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論文

 2日後の7月24日は、現在、アナログ電波でも送信されているテレビジョン放送が、1年後にデジタル放送に移行する日です。
 予定では、1年後には、アナログ放送が停波といって送信されなくなり、デジタル放送だけになりますので、テレビジョン受像機を買い替えて、アンテナも変更しなければ、地上テレビジョン放送が受信できなくなってしまいます。

 原理的には簡単な変化ですが、現実は簡単ではなく、様々な問題があります。
 まず、2003年に3大都市圏からはじまって、7年になりますが、今年の3月時点で、地上デジタル放送の電波が到達している世帯は98%で、今年末でも98・5%にしかなりません。
 残りの1・5%は実数にすると約75万世帯で、そのうち離島や山間で電波が届かない世帯が約35万世帯になると推定されています。
 35万世帯は全体の0・7%で数字にすればわずかですが、富山県や香川県の世帯数に相当しますから、相当な数字です。
 さらに地上デジタル放送を受信できる受信機の普及は3月時点で約84%ですから、700万近い世帯は対応できていないということになります。

 もちろん総務省も様々な対策を行っています。
 昨年10月からは生活保護世帯などにデジタル放送が受信できるチューナーを無償配布する受付を開始していますが、この7月2日の締め切り時点で、対象になると想定されている270万世帯のうち、85万世帯しか申請をしていないということで、12月28日まで申込が延長されました。
 また、難視聴地域の35万世帯については、共同受信施設の建設や、CATVに加入してもらう方法も検討されています。
 それでも間に合わないという地域に対しては、衛星セーフティネット対策事業を用意し、難視聴地域に対して、今年3月から5年間に限り、NHKと民間放送キー局の番組を衛星放送で送信し、その対象となる世帯にはチューナーを貸与し、アンテナを無償で設置することにしています。

 地上デジタル放送に転換するためには、家庭の負担も大変ですが、放送局も送信機器から中継局網まで変更するために、NHKで約4000億円、民間放送局全体で約1兆円の設備投資が必要とされています。
 とりわけ広告料収入が大幅に減っている民間放送局にとっては、大変な出費ですが、なぜ、このような転換をするかと思われる方も多いと思います。

 大きく言えば、3つの理由があります。
 第一は立体放送(3D)や走査線を現在のハイビジョンの4倍の4000本、画素数を16倍にする「スーパーハイビジョン」などの新しい技術に対応させること。
 第二は有限な資源である電波を整理して、余剰を作り、再配分しようという目的です。放送チャンネルの増加や携帯電話の急速な増加により、電波の不足が予測されていたために、すでに1990年代から、当時の郵政省でデジタル放送にする構想が検討され、1996年に地上放送、衛星放送、CATVをデジタル放送にする2010年までの目標が策定され、それが実施されてきたということです。
 第三は世界全体がデジタル放送の採用を推進していることです。
 2003年に地上デジタル放送を開始した日本よりも早くから開始したのは、イギリスとアメリカが1998年、スウェーデンが1999年、スペインが2000年、オーストラリア、フィンランド、韓国が2001年で、現在、18カ国が転換しており、アメリカ、スウェーデン、フィンランド、オランダなどは、すでにアナログ放送を中止しています。
 そこで問題になるのが放送方式です。これまでのアナログ放送時代には、アメリカや日本のNTSC、ヨーロッパ、南米などのPAL、ロシア、アフリカの一部のSECAMの3方式があり、外国で買ってきたビデオテープが見られないなどの不便さがありました。

 そこでデジタル放送に転換する機会に世界統一方式という期待があったのですが、結果はアナログ放送よりも複雑になってしまいました。
 大きくはアメリカ、カナダで使われている「ATSC方式」、ヨーロッパ、ロシアで使われている「DVB-T方式」、中国のみが採用している「CDMB-T方式」、そして日本が使っている(ISDB-T方式)の4種類になるのですが、一部の国では、それらを改良した方式を採用しています。
 そうなると、それらの方式の勢力争いが世界で繰り広げられことになります。日本は携帯電話のときも同様ですが、技術的に高度な規格を開発する志向が強く、今回の規格も技術開発に時間を費やし、国連組織のITU(国際通信連盟)の承認を得ることに出遅れ、日本だけが独自の方式を採用するという「ガラパゴス現象」になりそうでした。

 ところが今回は同一周波数帯で、テレビジョン受像機向けの放送と、携帯端末向けの放送、いわゆるワンセグ放送ができるという技術が評価され、ブラジル、アルゼンチン、チリ、ペルーなど南米の8カ国と、最近ではフィリピンが日本方式を採用することになり、なんとか世界地図でバランスが取れるようになりました。

 アメリカの情報学者ニコラス・ネグロポンテが「あなたは高精細な美しい画面で退屈な番組を見るのと、多少は見えにくい画面でも素晴らしい番組を見るのと、どちらを選びますか?」という名言を残していますが、ぜひ、デジタル放送に移行する機会に、日本のテレビジョン放送でも見るに値する番組が増えることを期待しています。





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