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論文

 この2週間ほどモンゴルに出掛けておりました。
 現在のモンゴルはゴビ砂漠で北と南に分断され、北が朝青龍などの出身地モンゴル国で、南は中華人民共和国内モンゴル自治区になっていますが、今回出掛けたのは北のモンゴル国のほうです。
 モンゴル国には日本から年間1万5000人ほどが観光などに行っていますが、今回は一般の方々はほとんど旅行されない辺境に行ってきましたので、今週と来週に亘って、モンゴル国の実際をご紹介させていただこうと思います。

 前半はモンゴル国でももっとも北に位置し、ロシアと国境を接しているフブスグルという地域に行きました。
 フブスグル地方は首都のウランバートルから直線距離では700kmほど北西にあるのですが、日本と違って高速道路も無いので、到達するのはなかなか大変です。
 往きは近くのムルンと言う人口1万人ほどの町まで飛行機で行き、残りの200kmを自動車で行きましたが、この200kmが大変な移動でした。
 町に隣接している飛行場から自動車で出発して5分もすると、丘陵地帯になって道が消えてしまい、草原の中の自動車が走った跡を辿って走っていくだけです。
 凹凸があるという程度ではなく、オフロードレースのコースを走っている感じで200kmを8時間かけて移動しました。
 ちなみに帰りは飛行機の時間が合わなかったので、ウランバートルまで全行程を自動車で戻ってきましたが、何と26時間の難行苦行でした。
 しかも自動車は2001年製のロシアの軍用に開発したワゴン車で、スプリングは無いといっていい程固く、電動マッサージ椅子に座っている状態でした。
 しかし、苦労の末に到着したダルハド盆地という場所は素晴らしい場所でした。

 モンゴルというと、普通は草原や砂漠を思い浮べますが、このフブスグルという地域には琵琶湖の4倍の面積のあるフブスグル湖があり、周囲には針葉樹の森林もあるので「モンゴルのスイス」と言われている美しい場所です。
 確かに観光で遠くから眺めていれば美しいのですが、大半の草原には遊牧の人々が生活しており、そこを訪れると、慣れるまでは結構苦労があります。

 今日は食べ物についての苦労話をご紹介しようと思います。
 遊牧の人々が生活しているのは「ゲル」と呼ばれる移動式の住居ですが、そこを訪れると、最初に必ずお茶が出てきます。
 これは「スーテーツァイ」といわれるモンゴル独特のお茶で、ストーブの上に大きな鍋を置いてお湯を沸かし、そこにレンガように固めたお茶の葉を削って入れます。
 次に朝絞ったばかりのヒツジの乳を大量に入れるのです。
 ここまでならミルクが多めのミルクティーですが、問題は次に「ホジル」という天然のソーダを加えることです。
 この「ホジル」は地面の中から文字通りほじってきた鉱物で、ヒツジやヤギなどもミネラルを補給するために舐めているものです。
 現地の人々は1日に2リットル以上飲むそうですが、我々も断るのは失礼ということで、飲んだのですが、効き目はてきめんです。

 何時間かすると何となく腸の調子がおかしくなり、朝食の最中の皆様には申し訳ありませんが、草原に駆け出していく始末になります。
 小は草原のどこでも大丈夫ということなので、男の場合は見渡す限り便所ということになりますが、大のほうはどこでもという訳には行きません。
 方法は2種類あって、1kmほど先にある林の中まで歩いていくか、住居のゲルから200mほど離れた草原に作ってある便所に行くかの選択になります。
 便所といっても穴の上に木の板が渡してあり、三方が木の塀で囲ってあるだけですが、この塀は高さ50cm程度しかなく、慣れるまでは大変です。
 しかし、夜中に出掛けると、気温は零度程度ですが、満天の星を眺めながらということになり、なかなか風情があります。
 さらに移動の途中で困った時はどうするかと言えば、自動車を止めて大草原の中でということになりますが、ヒツジの群れが横を通っていったり、イヌが処理するために近寄ってきたりします。
 経験者によると、イヌが近寄ってくると何となく不安ですが、そのイヌに自分の排泄物が見向きもされないと、これまた自尊心が傷つくそうです。

 本題の食事に戻らせていただきます。遊牧の人々の食事は、冬は「赤い食べ物」言われる肉類、夏は「白い食べ物」といわれる乳製品が中心になります。
 今回は「白い食べ物」の時期でしたが、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ラクダという5種類の家畜の乳から、20種類以上の加工食品を作って食料にしています。
 しかし、やはり有名なのは乳から作る酒です。ウマの乳を発酵させると「アイラグ」、日本で馬乳酒といわれるアルコール度4%程度の発酵酒です。
 ウシやヒツジやヤギの乳からも酒は作られますが、発酵酒の段階では酸味が強過ぎるので、これを蒸留酒にして飲んでいます。
 今回も作ってもらいましたが、牛乳を発酵させた「アイラグ」をまず作り、これをストーブに載せた大鍋に移して加熱し、その上に、鍋を吊るした小型のドラム缶のような金属の筒を被せ、さらに上部を水を入れた鍋で塞ぎます。
 そうすると加熱されて蒸気になったアルコール分が冷えた鍋の底で結露して、空中につり下げた小型の鍋の中に溜まるという仕組です。
 これを「アルヒ」と言いますが、手製の簡単な装置で見る見るうちに蒸留酒ができるので、感心しました。
 野菜のまったくない食事ですが、様々な家畜の乳を加工して豊富な食品を作り、栄養的に問題の無い食生活を送っている様子は驚くべきものでした。





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