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論文

 「禍福は糾える縄の如し」「人間(じんかん)万事塞翁が馬」「風が吹けば桶屋が儲かる」などという諺がありますが、世の中の因果関係は複雑だということを表したものです。
 そこで今年の出来事で、思わぬ因果関係を示す出来事をご紹介しながら一年を振り返って見たいと思います。

 第一は読売新聞の「読者が選ぶ10大ニュース」でも7位に入った「高速道路の通行料金1000円」です。
 これはETCを搭載する普通車以下の自動車を対象に、土曜日曜祝日は高速道路通行料金を終日5割引、上限1000円にするという制度で、3月28日から始まりました。
 そこだけを注目すると高速道路利用者には「福」ですが、フェリーの旅客が減って倒産する会社も出現し、JR各社も大幅な減収になっています。
 また、先週もご紹介したように、自動車交通量の増加で二酸化炭素の排出が増えて、京都議定書の目標達成に障害となる「禍」も現れています。
 ご参考までに、これまで大半の高速道路が無料であったアメリカでは、2007年から高速道を有料にするための補助金制度が実施されており、現在すでに、アメリカの高速道路全長の3%強になる約8000kmが有料に変更されていますし、フリーウェイの象徴であるロサンゼルスでは2011年から40kmを条件付きで有料にすることが決まっています。

 第二は、これも読売新聞の「読者が選ぶ10大ニュース」で堂々の4位に入った「WBC連覇」です。
 2006年の「王ジャパン」の優勝に続いて、今年は「原ジャパン」も優勝ということで「福」です。
 さらにTBSにとっては、関東地区の年間視聴率で11月29日の「ボクシングWBCフライ級タイトルマッチ・内藤大助X亀田興毅」が43・1%で1位、3月20日の「WBC日本X韓国戦」が40・1%で2位と、2つのWBCで1位と2位を獲得し「大福」でした。
 しかし、WBCの背景を知ると、必ずしも「大福」でもないのです。
 この大会は2005年7月11日にアメリカのMLB(メジャーリーグベースボール)が2006年の開催を発表したものですが、その3日前の7月8日にはIOC(国際オリンピック委員会)の会議で、2012年のロンドン・オリンピック大会で野球とソフトボールは競技種目から除外すると決まったばかりでした。
 何となく背景が推測できるわけですが、来年、南アフリカ共和国で開催されるサッカーのワールドカップのように200カ国以上が予選を勝ち抜いて大会に出場するわけではなく、主催者であるMLBが指名した16カ国が参加するだけで、しかも日本と韓国は5回も対戦するという不思議な大会でした。
 さらに不明朗なのが収益の配分で、主催するMLBが33%、MLB選手会が33%を取り、優勝した日本は13%という状態です。「禍」とは言えませんが、スッキリしない結末です。
 ご参考までに、アメリカではESPNが放送しましたが、第1ラウンドの視聴率は1・3%だったそうです。

 COP15も曖昧な結果に終わり、1月末までに各国が提示する拘束力のない削減目標が当面の話題ですが、日本は条件付きにせよ25%を明言していますから数値を下げるわけにはいかないと思います。
 そこで期待されるのが様々な自然エネルギーで、その一つが風力発電です。
 日本では2000年の設備容量14万4000kwから、2007年には153万8000kwと11倍近くも増え、風車の本数も1500基以上になりました。ここまでは「福」です。
 ところが今年の中頃から、風車の周辺の住民から体調不良を訴える苦情が増え、風車が回転するときに発生する低周波音が影響しているのではないかという意見が出てきました。
 低周波音は普通の人間の耳では聞き取れない20Hz以下の周波数の音ですが、風車が回転するときに低周波音が発生し、それが体調に影響するという関係です。
 因果関係が完全には解明されていないため、環境省は来年度から4年計画で稼動しているすべての風車について現地調査をすることになりました。
 風車は、それ以外にも自然景観を損なうとか、鳥が回転する風車に当たって死ぬというバードストライクも問題になっています。
 アメリカのように広大な牧場に大量に設置するとか、デンマークのように浅い海に設置すれば問題ないのですが、人間が高密に済んでいる日本では「禍」の部分が現れてきたということだと思います。

 花王の発売している「エコナ クッキングオイル」も禍福が転換した事件でした。
 脂肪が身体に付きにくい食用油ということで、1999年に食用油としては最初の「特定保健用食品」に認定され、その効果もあって年間200億円の売上となる花王のヒット商品で、まさに「福」でした。
 ところが、今年になって、この食用油に「体内で発がん性物質に変わる可能性がある」とドイツの研究機関が発表している「グリシドール脂肪酸エステル」が含まれていることが分かり、花王は販売を自粛し、「特定保健用食品」の表示許可を自主的に返上することになりました。
 花王は改良した製品を開発し、再度「特定保健用食品」の認定を申請する方針のようですが、数年は必要だと見られています。
 しかし、「グリシドール脂肪酸エステル」が含まれていることが判明してからの対応について、読売新聞が行ったアンケート調査では「花王の対応に納得した」と「花王へのイメージが良くなった」が46%、「イメージが悪くなった」と「不信感をもつようになった」が37%で、好意的な評価の方が多いのですが、それなりの「禍」にもなっているようです。
 社会はなかなか一筋縄では理解できない複雑な側面を含んでおり、我々も社会を多面的に見る必要があるということだと思います。





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