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論文

 アンデス山脈続編をお届けしたいと思いますが、アンデス山脈の山の中に、ペルーとボリビアの国境にまたがった「チチカカ湖」という有名な湖があります。
 この湖の面積は琵琶湖の12倍もあるのですが、湖面が標高3810mにあり、富士山(3776m)よりも50m近く高く、日常的に汽船が行き来している湖としては世界でもっとも高い場所にあります。
 インカ帝国を創った初代皇帝マンコ・カパックが妹のママ・オクリョとともに、この湖にある島に降り立ったという伝説がある神聖な湖です。

 この湖のペルー側に、人口22万人ほどの「プーノ」という町がありますが、その船着き場から小型船で30分ほどの沖合に、非常に珍しい生活をしている民族がいます。
 「ウロ族」と呼ばれる先住民族ですが、湖の浅瀬に生えている「トトラ」というカヤツリグサ科の植物を使って浮島を作り、その上で生活している人々です。
 他の民族に追われて湖に逃げ出したとか、当時の社会の賤民であったために隔離されていたなど、色々な説がありますが、ペルーの主要な先住民族である「ケチュア族」や「アイマラ族」とは別の言葉を話す民族のようです。
 どこが珍しいかというと、この「トトラ」という自生している草だけで、生活のすべてを賄っているということです。

 まず何と言っても土地に相当する生活の場所を草で作っていることです。水の中を覗いてみると、水面下に1mほどのトトラの層があり、水面上に突き出た1mほどの高さの土地に10人ほどの単位で生活していますが、そのような島が数10作られています。
 したがって、風が吹くと湖の上を移動してしまい、私が訪ねた前日の夕方に強風が吹いたために、教えてもらった場所とは大きく離れた場所に移動していました。
 歩いてみると、足が沈み、砂浜を歩いているような感覚です。
 次は家ですが、これも壁や屋根がトトラで作られ、中の土間もベッドもトトラで作られています。寝心地は抜群だという説明でしたので、寝てみたところ、確かに適当な固さがあって、まあまあの寝心地でした。
 しかし、問題は数ヶ月しか保たないので、年に何回も家を作らないといけないという手間がかかることですが、簡単にできてしまうそうです。

 島ですから、どこかへ行く時は船が必要ですが、これもトトラを束ねて作った船です。
 大中小の三種類の船が使われており、小は鳥などの獲物を捕まえるとき、中は魚を獲るときで、いずれも1人乗りか2人乗りです。
 大は20人以上も乗ることのできる大きな船ですが、プーノの町まで出かける時や、荷物の移動に使われています。
 試しに乗ってみろと言われたのですが、非常に安定が悪く、湖の水温が数度しかない冷たい水なので辞退しましたが、ウロ族の人たちは老若男女すべて自由自在に乗りこなしていました。

 次は食べ物ですが、ジャガイモと魚と水鳥が主な材料です。魚や水鳥は周りの湖で自由に獲ることができますが、ジャガイモも浮島で作っているのです。
 土のないところで、どうして作るのかというと、水中に沈んでいるトトラを切り出して放っておくと、腐植土のようになり、その土で浮島の一角に畑が作られており、自給自足しています。
 そしてお茶もトトラを煮出したもの、それからトトラを引き抜いて皮を剥がすと、フワフワの芯があり、それは子供のお菓子代わりというわけです。
 そして水を湧かしたり、料理をする時の燃料も乾かしたトトラですが、干し草の島の上で燃やして料理をしており、よく火事にならないものと感心しました。
 特別の御馳走は小型の石をトトラの火で焼いて、その上に魚やジャガイモを乗せ、さらに焼けた石を被せて蒸し焼きにする料理ですが、盛大に燃やした火で石を焼いても、燃え移らないという見事な調理でした。

 そのような地産地消の究極のような生活ですが、唯一、浮島の上で処理できないことがあります。便所です。
 男の小用は浮島の端の人目につかない場所で、湖に落ちないように注意して済ますことができますが、大はできません。
 どうするかと言うと、小舟を自分で漕いで、近くの陸地まで行って用足しをしなければいけないのです。
 我々は小型船が横付けになっているので、その船の便所で何とか済ますことができますが、緊急事態の時はなかなか大変です。

 今回、もう一つ興味ある習慣を見ることが出来ました。
 我々が訪ねた島に生活している家族の娘が「出来ちゃった婚」になり、自分の浮島からお婿さんの済んでいる浮島に移動する現場に立ち会うことになりました。
 これが何と、娘の家の建っている島の部分を10平方メートルほどノコギリで切り離し、娘を乗せたまま船で引っ張って、お婿さんの島まで運び、その島にくっつけるという訳です。
 厚さ2m近い浮島を切り離すので大事かとみていたら、大きなノコギリを使って数分で切り離して、30分ほどで隣の浮島まで引っ張って行き、相手の島に接続したら、その間をトトラで覆って終わりという一瞬の出来事でした。
 現在では観光地になっていますので、訪れた方もおられると思いますが、世界には想像もできない生活があるのだと感心しました。





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