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論文

 今年も年賀状の季節が終わりました。
 元日に配達された枚数は20億8500万枚ですが、元日以後も配達されていますから、合計すると、30億枚近くの年賀状が日本国内を往来したのではないかと思われます。一人あたり平均23枚です。
 郵政省時代から発売されていた年賀状の枚数の統計を調べてみると、1950年には1億8000万枚、70年には16億枚、90年には38億3000万枚と急速に増えてきましたが、最近は頭打ちになり、今年用は39億枚が発売されました。
 この60年間で21・7倍に増えた訳ですが、その間に人口は1・5倍しか増えていませんから、平均すれば一人あたりの年賀状の枚数は14倍以上に増えたことになります。

 もちろん、1年に1回、友達の消息が分かるなどの意義はありますが、儀礼的な年賀状も多く、そのために日本人が費やしている時間と経費は膨大な量になります。
 仮に、宛名を書いたりする仕事に1枚あたり1分を費やすとすると、30億枚では30億分、5000万時間になり、時間単価2000円を掛算すれば1000億円に相当する時間を費やし、30億通の郵送のため、1通50円のハガキとして1500億円を使っていますから、日本人すべてが参加して2500億円のお祭りを毎年行っていることになります。

 日本の年間の通常郵便物は190億通ほどですから1日平均5200万通になり、年賀状期間は通常の60倍の郵便物爆発です。
 しかし、年賀状の配達は2000年が36億通で最高であり、以後、減ってきていますが、代わりに爆発している情報があります。デジタル情報です。
 世界で流通している電子メールは2000年には1日100億通と推定されていましたが、2005年には350億通になり、現在では2000億通以上になり、わずか10年で20倍に爆発しました。
 90%以上が迷惑メールですが、世界のインターネット利用者16億人について、一日平均125通のメールが届いている計算です。
 世界の通常郵便は年間4000億通程度、1日に11億通になりますから、その200倍の情報のやり取りがインターネットによって可能になったということで、迷惑メール問題はあるにしても、情報爆発です。

 電子メールだけではなく、デジタル情報すべても爆発しており、その状況を表す「エクサフラッド」という言葉が登場しました。
 これは2007年にアメリカの研究者が作った言葉で、「フラッド」は洪水という意味ですが、「エクサ」は巨大な数字を表すための数詞です。
 「メガ」は10の6乗、「ギガ」は10の9乗を表し、この辺りまでは多くの方が耳にしておられると思いますが、その上が「テラ」で10の12乗、「ペタ」が15乗、そして18乗が「エクサ」で、1の後ろに0が18個並ぶ想像もできない大きな数字です。
 アメリカの調査会社IDCによると、2006年に世界全体で創り出されたデジタル情報は161エクサバイトでしたが、それ以後、毎年1・57倍の勢いで増加し、今年は988エクサバイトと6倍以上になるということです。
 1000エクサバイトになると、次の数詞の「ゼタ」に移りますから、間もなく「ゼタフラッド」時代というわけです。

 これがどの程度かを実感していただくために、3つの比較をしてみたいと思います。
 まずこれまで人間が残してきたすべての書物の情報量と比較すると、1800万倍になります。
 逆に言えば今年のある2秒にもならない時間に作られるデジタル情報が、過去に人間が書いたすべての書物の情報に「量」では匹敵するということですから、何かはかない気持になる数字です。
 次に、一般の家庭にある最大の記憶装置はテレビジョン番組を記録するハードディスクですが、市販の最大の容量の装置が2テラバイト程度ですから、1000エクサバイトの情報を記録するためには、5億台の装置が必要という規模です。
 仮に装置の幅を30cmとして、5億台を並べると、15万kmになりますから、赤道を4周する長さになります。
 最後は人間の脳との比較です。脳と電子式記憶装置とは記録の方法が違いますから正確な比較はできませんが、人間の脳の記憶容量は20テラバイト程度です。その能力をすべて活用できたとすると、5000万人の脳をすべて使って記録できる情報が1年で創り出されるということになります。
 これも5000万人の人間が80cm間隔で赤道の上に並ぶと、丁度、地球を1周することになります。

 人間は情報を期間と空間を超えて伝える能力を獲得したことによって発展してきましたが、これだけ膨大な洪水になってしまうと、どのようにして必要な情報を取り出すことができるかが不安になります。
 グーグルのような検索サービスがあるという意見があると思います。
 グーグルがウェブサイトの情報を記録しているサーバーの台数は世界全体のサーバーの10%程度と推定されています。
 そこで非常に大雑把に考えれば、何らかの形でデジタル情報として保存されている情報の10%をグーグルによって検索は可能ということになりますが、取り出した情報を最後に使うのは、やはり人間の脳です。
 今後、この洪水を人間のささやかな脳を駆使して、どのように乗り切るかが勝負の時代になりますが、重要なヒントは、人間の脳には電子式記憶装置にない素晴らしい性能があることです。
 それは「忘れることができる」という能力です。この能力を適切に使う工夫が、逆説的ですが、エクサフラッドに溺れないコツではないかと思います。





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