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論文

 日本が自給できる資源は人と水だけだという意見がありますが、実は天然資源大国だという話をご紹介したいと思います。
 現在の日本は世界の鉄の消費量の7%、銅の7%、亜鉛の6%、鉛の4%、銀の11%、金の3%を消費しています。
 さらに最近注目されているレアメタル、希少金属に至っては、インジウムは世界の消費量の60%、コバルトは26%、モリブデンは17%、ニッケルは14%、タングステンは11%、マンガンは6%を消費しています。
 これは日本が工業大国であることの証明です。例えば、世界の60%を使っているインジウムの主な使い道は液晶ディスプレイやプラズマディスプレイの透明電極に必須の材料ですし、コバルトは磁気材料やガスタービンのブレードの材料ですし、モリブデンはハイブリッドカーの電子基板の製造になくてはならない材料です。
 つまり、そのような工業製品を大量に生産しているために、大量に金属資源を使用しているという訳です。

 ところが残念なことに、そのような金属や希少金属はほとんど日本に存在していません。
 例えば、銅鉱石は栃木県の足尾銅山や愛媛県の別子銅山などが繁栄していたことからも分かるように、かつては輸出までしていました。
 そして1960年代でも12万トン近くを国内で生産し、自給率は30%近かったのですが、2001年を最後に生産は終了し、現在、銅鉱石は輸入100%です。
 亜鉛も1960年代から1980年代までは東北地方の鉱山で年間30万トン近く生産し、自給率も80%近かったのですが、最近では4万トン程度になり、自給率は1%となり、99%を輸入しています。
 またレアメタルのインジウムは、かつては札幌にある豊羽(とよは)鉱山が世界最大の鉱山でしたが、2006年に資源が枯渇して採掘を中止し、輸入に転換しました。
 それ以外にも金属資源のほとんどは100%近く輸入に依存しているのが日本の現状です。
 ところが日本は大変な資源国だという意見が登場しました。それは都市鉱山、アーバンマインが注目されはじめたからです。
 これは廃棄物から金属や希少金属を回収すると相当の量になるという意味です。

 都市鉱山がいかに優れているかを実例でご紹介したいと思います。現在、世界一品質の良い金鉱石を産出するのは、何と鹿児島県にある菱刈鉱山です。
 菱刈は江戸時代から金の産地として知られていましたが、改めて1970年代から金属鉱業事業団が探査を行ったところ、1981年に金鉱脈が発見され、現在は住友金属鉱山が採掘しています。
 特徴は金鉱石の品位が高いということです。品位は1トンの鉱石から何グラムの金が採集できるかという数字で表現しますが、菱刈鉱山では平均60グラムです。
 これがどのくらい優秀かというと、カナダのレッドレークの金鉱石で38グラム、南アフリカのモアブコツォンで16グラムというような数字ですから、菱刈鉱山の優秀さが分かると思います。
 ところが、使用済みとなった携帯電話を8000個ほど集めると1トンになりますが、ここから金を回収すると300グラム程度になります。世界一の菱刈鉱山の鉱石より5倍も優秀という訳です。
 都市鉱山が注目される訳がお分かりいただけるかと思います。

 そして昨年1月に独立行政法人の物質・材料研究機構が「わが国の都市鉱山は世界有数の資源国に匹敵」という興味深い資料を発表しました。
 その主旨は、日本の産業製品に組み込まれている部品などに含まれている金属や希少金属の量は世界の確認埋蔵量の相当の量に匹敵するということです。
 例えば、日本の都市鉱山の金の埋蔵量は6800トンと推定されていますが、これは世界の総確認埋蔵量4万2000トンの16%に相当しますし、世界一の南アフリカ共和国の埋蔵量が6000トンといわれていますから、それ以上ということになります。

 また驚くべき数字ですが、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイの製造に必須のインジウムは世界の確認埋蔵量の61%に匹敵するということです。
 しかもインジウムは現在の勢いで採掘していくと6年後には枯渇すると予測されていますから、俄然、日本は資源大国になるというわけです。
 さらにいくつか紹介しますと、アルミニウム合金、鉛蓄電池の電極、ハンダなどに使われるアンチモンは16年ほどで枯渇すると予測されていますが、日本には世界の確認埋蔵量の19%が蓄積されているということです。
 また、鋼板を被覆してブリキを作るのに使われたり、自動車のフロントガラスの表面に熱線をカットするために使われるスズも11%が日本に蓄積されています。
 アンチモンは中国に82%が埋蔵され、スズも中国に32%雅埋蔵されるなど、少数の国に集中して存在しており、供給に不安がありました。
 例えば、中国は2006年から金属の輸出の免税措置を廃止して輸出量を減らしたため、この5年間でインジウムが3・1倍、タングステンが3・7倍にも高騰しています。
 しかし、視点を変えれば日本にも大量に存在しているということになり、これを有効に利用することが日本の資源安全保障に貢献するということになります。

 その埋蔵されている資源を利用するためには回収する技術が必要ですが、第一は不要になった廃品がバラバラに捨てられるのではなく、一定の場所に集まる仕組を作ること
 第二は集められた廃品から効率よく金属や希少金属を回収する技術を確立することです。
 そのため最近になって、福岡県大牟田市と秋田県大館市など、かつて鉱山から石炭や金属を採掘していた地域で、会社が設立され、技術開発が始まっています。
 日本も見方を変えれば資源大国であるというわけです。





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