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論文

 北海道洞爺湖サミットもいよいよ来週の月曜日に開催ということになりましたので、先々週に続いて、もう一度、地球温暖化に関係する話題をご紹介したいと思います。
 地球温暖化の主要な原因である炭素を、どのようにして大気中から取り除くかがサミットの重要な議題の一つですが、様々な方法が検討されています。
 例えば「財団法人・地球環境産業技術研究機構(RITE)」が、現在、380ppm程度である二酸化炭素の濃度を、2100年までに550ppmで安定させようという計画を発表しています。
 減るのではなく、増えるのかと疑問に思われるかもしれませんが、すでに大気中に溜まっている二酸化炭素の影響で、しばらくは増えていってしまうのです。
 化石燃料を利用することが主要な原因ですが、人間の活動によって排出される二酸化炭素の量は炭素の重量で計算して、2000年には70億トン程度でしたが、2006年には84億トン程度になり、もし対策をとらずに現在の生活を続けていけば、2050年には150億トン、2100年には240億トンと現在の3倍になりかねません。
 それでは550ppmに安定させるにはどうしたらいいかというと、2100年には50億トン程度にしなければいけないというのがご紹介した計画の推計です。

 そのための方法として、火力発電を原子力発電に転換する、自然エネルギーを利用するなどが挙げられていますが、最大の削減効果が期待されているのがCCSです。
 CCSはカーボン・ディオキサイド・キャプチャー・アンド・ストレージの頭文字を集めた言葉ですが、日本語に訳せば「二酸化炭素・回収・貯留」技術ということになります。
 具体的には発電所の排気ガスや天然ガス採掘のときに出るガスなどから二酸化炭素を分離し、それをどこかに埋めてしまうということです。
 埋める先は大きく二つに分かれ、地下か海中かです。
 地下についてもいくつかの方法が研究されていますが、地下にある帯水層に溜めるというのが第一の方法です。
 地下には固い岩盤で覆われて下側が粒子の隙間が大きい砂岩で出来ている地層があります。そこまでパイプを通して圧力をかけて二酸化炭素を送り込むと、高圧のために二酸化炭素がシャーベット状になり、岩の隙間に染み込むという仕組です。
 また、油田や天然ガス田に同様にして二酸化炭素を送り込むと、その圧力で残っていた石油や天然ガスが噴出し、その隙間に二酸化炭素が染み込むという一石二鳥の方法もあります。
 海中で処理する方法は大きく分ければ2種類になります。一つは二酸化炭素をパイプで海中に送り込み、海水に溶かし込むという方法、もう一つは水深3000メートル以上の深海の窪地に二酸化炭素を送り込み、シャーベット状にして貯留する方法です。

 地中貯留については、すでに実験が始まっており、新潟県長岡市の南西部で地下1100メートルの地層に二酸化炭素を注入する小規模な実験が2000年から行われていますし、海外ではアメリカ、アフリカ、ヨーロッパなど、世界各地で実験が行われています。
 また、この5月に日中が協力して中国の火力発電所から排出される二酸化炭素を油田の地下に送り、原油の増産を目指すというプロジェクトが実施されるということでも話題になりました。

 これは万全の方法かというと、いくつか心配があります。
 第一の心配は漏れ出して人間や自然に害がないかということです。CCSのために選ばれる地層は長年、天然ガスなどを閉じ込めてきた地層ですから大丈夫とされています。
 1986年にカメルーンのニオス湖という火口湖の湖底から二酸化炭素が吹き出し、それが山麓の集落に流れ込んで1700名近い人が死亡したという事件があり、空気中の二酸化炭素の濃度が7%を超えると危険ですが、地中に封入した二酸化炭素がそのような勢いで漏れてくることはまず起こらないと考えられています。
 それよりも現実的な問題は価格が見合うかということです。現在各地で行われている実験の結果では、1トンの二酸化炭素を処理する費用は7000円から1万円と推定されています。
 最初にご紹介した地球環境産業技術研究機構の削減目標では、2100年に地中貯留で約55億トン、海中貯留で31億トンを処理する計画です。
 海中貯留は実験もされていませんから費用が分かりませんが、仮にどちらも7000円としても年間60兆円以上の費用になりますから、大幅に単価が低下しないかぎり現実的な方法にはなりません。

 さらに重要な問題は資金だけではなく、地中に高圧で送り込むためにエネルギーも使用するということです。
 そのエネルギー源としては当面、化石燃料ですから、処理するために枯渇が迫っている化石燃料の寿命を縮め、さらに余分に二酸化炭素を排出するという悪循環にもなりかねません。

 最初にご紹介したシナリオでは、2100年に削減する総量の28%を地中貯留、16%を海中貯留で賄うとしていますが、海洋貯留以上の17%という削減を期待している方法があります。
 それは節約です。CCSは、これから本格的な大規模実験をして、安全性や経済性を確かめながら実用にしていくので、まだまだ時間がかかります。
 しかし、節約であれば今日からでもはじめられるし、余分のエネルギーはかからないし、結果として経済的にも得をするという一石三鳥です。
 地球温暖化は人間が開発した技術がもたらした問題なので、技術が解決するという考え方もありますが、技術は本質的にエネルギーと資金を必要とするものですから、人間だけでできる節約という、旧式な方法をぜひ見直してほしいと思います。





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