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論文

 イギリスに「レフトハンダーズ・クラブ」という組織があります。日本語に訳すと「左利き団体」と言って良いかと思いますが、左利きの人々が社会で不等に不利益を被らないように努力している団体です。
 1990年にイギリスで設立された団体ですが、そのウェブサイトを見ると、何と今日8月13日が「左利きの日」になっています。これは創設者の誕生日を記念した日だそうです。

 そこで、その日を記念して、今日は左と右について考えてみたいと思います。そのウェブサイトを見ると、設立の目的が書かれていますが、そもそもは左利きの人々に合わせた商品を開発し生産することを企業に要請することのようです。
 現在の世界では、地域や人種に関係なく、人口の10%程度が左利きのようですが、それに比べて、左利きの人のためのゴルフクラブ、ハサミ、包丁、缶切り、急須などの道具、カメラや電話などの機械が少なく、結果として高価であるために、不利益を被っているので、これを改善していきたいというわけです。
 ちなみに日本では、この時期がお盆に重なるということで、2月10日が「左利きの日」になっています。理由は0(レ)2(フ)10(ト)という語呂合わせです。

 なぜ左利きが少数なのかについては色々な説がありますが、いくつかご紹介しますと、第一は自然淘汰説です。人間の心臓は左側にあるために、右手で剣を持ち、左手に楯を持つのが普通ですが、左利きで持ち方が反対の人は心臓を付かれて死ぬ確率が高くなり、右利きが多くなったという説明ですが、これは現在、否定されています。

 第二は突然変異説ですが、右利きと左利きにはDNAの差がないことが証明され、これも否定されています。

 第三は最近流行の生物多様化説です。様々な生物が存在する方が環境の激変などに対応できるので、生き残るために右利きと左利きが発生するということですが、これも否定されています。

 第四は遺伝によるという説です。イギリス王室では女王のエリザベス2世も、チャールズ皇太子もウィリアム王子も左利きのため、このような説明が行われていますが、左利き遺伝子は発見されておらず、これも肯定はされていません。
 それ以外にも諸説ありますが、かつて左利きは身体障害の一種と考えられていた時代があり、子供の時に矯正されることが多かったからというのが妥当ではないかということです。
 それは英語の右を意味する「right」が「正しい」という意味にも使われていることからも伺えます。

 冒頭にご紹介した「レフトハンダーズ・クラブ」のウェブサイトには、世界の左利きの有名人を、あらゆる分野にわたって数百名列挙しています。
 絵画の分野では、ミケランジェロ、レオナルド・ダヴィンチ、パウル・クレー、ペーター・ルーベンス、音楽の分野では、エンリコ・カルーソ、ニコロ・パガニーニ、セリーヌ・ディオン、ジミ・ヘンドリックス、政治家ではウィンストン・チャーチル、ジョージ・ブッシュ、フィデル・カストロ、そしてアメリカの現在の大統領バラク・オバマなど、錚々たる人々が左利きです。
 左利きの方々も自信をもって、レフトハンダーズ・クラブのように、左利きにも不利にならない社会を要求されたら良いのではないかと思います。

 左利きは人間の社会の話題ですが、物質の世界にも左利き問題があります。
 物質には、同じ分子構造にも関わらず、右利きと左利きがあります。これは右手と左手のように、一方を鏡に映すと、もう一方になるという関係で、専門用語では「光学異性体」とか「鏡像異性体」と呼ばれています。
 これは人間にとっては厄介な存在で、一方は人間にとって薬になるのに、他方は毒になるという場合があります。
 1957年にドイツの製薬会社が発売した睡眠薬サリドマイドが有名ですが、妊娠初期の女性が服用すると子供の手足が欠損するという副作用が発生し、1961年に使用禁止になりました。
 これは薬になる有機化合物を合成すると、光学異性体が一緒に合成され、一方が人間によっては有害だったということです。
 人工甘味料として使われているアステルパームも、一方は砂糖の200倍も甘いのに、他方は人間に苦みを感じさせる性質をもっています。
 ペニシリンも一方は細菌の増殖を阻止する作用がありますが、他方はまったく効果がありません。
 それでは薬になる化合物のみを合成すればいいということになりますが、これは生物の力に頼らない限り無理だとされてきました。
 この難問を解決されたのが2001年にノーベル化学賞を受賞された野依良治博士です。
 人間にとって有用な光学異性体のみを人工的に合成することを可能にする方法を1980年代に発明されたのです。これは製薬産業などにとっては感謝してもしきれないほどの恩恵で、ノーベル賞を授与するのが遅すぎたというほどの貢献をした大発明です。

 それから7年経った昨年、南部陽一郎博士、小林誠博士、益川敏英博士がノーベル物理学賞を受賞されましたが、この3人の業績は、宇宙の右と左に関する理論です。
 簡単には説明できませんが、宇宙に存在する左右対称の状態が破れることにより、物質が存在しているという理論です。
 これは素粒子という目に見えない世界の理論ですが、われわれが目にする自然の世界には、右巻きの貝と左巻きの貝、右巻きの弦をもつ植物と左巻きの弦をもつ植物などがありますし、人間が作ったモノでも、右巻きのバネと左巻きのバネ、右に捻ったヒモと左に捻ったヒモなどがあります。
 夏休みに身の回りのモノを、右巻きか左巻きかで観察すると、色々な発見があり、ノーベル賞に繋がるかも知れません。





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