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論文

 最近、ロボットが色々と話題になっていますが、10月6日から10日まで千葉県の幕張メッセで開催されたCEATEC(シーテック)2009では、村田製作所が一輪車を乗りこなすロボット「ムラタセイコちゃん」を公開して人気でした。
 これは4年前に公開された二輪車に乗るロボット「ムラタセイサクくん」の従姉妹ということですが、今年は「ムラタセイサクくん」も技能が向上して、幅2cmの平均台の上を走るという技を披露しました。
 一方、パナソニックは10月15日に家庭用ロボット事業に参入するということで、食器洗いロボットや電動ベッドの一部が電動車椅子に変わるロボットなどを公開しています。
 また、9月に横浜市で開催された日本ロボット学会でも、つくば市にある産業技術総合研究所は車椅子から腕が伸びて冷蔵庫の扉の開閉や室内のモノを移動ができるロボットを発表し、早稲田大学も人間が立ったまま乗ることのできる移動ロボットを発表し、流行現象になっています。

 よく知られているように、「ロボット」という言葉はチェコスロヴァキアの作家カレル・チャペクが1921年に発表した戯曲『RUR(エルウーエル):ロッサム万能ロボット会社』の中に登場する人造人間をチェコ語で労働を意味する「ロボタ」と名付けたことから社会に浸透するようになったものです。
 このような人間の仕事を代わっておこなう機械は現在では「産業ロボット」と呼ばれますが、技術の面でも利用の面でも日本が世界の最先端を行っています。
 2007年末には世界で約99万5000台の産業ロボットが使われていますが、その36%に相当する35万6000台が日本で使われ、2位のドイツの14万台(14%)を大きく引き離しています。
 しかし、これでも最近は比率が低くなってきており、1985年には世界の産業ロボットの3分の2が日本で使われていました。
 なぜ日本で産業ロボットが普及しているかについては、機械というものについての考え方が西欧社会と違うからだと思います。

 一般に西欧社会では神が創った人間と、その人間が創ったモノは対等ではないと考えられていますが、日本では万物に魂があるという一種のアニミズムが現在でも生きており、ロボットにも親近感を抱いているからではないかと思います。
 「ムラタセイコちゃん」という名前が象徴していますが、ロボットを、あたかも生物のように扱っていますし、工場にある産業ロボットの多くにもタレントの名前が付けられています。
 そこから新しいロボットの発想が登場しています。
 ホンダの「ASIMO」、ソニーの「SDR」、トヨタの「パートナーロボット」など、2本足で歩くロボットも技術開発の成果としては画期的ですが、ロボットの方向転換に大きな役割を果たしたのが、ソニーが1999年に発売したイヌ型のロボット「AIBO」です。
 これは愛玩動物であるイヌのロボットですが、25万円もするのに予約受付からわずか20分で3000台が完売という人気でした。
 そこから様々な動物ロボットが発売されましたが、世界的に話題になったのがメンタルコミットロボットと呼ばれる「パロ」です。
 これは独立行政法人産業技術総合研究所の知能システム研究部門の研究者が研究の一環として開発した製品で、白いアザラシの形をして触ったり、話しかけたりすると色々な反応をするロボットです。
 介護施設などで高齢者の方々に人気で、2002年にはギネスブックに「Most Therapeutic Robot」(もっとも癒し効果のあるロボット)として登録され、1体35万円もしますが、スウェーデン、イタリアなどの病院や介護施設に導入され、昨年にはデンマークからも大量の注文がきています。
 これまで西欧社会ではイヌやネコやウマなどによって心を癒すアニマルセラピーは存在していましたが、機械で人間の心を癒すという発想は日本ならではの発想だと思います。

 ところが最近、さらに新しいロボットが登場してきました。
 これまでの主流は産業ロボットや人間の力を拡大して重いものを簡単に持上げる「パワードスーツ」が示すように、ロボットは人間より優れた能力を持って人間を手助けするという存在でした。
 最近、注目されているのは、そのように人間より強く役に立つロボットではなく、人間より弱く、役に立たないロボットです。
 豊橋技術科学大学の岡田教授が開発したロボットは、ゴミ箱の形をしたロボットが人間を感知するとヨタヨタと近寄ってきてゴミを受け取ったり、人々が雑談している机の上に置かれて関係ない言葉を話して場を和ませたりする役割をしています。
 キーワードは「弱さを力に」ということで、ついつい人間が手助けしたくなるような気持になり、結果として、心が癒される効果を目指しています。
 ジョージ・ルーカス監督の映画『スターウォーズ』に出てくる「R2D2」や「C3PO」のように頼りなさそうなロボットに兆しはありますが、これまでの強力で人間を助けるロボットから、人間に助けられることによって人間の心を和ませるロボットへと発展してきたという訳です。

 人間が相互に打ち解けられないので、ロボットが必要になるという社会も問題だと思いますが、現代社会の問題に技術が挑戦しているのだと理解するべきでしょう。
 このようにロボットの変化を調べてくると、機械にも魂の存在を感じる日本の文化はロボットの開発には適していると思います。
 これまでの強くて人間を助けるロボットでも日本は先頭でしたが、弱くて人間に助けられるロボットでも、さらに発展すると思います。





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