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論文

 ここ20日間ほど、アンデス山脈に出かけておりましたので、その話をさせていただきたいと思います。
 アンデス山脈で有名な観光地は世界遺産にも指定されている、インカ帝国の神聖な神殿であったマチュピチュの遺跡ですが、私が出発する直前に洪水で孤立し、多くの観光客がヘリコプターで救助されるという情報がありました。
 丁度、その付近が目的地でしたので心配しながら行きましたが、幸い、到着したときには天気は回復していました。
 しかし、途中で氾濫したウルバンバ川沿いの道路を通りましたが、まだ川は濁流のままで、多くの家が崩壊し、高台に非難している人々が多数いるという状況でした。
 多くの家が「アドビ」と呼ばれる日干し煉瓦で造られているため、水に浸かると角砂糖が溶けるように壊れてしまい、屋根が落ちてしまうという状況でした。
 現地の人々にとっては不幸なことですが、外部から訪ねる人間にとって大変なことは、気圧が低く、酸素が不足して高山病になるということです。

 気圧は1000m上昇するごとに100hPa程度減少するとされていますから、私が出かけた富士山より高い標高4000mの地点では620hPa程度になります。
 実際、腕時計に付いている簡単な気圧計でも630hPa程度でした。
 そうすると東京の平地で21%の酸素濃度は13%程度になります。
 調べてみると、一般に酸素濃度が16%くらいになると呼吸数や脈拍数が増加し、頭痛がし、集中力が低下する。12%くらいになると「めまい」や「はきけ」がするなど、高山病になると言われています。
 そこで、飛行機でいきなり標高3600mもあるクスコに行くとなかなか厳しい状態で、高度順応するまでは歩くのも平地の半分以下でしか歩けません。
 ある日本の財界人が観光に来られたときに、もちろんホテルは1階の部屋にし、しかも、少しでも酸素濃度が濃い方が良いということで、床に寝たという笑い話のような本当の話がありますが、そのような気持になります。

 実際に私も切実な経験をしました。標高3400mくらいの場所に、インカ帝国時代の「モライの遺跡」という場所があります。
 ここは直径数100m、深さ160mほどのスリバチ状の穴を利用して、円形劇場のような石段が作ってあるのですが、これはインカ帝国時代の農業試験場です。
 穴の底に近付くほど気圧が増し、温度も微妙に変化するので、数十段ある段ごとにジャガイモやトウモロコシを植えて品種改良をしていた場所で、現在も一部が使われていますが、インカ帝国の文化が進んでいたことを示す遺跡です。

 この一番下の部分で撮影をしていたときに問題が発生しました。
 急に腹痛の気配がし、便所に行きたくなったのですが、公衆便所は160mほど上の噴火口の端のような部分にしかないので、そこまで登っていく必要があります。
 茂みの中でと考えても、その上部から多くの環境客が下を覗いていますから、それもできない。
 そこで石段を上り、急な坂道を上って行くのですが、時速1kmを超えて歩くと心臓が破裂しそうになります。
 まさに「ダブルバインド」の状況で、たった160mの坂道を20分ほどかけて登り、なんとか我慢して公衆便所に到達したのですが、ホッとして気付くと当然ですがトイレットペーパーはないし、水洗の設備も壊れているということで、何とかなりましたが、今回、もっとも厳しい経験でした。

 別の厳しい体験もありました。
 何軒かの家を訪問しましたが、区切りのない10坪ほどの土間だけという家が大半で、寝室も居間も台所も一体です。
 中に座っていると、動物の鳴き声がして、ときどき足元を小型のウサギのような動物が走り回っています。
 アンデス山脈の人々の主食はジャガイモやトウモロコシが中心ですが、不足する動物性タンパク質を補うために、現地語で「クイ」、日本では「テンジクネズミ」と呼ばれるモルモットの一種を家の中で放し飼いにしているのです。
 これは御祝いなどのときに食べるそうですが、日本から客人が来たというので、希望しなかったのですが、ご馳走してくれることになりました。

 走り回っている「クイ」を手で掴んで絞め、それを土間に置いて花びらと水をかけてお祈りしてから料理を始めるのですが、まず熱湯に浸けて毛をむしり、内蔵を取って中に香草を詰め、串に刺して、かまどの遠火で2時間近くかけて、こんがり焼くと仕上がりという訳です。
 主賓から食べろということなので、一口食べましたが、「テンジクネズミ」という名前でなく、「北京ダック」だと言ってくれれば躊躇なく美味しいという味で、クスコの郊外には、この「クイ」専門のレストランが道路の両側に並んでいる一帯さえあるほどです。
 これは何とか突破したのですが、さらなる難題が待ち構えていました。一番美味しいのは脳みそだから、頭の部分を食べろという訳です。撮影のためだから我慢して食べようかと覚悟したとき、幸いにも、横にいた2歳くらいの子供が欲しいと駄々をこねたので、これ幸いと子供にあげたところ、いきなり口先からかぶりついて美味しいそうに食べてくれました。まさに所変われば品変わるということです。





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