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論文

 現在、日本の領土である尖閣諸島周辺の日本の領海内で中国漁船が海上保安庁の巡視艇に衝突し、また違法に操業していた疑いがあるという問題で、日本と中国の間で対立が発生しています。
 これは政治問題ですが、経済分野でも日本に懸念される中国の行動が発生しています。
 今年7月に中国政府がレアアースの今年の輸出枠を前年に比べて4割減らすと発表したことです。
 これは日本にとって重要な問題なのですが、それをご説明する前に、まずレアアースとは何かをご説明したいと思います。レアアースよりも聞く機会が多いのがレアメタルです。
 いずれも学術的な定義のある言葉ではなく、経済産業省が日本の産業に取って重要だが、資源がわずか、すなわちレアで入手しにくい元素をレアメタルと名付け、そのうち化学的性質の似ている元素をレアアースとまとめたものです。
 日本語では「希土類」と呼びますが、原子番号で57番のランタンから71番のルテチウムの15種類の元素に、21番のスカンジウムと39番のイットリウムを加えた17種類の元素のことです。

 レアという言葉のように、地球にはきわめて少量しか存在しない元素で、地球の地表近くに存在する元素の質量の割合を示すクラーク数という数字がありますが、最大の酸素は49・5、2番目の硅素は25・8です。
 これは地表付近にある土に含まれる元素の半分は酸素、4分の1は硅素という意味ですが、それではレアアースのクラーク数はどれくらいかというと、イットリウムが33ppm、セリウムが60ppmですから、普通の数字で示すと、イットリウムが0・0033%、セリウムが0・006%になりますから、いかにわずかかがお分かりいただけると思います。
 イットリウム、セリウム、ランタン、ジスプロシウムなど、一般の方々は聞いたこともないような元素が、なぜ重要かというと、レアメタルやレアアースは「産業のビタミン」といわれることがあるように、使う量はほんのわずかですが、それが無いと産業製品が作れないという役割をしているからです。

 例えば、ハイブリッド車や電気自動車は電気モーターで駆動しますが、このモーターの磁石にはネオジムやジスプロシウムというレアアースが使われていますし、ハイブリッド車が搭載している電池の電極にはランタンが必要です。
 液晶テレビジョンにも、いくつかのレアアースが使われており、ディスプレイ用のガラス板を研磨するのにはセリウム、バックライトの蛍光体にはイットリウムやテルビウムが必要です。
 電子製品には必須の材料ですが、現在の供給量の97%は中国で生産されており、日本は国内に資源が存在していないので、世界の流通量の30%近くを輸入し、その輸入相手先のほぼ90%が中国という構造です。
 そのような市場を独占している中国が輸出制限を発表したために、レアアースの価格が一気に値上がりし、セリウムは今年の6月まではキロあたり10ドルで安定したものが現在では46ドル、ネオジムは20ドルから60ドル、ジスプロシウムは150ドルから380ドルという値上がりです。

 そこで4つの対策が始まっています。
 第一は当面必要なレアアースを備蓄するという方法です。
 アメリカやスイスは戦前から備蓄を始めていますが、日本は独立行政法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が1983年から、国家で42日分、民間で18日分、合計60日分の備蓄を進めています。

 しかし、これは短期の解決策ですから、第二は一国依存を減らして複数の地域から輸入するということです。
 確かに現在の生産量では中国が97%を占めていますが、埋蔵量は分散しています。
 中国が36%で1位、旧ソビエト連邦のCISが19%、アメリカが13%、オーストラリアが6%などです。
 そこで、それらの国から調達する方策を講じるということです。
 それらの中でも有望なのはベトナムと、CISに属するカザフスタンです。昨年1月には豊田通商と双日がベトナムの権益を確保し、8月には住友商事がカザフスタンと共同事業を開始し、いずれも今年の11月には生産が開始される予定です。

 第三はリサイクルです。これまでもご紹介していますが、都市鉱山(アーバンマイン)という言葉が使われるようになり、都市から排出される廃棄物から有用な資源を回収しようというわけです。
 例えば、エアコンに入っている空気圧縮機1台にはジスプロシウムとネオジムが30グラムも含まれているのですが、エアコン10台から合計300グラムを回収すれば、ハイブリッド車のモーター1機に必要な量になるということなので、リサイクルは重要になります。

 第四は様々な制約のあるレアメタルやレアアースを使わなくても製造できるような技術を開発することです。
 例えば、日立製作所は資源が大量にあり、かつ安価な「フェライト磁石」の構造を工夫して、電力消費を1割減らして同等の馬力のあるモーターを開発しています。
 帝人と東北大学は鉄と窒素から強力な磁石を作ることに成功していますし、ダイキン工業と大阪府立大学も鉄とフェライト磁石を組合わせて出力の大きなモーターの開発に成功しています。
 いまさら国内に資源がないと嘆いても仕方が無いので、やはり日本はリサイクルや代替資源による技術で突破していくことに努力すべきだと思います。





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