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論文

 予定では2日後の9月11日に種子島宇宙センターから準天頂衛星「みちびき」が打ち上げられます。
 これは日本版GPSと呼ばれますが、どのような役割を期待されている衛星かをご紹介したいと思います。
 現在ではGPS(グローバル・ポジショニング・システム)なしの生活は考えられないほど社会に浸透しています。
 自動車のカーナビゲーションはもちろん、最新の携帯電話機にもGPS受信機能が取り入れられ、自分の位置を知ることができます。
 山奥の工事現場など、以前は測量が難儀な場所でも、現在ではGPSを利用して容易にできるようになっています。
 これは日本語で「全地球測位システム」と翻訳されますが、その言葉通り、地球上のどのような場所でも、上空が開けてさえいれば、自分の居る位置を正確に知ることができますので、僕も海外や国内の僻地でカヌーをするときには重宝しています。

 どのような原理で位置が分かるかということですが、地上2万kmほどに20から30(現在は28)の衛星が打ち上げられ、12時間で地球を1周しています。 
 そして、この衛星に搭載された原子時計から正確な時刻が地上に向けて送信されています。
 その時刻を手許の受信機で受信して、衛星から電波が届くのにかかった時間を測れば、その時間に電波の速度を掛算して、衛星と自分との距離を計算することができます。
 そこで3個の衛星との距離を測定すれば、3次元で自分の位置を計算することが可能になるというわけです。
 ただし、手許の受信機の時計は水晶振動子、クオーツを使っていますので原子時計ほど正確ではありません。100万分の1秒の誤差があっても距離にすると300mですから、精度をあげるために4個の衛星から電波を受信して補正するのが普通です。

 問題は、このGPSシステムをだれが運用しているかということです。
 GPSは1960年代からアメリカで研究がはじまり、70年代末期から衛星が打上げられてきましたが、当初は軍事利用専用でした。
 しかし、1993年に国防総省が民間利用を正式に許可し、現在の状況に至ったわけです。

 何の問題もないようですが、1998年に公開された007シリーズ『トゥモロー・ネバー・ダイ』で、イギリスのフリゲート艦が公海上を航行していたにもかかわらず、中国人民解放軍のミグ戦闘機に攻撃されて撃沈されるという場面が登場します。
 これは偽のGPS情報が軍艦に送信され、公海上と思って航行していた場所が、実は中国の領海内だったという筋書きです。
 そのようなことは現実に有り得ないと思われるかもしれませんが、1990年から2000年まで、国防総省はイラクなど敵国の軍隊も利用しているという理由で、誤差データを付け加えて精度を大幅に落としていたことがありましたから、有り得ない話ではないのです。

 そこで世界の大国はアメリカの情報システムに依存する危険を避けるため、独自のシステムを検討してきました。
 当然、真っ先に検討したのがソビエト連邦で、「グロナス(GLONASS)というシステムを開発してきました。
 これは91年のソビエト連邦崩壊によって停滞していましたが、プーチン政権になってから進展し、2007年から、9基の衛星でロシア国内の運用が開始され、来年には24基程度に増やして世界を網羅するシステムになる予定です。
 EUもアメリカの傘下にあることを嫌い、「ガリレオ」というシステムを計画し、2005年から衛星の打上げを開始しましたが、資金難から頓挫し、今年の7月にアメリカのシステムと一体運用することに決定しました。

 日本のシステムは「グロナス」や「ガリレオ」とは違って、基本的にはアメ
リカのGPSを使い、精度をあげるために日本が今回打上げる「みちびき」も使うという計画です。
 これは準天頂衛星といわれる種類の衛星で、地球の自転周期と同じ速度で、すなわち1周24時間で地球の周りを回る衛星です。
 このような衛星は多くは赤道上空に打上げるので、放送衛星や気象衛星のように一点に静止しているように見えますが、今回は赤道面とは40度傾いた角度で周回するようにします。
 そうすると衛星は日本の最も北とオーストラリアの最も南の上空を8の字を描いて飛んでいるように見えます。
 さらに2個の衛星を160度と280度傾いた軌道に打上げると、3個のうち、いつもどれかが日本上空に見えるようにすることができます。
 そこで、上空の衛星からGPS衛星と同じような信号を送れば、地上での位置を測定する精度が大幅に向上するということになります。

 現在、GPSのない生活を想像することは困難ですから、それを完全に外国に依存することは危険であり、中国やインドもGPS機能をもつ独自の衛星システムを計画しています。
 残念ながら日本はそこまでの資金はなく、当面、測定精度を向上させる準天頂衛星で補うという戦略ですが、いつも日本上空に衛星が見えるようにするためには3個の衛星を打上げる必要があります。
 しかし、今回は文部科学省の予算735億円で1号機のみを打上げ、2号機と3号機を打上げる予算の目処は立っていません。
 もちろん子供手当も困っている方には重要な政策ですが、満額の2万6000円を支給すれば、1年分の予算は5兆3000億円になります。
 その1・4%、23万世帯分で一機の衛星が打上げられるのですから、目先のことだけではない予算編成も必要ではないかと思います。





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