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論文

 今日は「図書館記念日」ですが、これは1950年の今日、日本で「図書館法」が公布され、それを記念して1972年から実施されている記念日です。
 図書館というのは大変に歴史のある施設で、有名なものとしては紀元前300年頃にナイル川の河口の都市アレクサンドリアに建設された「アレクサンドリア図書館」があり、ここには70万冊の蔵書が保管されていたと伝えられています。
 もちろん現在では、国立国会図書館の東京本館の630万冊とか、東京大学にあるいくつかの図書館の蔵書の合計が850万冊、さらにはアメリカの議会図書館の2800万冊など、桁違いの図書館がありますが、印刷術や複写機もない2300年前に70万冊も集めたというのは大変な事業でした。
 そこでアレクサンドリア港に入港した船が積んでいた書物は、すべて一旦没収し、写本を作成してから、原本を図書館に、写本を持主に返すというような強引な方法も使って集めたと言われています。

 ところで現在、21世紀のアレクサンドリア図書館と名付けてもいいような事業が始まっています。アメリカの図書館全体の蔵書数は8億8000万冊とか、日本が2億9000万冊など、膨大な数ですが、それをはるかに上回る巨大な図書館構想です。

 すでにお判りかと思いますが「グーグル・ライブラリー・プロジェクト」です。
 これは情報検索システムを提供しているグーグルが2004年12月から作業を開始した世界に存在するすべての書物を集めようという遠大な事業です。
 もちろんグーテンベルグが印刷した聖書の完全なものは世界に3冊しか無いというような事情ですから、いくら資金を注ぎ込んでもすべてを集めることはできませんが、ある意味ではアレクサンドリア図書館の強引な方法の現代版と言っても良いような方法で実現しようとしているのです。
 グーグルが実行しようとしているのは書物をスキャナーで複写し、巨大なサーバーにデジタル情報として保存し、だれでも利用できるようにしようというデジタル図書館構想です。
 これが現在、出版に関係する人々の間で大問題を引き起こしているのですが、この問題を理解するためには、3つのキーワードを知る必要があります。

 グーグルはスタンフォード大学やハーバード大学などの蔵書700万冊以上をデジタル情報に変換し、その一部を検索利用できるようにし始めたのですが、著作権者の同意なしで行ったので、当然のように、2005年9月にアメリカ作家協会が著作権侵害の訴訟を起こしました。

 そこで第一のキーワードが「クラスアクション」です。これは日本には無い制度ですが、集団訴訟と訳されます。
 700万冊もの書物をデジタル情報に転換すれば、その著作権に関係する人は100万人単位となり、すべての人が原告になる訳にはいきません。
 そこで、一部の権利者が、それ以外の権利者の委任状を取り付けること無く、代表として訴訟できるという制度がアメリカにはあり、それがクラスアクションです。

 それに対してグーグルが正当性の根拠として主張したのが、第二のキーワード「フェアユース」という概念です。
 これも日本にはないのですが、アメリカの著作権法で定められている規定で、元の書物の市場を奪わないなどの権利に配慮すれば、権利者の許諾を得ずに著作物を利用できるということです。

 この裁判は昨年10月28日に和解が成立し、最終的には今年の6月11日に内容が確定しますが、大略は、この事業により生じる売上の63%から経費を差し引いた分を「版権レジストリ」という管理団体に支払い、それを著作権者に還元するという内容です。
 細部では違いますが、日本で音楽関係の著作権を扱っているJASRACに近い仕組です。

 ここまではアメリカの騒ぎだったのですが、和解が成立した結果、日本にも火の粉が降り掛ってきました。その根拠が第三のキーワード「ベルヌ条約」です。
 これは、すでに120年以上も前の1886年にスイスの首都ベルンで締結されたもので、著作権を国際的に保護するための国際条約です。
 この条約によって、日本の書物であっても、アメリカの図書館などにあれば、その著作権はアメリカにも及ぶという内容です。
 そうすると、例えば私の本がアメリカの図書館にあり、それがグーグル・ライブラリー・プロジェクトの一環としてスキャンされると、私にも権利があるということになり、対処しなければならなくなるという訳です。

 この対処の方法は細かくは5種類になりますが、簡単に言えば、クラスアクションによる和解に参加して配分金を受け取るか、拒否して異議申し立てを行うかということになるのですが、その通知をする期限が5月5日ということで騒ぎになっているというのが現状です。
 「ユーチューブ」でテレビジョン番組の一部が勝手に投稿されてしまうとか、「ストリートビュー」で自分の家の外観が世界中に知られてしまうなど、グーグルのビジネスは色々と騒ぎを起こしていますが、すこし引いた視点から眺めると、インターネットによって、既存の社会の仕組が再構築されているということになり、今後も様々な分野で、このような破壊と創造が発生してくるのだと思います。





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