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論文

 昨年の12月にデンマークのコペンハーゲンで開かれた「国連気候変動枠組条約第15回締約国会議」通称COP15では、事前の予想通り、「拘束力のある政治的合意」には程遠い「コペンハーゲン協定」に合意して終了しました。
 この状態から前進するために、今年の2月1日までに、先進国は2020年までの排出削減目標を提出することになり、それを元に今年の年末にメキシコで開かれるCOP16で交渉が行われることになります。
 ここで削減の対象になる温室効果ガスは産業分野、運輸分野、そして民生分野といわれる家庭やオフィスから排出されるものが中心ですが、非常に大きな排出源で議論の対象になっていない分野があります。

 家畜です。国連食糧農業機関(FAO)による2007年の数値ですが、世界には13億6000万頭のウシ、9億2000万頭のブタ、10億9000万頭のヒツジ、180億羽のニワトリ、1億8000万頭の水牛、5900万頭のウマ、8億3000万頭のヤギが飼われており、合計すると225億頭になります。一人あたり3・3頭ということになります。
 しかし、この数値は過小評価で、いくつかのNGOは500億頭にはなると言っていますから、一人あたりでは7・4頭になります。
 しかも、この数字は急速に増えており、食肉生産は1990年には1億8000万トンで一人あたり34kgでしたが、2000年には2億3400万トンで一人あたり38kgになり、2007年には2億7000万トンで一人あたり40kgと増えてきました。
 そして昨年、人口は68億人を突破しましたが、現在の勢いで増加していけば、2050年には1・35倍の90億人を突破すると予測され、同時に食肉の生産量は2倍になると予測され、一人あたりでは59kgになるということです。

 肉を食べることは贅沢だと思われていますから、結構なことのようですが、環境には様々な問題が発生します。
 第一に家畜の大半は牧場で飼育されていますが、新しい牧場のほとんどは森林を伐採して造成しますから、二酸化炭素を吸収する地球の能力が急速に失われていきます。
 地球の森林の減少をリアルタイムで表示するカウンターがインターネットに作られていますが、ほぼ2秒に1へクタールの勢いで減っています。
 国際規格ではテニスコート1面の面積は最小で668平方メートルですから、1秒でテニスコート7・5面の森林が無くなっている計算です。
 この森林はヘクタールあたり200トンの炭素を貯留していますが、牧場にすると8トン程度ですから、牧場を広げることによって大量に炭素が放出される結果になります。

 第二は家畜が大量に二酸化炭素やメタンを排出するということで、いくつかの計算があります。
 世界の二酸化炭素排出量は2007年に290億トンですが、家畜の排出量は75億トンから88億トンと推計されており、世界の排出量の20%から30%に相当します。
 これは2007年にアメリカを抜いて世界一の二酸化炭素排出国になった中国の出す61億トンの1・2倍から1・4倍になります。
 とくに影響の大きいのがウシなどの反芻動物が出すゲップで、この主要成分はメタンです。
 世界のメタンの排出量の75%はウシが出すものですが、メタンは二酸化炭素の20倍以上の温室効果がありますから、影響は無視できません。

 そこで様々な努力が始まっていますが、アメリカでは従来よりもメタンを吐き出す量が25%も少ないウシを品種改良によって開発したとか、アルゼンチンでは飼育しているウシの背中に大きなプラスチックのタンクを背負わせて、そこにメタンを回収するという漫画的な実験も行われています。
 しかし、より効果的な方法は肉の消費を減らすことですが、これは食文化でもありますから簡単ではありませんが、牛乳を豆乳に変えるとか、牛肉を大豆から作る人工肉に変えるという研究や提案もされています。
 また日本の水産業界は、一部の国々から非難されているクジラは二酸化炭素の排出の点からは素晴らしいと主張しています。
 昨年4月に水産総合研究センターが発表した試算によると、1kgのクジラの肉を生産するためには、2・5キログラムから3キログラムの二酸化炭素を排出するが、これは牛肉の10分の1以下だということです。

 もう一つ、食生活の習慣を変えずに解決する方法があります。
 世界で栄養不足の人口は約10億人ですが、栄養を摂りすぎている人は11億人、肥満の人は3億4000万人です。
 アメリカでは1日に食糧を購入するために使われる金額が約100億円ですが、体重を減らすために1日に使われている金額がほぼ同額、肥満で病気になった人の医療費が1日220億円です。
 さらに、アメリカとヨーロッパでペットフードに使われる金額は1日40億円です。
 そしてアメリカで1日に捨てられている食糧は13万トンですが、世界全体で1日に援助されている食糧は2万8000トンです。
 数字があるのでアメリカを例にしましたが、日本を含めて豊かな先進諸国と貧しい発展途上国を比較すれば、同じような傾向になります。
 どこかおかしいと感じられると思いますが、問題は配分にあります。
 この問題を解決する方法を考え出せば、家畜による二酸化炭素排出問題は大きく緩和されますし、1日に3万5000人が栄養不足で死ぬという問題も解決するということです。





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