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論文

 不況は世界規模で拡大しており、政府の景気対策が必要な事態になっています。
 定額給付金という日本独自の対策もありますが、世界各国が検討しているのは公共事業を拡大して、景気回復の梃子にしようという古典的な対策です。そのなかでも話題になっているのがグリーン・ニューディール政策です。
 この背景には1930年代にアメリカが行ったニューディール政策があります。
 1929年10月24日木曜日、午前10時25分、ゼネラルモーターズの株価が急落し、それをきっかけに大暴落が始まり、「暗黒の木曜日(ブラック・サースデイ)」といわれる事態が発生しました。
 仲買人や銀行家が買い支えましたが、10月29日火曜日には、さらに大暴落になり、株式市場が閉鎖され、悲劇の火曜日(トラジディ・チューズデイ)」といわれる歴史的な日になりました。
 この数日間の下落による損失は、アメリカの連邦予算の10倍、第一次世界大戦でアメリカが支出した戦費以上という、すさまじいものでした。

 原因は第一次世界大戦後、戦争で拡大していた生産能力に見合うだけの需要がなくなり、余剰資金が投機に流入したことです。
 ケネディ大統領の父親であるジョセフ・ケネディがウォール街で靴を磨かせていたときに、その靴磨きの少年からさえ投機を薦められたので、不況は近いと予測したというエピソードがありますが、ここしばらくの素人の投機ブームを振り返ると、歴史は繰り返すという感じがします。
 その結果、アメリカでは失業率25%になっただけではなく、世界に飛び火して世界恐慌にもなり、これも歴史は繰り返しているという印象です。
 そのときは半年前の3月4日に就任したばかりの第31代フーバー大統領の時代でしたが、古典的な自由主義の経済学を根拠に、政府による介入を最小限にするという方針であったため、恐慌を拡大させたと言われています。
 本格的な対策を始めたのは4年後の1933年3月4日に就任した第32代ルーズベルト大統領で、就任直後の100日間で次々と政府が経済に介入する政策を制定したのですが、これがニューディール政策といわれるものです。
 ちなみに、オバマ大統領が就任したとき、これから100日間が勝負だと新聞などが書いているのは、このときの経緯を反映したものです。

 ルーズベルトのニューディール政策で有名な事業は、テネシー河流域開発公社(TVA)を作ってテネシー河の49箇所にダムを建設して、土木事業で雇用を確保するとともに、流域を開発して経済を復活させたものがあります。
 しかし現在、先進国で土木事業の需要は少ないので、登場したのが環境問題を解決する公共事業を拡大して雇用を確保し、同時に経済の復活も目指すという一石三鳥を狙ったグリーン・ニューディール政策です。
 オバマ大統領候補が発表したのを最初に、世界各国が政策を発表しています。
 アメリカは太陽発電、風力発電、バイオマス燃料など再生可能エネルギー分野に今後10年で15兆円を投入し、500万人の雇用を増加させるという構想です。
 平均すれば年間1兆5000億円の投資ですが、ブッシュ大統領時代の再生可能エネルギー分野の予算は2008年で720億円でしたから、巨大な差です。
 また、自動車の不振が普及の主要な原因でもあるので、2015年までに、家庭の電源で充電できるプラグイン・ハイブリッド自動車も100万台普及させるという発表もしています。
 イギリスは2020年までに10兆円を投入して風力発電を7000基建設して16万人を雇用。
 韓国も2012年までに3兆5000億円をグリーン・ニューディールに投入、中国は環境だけではなく、鉄道や住宅も含めて57兆円の投入を発表しています。

 日本が気になるところですが、環境省が今後5年で環境産業の市場規模を現在の70兆円から100兆円に増やし、220万人の雇用を創出するという構想をまとめましたが、麻生首相が「環境省だけで考えるからみすぼらしい案で、各省庁と連携して大胆に数字を大きくするよう」指示があり、3月末に向けて検討中という状態です。
 そうなれば、環境省の所管を越えた、森林整備を進めて二酸化炭素の排出を減らすとか、情報通信の利用を促進して情報社会を発展させながら環境問題を解決していくなど幅広い案がでてくると期待できます。

 グリーン・ニューディール政策は、確かに不況対策と同時に環境問題の解決にもなるという意味では結構ですが、問題がないわけではありません。
 日本の反応が各国に比較して出遅れているという問題は別にして、
 第一は財源の問題です。日本の場合は国債を発行して調達することになり、現状でも世界有数の長期債務がさらに増大するということになります。
 第二は、すでにアメリカでも出始めたバイ・アメリカ政策のように保護貿易が台頭し、貿易に依存する日本にとっては厳しい経済環境になりかねないことです。
 第三に、本当に効果があるかということです、ルーズベルト大統領の行ったニューディール政策も効果は薄く、世界恐慌から立ち直ったのは第二次世界大戦が始まって戦時需要が解決したからだという意見もあります。したがって、十分に効果を見極めながら投資をしないと無駄遣いになる可能性があるということです。

 しかし、日本の産業界や経済産業省が主張するように、環境政策が経済発展を阻害するという論点からの脱皮は可能になると思います。
 経済(エコノミー)と環境(エコロジー)は、もともと生命の生息する場所(オイコス)というギリシャ語から派生した言葉で、同根の概念でした。それが現在では対立するような状態にあるのは、経済至上主義が行き過ぎたからだと思います。
 そこで、両方を融合したエコロミーというような言葉でも創造して、両者が両立するような社会が構築できれば、グリーン・ニューディールの意義があると思います。





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