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論文

 本日は「メートル法公布記念日」です。
 1921年(大正10年)の今日、日本で従来の尺貫法を廃止して、国際的な単位であるメートル法を使うことを決めた法律が施行され、それを記念して4月11日がメートル法公布記念日とされています。
 明治政府は1885年(明治18年)にメートル条約に加盟し、1891年(明治24年)には尺貫法と併用する形でメートル法を国内に導入し、長さのメートルには「米」、重さのグラムには「瓦」、容積のリットルには「立」という漢字を充てて普及を図りましたが、長年、慣れ親しんできた単位は簡単には変わらず、なかなか浸透しませんでした。
 そこで戦後の1951年に尺貫法を廃止する法律を制定し、1959年にはメートル法を完全実施することになり、大工さんが使っていた曲尺(かねじゃく)や和服関係者が使っていた鯨尺(くじらじゃく)が禁止になりました。
 これに反対した有名人が永六輔さんで尺貫法の復権を訴える運動までされましたが、次第にメートル法が制覇する状況になりました。

 このメートルという単位はフランス発祥です。
 1789年にフランス革命が成功し、翌年1790年から革命政府は様々な制度改革を推進します。
 それまでカレンダーは週単位で変わっていましたが、これを旬(じゅん)(デカード)という10日単位に変更し、60進法であった時間や角度を100進法に変更しようとしますが、その一つが各国でバラバラであった長さの単位を10進法のメートルに統一しようという政策です。
 長さ以外は後の1804年に皇帝になったナポレオンが拒否して実現しませんでしたが、長さだけは生き残りました。
 革命政府は迅速で革命の翌年の1790年の国民会議でメートルを決めるための測定方法を検討し、何案かの中から地球の北極と南極を通る子午線の1周の長さの4000万分の1にすることに決定し、2人の学者にフランスの北端のダンケルクからスペインのバルセロナまでの南北の距離を実測させ、1795年に完成した測量結果を元に子午線の1周分の4分の1に相当する北極点から赤道までの距離を計算し、その1000万分の1を1メートルとしました。

 これは革命政府が世界で主導権を確保したいという思惑もありましたが、次第に国際的な交流や貿易が盛んになる時代に、単位がバラバラでは不便だという現実もありました。
 フランスは万国博覧会で宣伝したりしますが、各国とも自国の慣れ親しんだ度量衡を変えるのは大変なエネルギーを必要とするし、イギリスとアメリカがフランスに主導権を取られることを警戒し、なかなか国際的に採用されず、ようやく80年が経過した1875年3月に17カ国が参加して第1回国際会議が開かれてメートル条約が成立し、次第に普及するようになりました。

 フランスがメートル法を創設したことは国際社会での地位向上に貢献していますが、あらゆる分野で標準を確保することは重要な国家戦略になっています。
 その標準は大別すると2種になります。
 第一はデファクト・スタンダード(事実上の標準)で、国際的に取り決めを行なったわけではなく、実力の強い国や企業の標準が世界標準になるものです。
 ゴルフの距離は発祥の地イギリスと世界でゴルフ場の数が1万5000以上あるアメリカ(日本は2400)の力があるため、ヤード、フィートがデファクト・スタンダードでした。
 ただし現在ではイギリス、アメリカ、日本以外はメートルに移行しています。
 飛行機の高度がフィートで表されるのも、アメリカの飛行機産業が世界で最大であった影響です。
 それ以外にも、現在では消滅寸前ですが、ビデオテープの録画再生方式はベータとVHSが争っていました。
 しかし、レンタルビデオ店での勝負で決着が付き,VHSが主流になりましたが、これもデファクト・スタンダードです。
 パソコンの外部記憶装置はパナソニックなどが開発した「SDメモリー」とソニーが開発した「メモリースティック」が争っていましたが、現在では「SDメモリー」がデファクト・スタンダードになっています。

 第二はデジュール・スタンダード(法律上の標準)で、国際機関で議論して決める標準方式です。
 先端技術の分野では技術進歩が早いため、国際機関で何年もかかって標準方式を決めていても、決まった頃には古くなってしまうので、実力勝負のゲファクト・スタンダードが主流ですが、文化などの分野ではデジュール・スタンダードが使われています。
 一例は交通信号の色です。国際照明委員会が赤、黄、緑と定めて世界共通になっています。
 最近ではあまり使われなくなった写真フィルムの感度はISO400というように国際標準化機構(ISO)で決めた規格です。
 それ以外にも、ISOで決められた国際標準の代表は紙の寸法で、A4とかB4という寸法はアメリカ以外では統一されています。

 これらは各国の利害が一致しますが、伝統文化になると熾烈な議論が発生し、週の初めは何曜日にするかということさえ国際的に議論の対象になります。
 イスラム教は預言者ムハンマドがメッカへ入場した金曜日を安息日としているため、イスラム教国の多くでは週の初めは土曜日になります。
 多くのヨーロッパの国では月曜日を週の始めとし、アメリカ、日本、中国などは日曜日を週の初めにしています。
 そこでヨーロッパが中心になってISO8601により月曜日を週の初めにしようとしていますが、アメリカが反対し統一できません。

 メートル法から始まり、紙の大きさ、週の最初の日までアメリカの唯我独尊が目につきますが、これは1823年に第5代大統領ジェームズ・モンローが発表したモンロー宣言に遠因があるという意見があります。
 その中に「欧州の制度の西半球への拡大に反対する」という項目があります。フランス革命の直後にフランス公使を勤めていたモンローはフランスの政策に翻弄された経験があり、独立から50年も経たない新興国アメリカへイギリスやフランスが関与することへの警戒心が強かったようです。
 そのような経験が、メートル法へ署名したものの実際には遂行しないという状況に反映しているのかもしれません。





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