TOPページへ論文ページへ
論文

 第45回の衆議院議員選挙が終わり、1993年に成立した細川内閣から数えれば16年ぶりに政権交替となる歴史的事態となりました。
 この新政権によって、どのような日本になるかは色々と議論がされていますので、今日は選挙という社会行動を、いくつかの側面から考えてみたいと思います。

 まず選挙の経済です。
 8月30日の選挙当日、日本の有権者数は人口の81%に相当する約1億400万人で、投票率は小選挙区で69・28%、比例区で69・27%でしたから、ざっと7200万人の人々が投票したことになります。
 この投票に、どれほどの費用がかかるかを計算してみますと、比較的明確な数字は国と地方自治体が支出する費用で、国は有権者が投票をするように啓発する広報費に約11億円、比例区に届け出ている政党の新聞広告費に約19億円の20億円を支出し、地方自治体は、投票所を用意するために約200億円、開票所を用意するために約56億円、ポスターの掲示板を用意するのに約50億円、新聞広告や政見放送の費用で約77億円など、合計650億円を支出します。ただし、これらの費用は国から地方自治体に支給されます。
 合計すると683億円になり、有権者1人あたりでは660円、投票した人1人あたりでは950円の税金が使われたことになります。

 当然、選挙に立候補した候補者も選挙費用を使う訳ですが、これは選挙区の有権者数に応じて法律で上限が決まっており、多くの選挙区では2500万円程度です。
 全額を使っているか、実際にはそれ以上使っているかは分かりませんので、2500万円としてみると、今回の選挙に立候補した人数は1374人でしたから、ざっと340億円が使われたことになります。
 合計してみると1000億円を超え、有権者1人あたり980円になります。

 選挙は国民の義務ですから、その労力を金額に換算することは適切ではありませんが、投票に使われた時間をお金に換算してみると、投票所までの往復の時間を含めて1人平均30分を使ったとして、都道府県が定めている最低賃金の平均703円の30分相当として350円を掛算してみると、250億円を支払ったことになります。

 結局、様々な費用を含めると、政権選択のために1300億円が必要だったということになりますから、ぜひそれに見合うような新しい日本が創られることを、今後も我々は監視していく必要があります。

 もう一点はインターネットが普及した情報社会の選挙の見通しです。
 現在の投票所の開票の光景は、大きな台の上に投票箱から投票用紙が広げられ、人海戦術で仕分けして数えるという方法が主流ですが、次第に最新技術が導入されています。
 まず折り畳まれた投票用紙を開くのに時間がかかるので、折り曲げられていても自然に開く合成紙を使う自治体が急速に増加しています。
 次に書かれている候補者名や政党名を読み取る作業ですが、これにも自動判別装置が開発され、スキャナーで読み取った文字を、あらかじめコンピュータに登録した文字と照合して判別し、毎分480枚の処理速度で、最近では96%の正解率になっています。

 このような装置の導入や自治体の努力により、開票に必要な時間は急速に短縮され、数時間短縮した自治体も登場しています。
 開票に携わる自治体の職員は全国で30万人程度ですが、深夜の作業のため、自給は平均で3500円支払われていますから、すべての自治体が1時間短縮すれば、全国では11億円近い節約になります。

 しかし、多少の技術を導入しても人海戦術による開票では時間縮小に限界があり、そこで期待されているのが電子投票です。
 すでに2002年の岡山県新見市の市長・市議会議員選挙で導入され、その後、延べ20回の電子投票が実施されています。
 投票所に行くと電子式の投票カードが渡され、そのカードを装置に差し込み、タッチパネル画面に表示される名前を触ると投票したことになります。
 投票時間終了と同時に集計も完了し、大変に便利ですが、現状では問題もあります。
 第一が機械ですから故障する可能性がゼロとは言えませんので、その対策が必要です。
 2003年に岐阜県可児市の市議会議員選挙で使われた時には、装置の故障で1時間以上投票ができなかったために、投票をあきらめて帰った人もおり、結局、選挙自体が無効になったことがあります。
 もう一点は、一年に何度も使う装置ではないので、高価な装置の償却費用や保管費用の問題です。
 今回の衆議院議員選挙で用意された投票所は全国で5万978カ所ですが、平均して5台の電子投票機を置くとしても、25万5000台の装置を保管する必要がありますから、相当な負担になります。

 そうすると、その先はインターネットの利用ということになりますが、これはまだまだ遠い道のりです。
 投票に利用する以前に、選挙活動にインターネットを利用することが、以前から議論されていますが、現状では公職選挙法142条で選挙期間中の「文書図書の配布」を制限しているため、公示後には選挙活動に関係するウェブサイトの内容変更を禁止しており、候補者の選挙演説会場の変更告知さえ違法とされています。
 しかし、今回の選挙期間中、自由民主党のウェブサイトでは民主党を攻撃する内容が更新されていたり、民主党も党三役の活動の写真をウェブサイトに掲載したりして、次第になし崩しになりつつあります。
 社会はインターネットなしには成り立たない時代になっていますので、そのような手段のない時代に制定された公職選挙法を見直し、巨額の費用を必要としない選挙を実現する方向に修正していくべきではないかと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.