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論文

 今年2月のことですが、福島県の食料品卸会社が「大隈重信」という名前を商標登録申請していることが明らかになり話題になりました。
 言うまでもありませんが、大隈重信は佐賀藩士で第8代と第17代の総理大臣を務め、早稲田大学を創立した人物です。
 この会社は日本酒や果実酒に名前を使う予定で昨年7月に申請したのですが、申請していることが分かったために、早速、佐賀市や早稲田大学が反発し、遺族が不快感を表明したために、騒がれてまで出願する必要は無いということで、出願を取り下げることになりました。
 なぜ、大隈重信を商標登録しようとしたかと言うと、経営者が佐賀県出身でも早稲田大学の卒業生でもなく、歴史上の人物で登録されていない名前を調べたところ、大隈重信という名前が出願されていないということが分かったので申請したという単純な理由だったようです。
 ちなみに、幕末から明治にかけての有名人では、吉田松陰、高杉晋作、木戸孝允の名前を東京の貸金業者が商標登録し、昨年2月に萩市が異議申し立てしていますし、江藤新平も昨年2月に佐賀市の菓子店が登録しています。

 現在の規定では、生存している人物の名前は登録できませんが、歴史上の人物については規定が無く、特許庁が個別に判断するそうですが、登録に必要な経費は5万円程度で、多くの場合1年以内に認定され、だれでも申請できるので、このような問題が発生するのだと思います。
 歴史上の人物の名前だけではなく、話題になったのは、2003年に阪神タイガースが優勝したときに、千葉市内の男性が事前に「阪神優勝」を衣服などに使用する目的で商標登録していたことが分かり、球団が無効審判を請求し、特許庁が無効と判断したことがありました。
 それ以外にも阪神タイガースには商標に関わる話題があり、タイガー魔法瓶がローマ字で「TIGERS」の商標を登録していましたが、球団が無効を申し立て、結局、タイガー魔法瓶は「TIGER」、阪神タイガースは「TIGERS」を使用することで和解しています。

 この商標登録という制度は、19世紀に欧米各国で制定され、日本でも明治17(1884)年に「商標条例」が制定され、翌年、京都府の平井祐喜という人が「膏薬丸薬」という日本最初の商標を取得しています。
 このように歴史のある制度ですが、最近、新たな問題が発生してきました。
 中国や台湾で、日本の地名や商品名を次々と商標登録しはじめたのです。
 例えば「こしひかり」「あきたこまち」「ひとめぼれ」などの有名なコメの名前はすでに登録済みですし、都道府県の名前で、山形、新潟、東京、大阪など17都府県を除く名前が登録され、それ以外にも「加賀」「越前」「三河」「土佐」「薩摩」など江戸時代の藩の名前も登録されています。
 実際に中国産のコメが「こしひかり」や「秋田小町」という名前で中国で販売されていることが農林水産省の調査で分かっていますが、これは食品偽装にはならず、商標登録されていれば違法ではないということになります。
 『産經新聞』によると、さらに巧妙な例は、台湾で台湾産の豚肉に「松板霜降豚肉」という名前を付けて販売されているそうです。
 中国語では「阪」も「板」も発音は同じなので、間違いやすく、その販売業者は「脂のさし具合が松阪牛と似ているので松坂豚肉として売っている」と認めているとのことです。

 中国では大変な勢いで商標登録の申請が増加しており、1980年には年間2万6000件でしたが、2008年には70万件になっており、7年連続で世界一を維持しています。
 そして地名を使った農産品22種について中国の商標局が調査したところ、有名な地名を付けた農産品の値段は平均4倍に飛躍しているそうですから、ブランドの名前は十分な価値があることが分かります。

 これは制度として認められている合法的な商行為なので、けしからんということにはなりませんので、やはり商標を防衛する必要があります。
 そこで以前にもご紹介したことがありますが、日本でも「地域団体商標制度」が導入され、2006年4月1日から出願が可能になっています。
 これは個人ではなく、農業協同組合、漁業協同組合などが申請して登録可能になる制度で、名前は原則として地域の名前と商品の名前の組合わせで申請する必要があり、「大間まぐろ」や「山中温泉」という具合ですが、「サツマイモ」や「イセエビ」はすでに普通名詞となっていると判断され、認められません。
 今年の3月末現在、出願件数は879件で、もっとも多い分野は農林水産費が415件で47%、工業製品が228件で26%となっており、都道府県別では京都府がもっとも熱心で142件で全体の16%、2番が兵庫県の51件で6%という状況です。
 そのうち登録された件数は425件で、1位は京都府の54件ですが、2位は新潟県の27件、3位は岐阜県と東京都の26件となっています。
 具体的には、京都府の場合「京漬物」「京あられ」「京味噌」などの食品や「京人形」「京仏壇」「京扇子」などの工芸品が中心ですが、「鴨川納涼床」「湯の花温泉」も登録されています。

 外国からも、イタリアの生ハム「プロシュット・ディ・パルマ」、ジャマイカの「ブルーマウンテン・コーヒー」、カナダの「カナダポーク」、インドの「ダージリンティー」の4件が登録済みです。
 伝統の名前をわざわざ登録しなければいけないというのは世知辛い世の中だという気もしますが、世界は知的財産権の時代になっていますので、対応することが必要だと思います。





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