステンレス鋼には10・5%以上が合金材料として混ぜられています。

 もう一つガリウムを紹介したいと思います。ガリウムのクラーク数は0・001%とニッケルやクロムよりも、一桁小さい比率でしか存在していません。
 しかし、最近話題の青色発光ダイオードには窒化ガリウムが使われていますし、シリコンよりも電子が高速で流れるので、高電子移動度トランジスタ(HEMT)もガリウムヒ素や窒化ガリウムが使われ、さらに現在のコンピュータの何京倍も早い量子コンピュータの素子の開発にもガリウムヒ素が使われ、マイクロエレクトロニクスには必須の元素です。

 このように今後の先端産業に必須の元素ですが、日本にはほとんど存在していません。また大量に資源が存在している国が、コバルトであればコンゴ(44%)、クロムであれば南アフリカ(83%)、タングステンであれば中国(43%)というように、特定の国に偏っているし、一部には政情が安定していない国もあるので、いざという時のために、ニッケル、クロム、タングステン、コバルト、モリブデン、マンガン、バナジウムの7種類のレアメタルを対象に、1983年から国と民間が協力して備蓄をしています。実際は独立行政法人石油天然ガス金属鉱物資源機構が管理して、茨城県の高萩に60日分の備蓄をしています。

 レアメタルではありませんが、航空機や兵器を製造するのに必須の材料であるチタンについて、今年5月にロシアのプーチン政権が世界有数のチタン製造会社VSMPOアビスマを買収して国家統制に置くという構想を発表して話題になっていますが、世界はエネルギー資源だけではなく、金属資源についても戦略的な動きをしています。
 我々が日常生活で恩恵を受けている情報機器、交通手段、家庭電化製品の陰には、このような世界規模での争奪戦が行われているということを知ることも重要だと思います。





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