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論文

 今月1日に国勢調査が実施されました。
 大正9(1920)年に第1回が開催され、第二次世界大戦の終戦の年に当る昭和20(1945)年の調査は2年後に延期されましたが、それ以外は5年毎に実施され、今年は19回目になります。
 今年か来年に国勢調査を実施する国が多いので、今年6月、国際連合の総会において、1週間後の10月20日を「世界統計の日(World Statistics Day」とすることが決定されています。
 それを記念し、今日は統計についての雑学をご紹介したいと思います。
 統計と聞くと数字の羅列を思い浮べ、興味が湧かないという方も多いと思いますが、使い方によっては大変に有効だという例をまず御紹介します。

 今年は就職がきわめて厳しい状況ですから、何とか良い職場に就職できればと考えておられる若い人々は多いと思います。
 そこで参考になるのが、厚生労働省が毎年発表する「賃金構造基本統計調査」です。
 これは名前からも推測できるように主要産業分野で働く人々の平均給与額を調べていますから、まず給与の高い職業を調べることが可能です。
 平成20年の結果では、1位は男性が医師で月給93万4000円、女性も医師で70万7000円、最下位は男性が看護補助者で20万5000円、女性が洋裁工で14万1000円です。
 しかし、お金よりも安定だという方のためには平均勤続年数の調査もあります。
 それによると、男性でもっとも長いのが「電車運転士」で20・6年、もっとも短いのが「理学療法士」で3・5年、女性の場合は長いのが「陶磁器工」の17・3年、短いのが「旅客掛」という切符の販売窓口で働く仕事で3・7年です。
 もちろん平均ですから、バラツキはありますが、安定した職場なら男性は電車の運転士、女性は陶磁器を制作する仕事が有望ということになります。
 それぞれの職業の平均年齢も調べてあるので見てみると、男性の最高は大学教授で56・9歳ですから出世は大変だとか、最小はプログラマーの28・8歳ですから使い捨てかも知れないなどと推測することも可能です。

 このような統計の最初は、5000年ほど前の古代エジプトで行われた人口調査とされ、ローマ帝国でも2000年前の初代皇帝アウグストゥスが行っています。
 徴税や労役や兵役のために国家の人口を知ることが重要でしたので、調査をしたというわけです。
 統計のことを英語ではスタティスティックスと言いますが、これは状態を意味するステイタス、国家を意味するステートと同じ語源の言葉です。
 19世紀のフランスのモーリス・ブロックという統計学者が「国家のあるところ統計あり」という名言を残していますが、まさに国家(ステート)の状態(ステイタス)を知る基礎だったということです。

 そこからさらに、国家の方向を模索するためにも統計は使われてきました。
 17世紀に『政治算術』という本を書いたイギリスの医師で経済学者であったウィリアム・ペティは、オランダは国土が狭いのに豊かなのは何故かとイギリス、オランダ、フランスの3カ国の統計を駆使して比較し、一次産業よりも二次産業、さらには三次産業の順番に収益があがるという「ペティの法則」を発見し、貿易という三次産業で稼いでいるオランダが豊かなのだということを発表し、工業国家から重商主義国家への転換を提案しています。

 統計には、もうひとつ別の起源があります。
 これは賭博から発生した確率を背景にしており、16世紀のイタリアの学者ジロラモ・カルダーノがサイコロ賭博やトランプゲームの仕組を考えたのが最初ですが、それ以後、ガリレオ、パスカル、フェルマーなど多数の科学者が研究しています。
 その本質は偶然のように見える現象の裏側に隠れている規則を発見することで、例えば、ハレー彗星に名前を残しているイギリスの天文学者エドモンド・ハレーは、人間の寿命を統計から推定することができることを証明し、「生命表」を作成しています。
 それまで人間の寿命は偶然に依ると考えられていました。もちろん、一人一人の寿命はそうかも知れませんが、当時のドイツのブレスラウという町の詳細な住民の死亡記録を分析し、集団であれば一定の規則があることを示し、終身年金の掛け金や生命保険の保険料の合理的な算定根拠を策定し、保険業界に貢献しています。

 このような流れを集大成したのが、ベルギーのアドルフ・ケトレという学者で、社会現象も自然現象も定量的に把握する「統計学」を確立するとともに、国際的に統計を比較できるようにするために国際統計会議を設立し、「近代統計学の祖」と呼ばれています。
 また、肥満の人が気にする体重を身長の2乗でわった数値BMI(ボディ・マス・インデックス)もケトレが多数の人々の体重と身長の統計から考案したものです。
 このケトレに心酔し、自身も統計学に造詣の深かった有名な女性がいます。クリミア戦争の従軍看護婦として活躍したフロレンス・ナイチンゲールです。
 ナイチンゲールはクリミア戦争の時、イギリスの後方基地スクタリの病院で仕事をし、その不衛生さのために、負傷して死ぬ兵士より、伝染病に感染して死ぬ兵士の方が圧倒的に多いことに驚き、その実態を統計的に示す1000ページもの報告書を作成し、ヴィクトリア女王とアルバート公に訴え、その結果、病院が改善され伝染病による死亡率が大幅に減少したという逸話があります。

 統計を作成する仕事は苦労の多い地道な仕事ですが、今日ご紹介したように、長年にわたる統計の蓄積によって社会が改善されている例は数限りなくありますし、統計はビジネスなどにとっても宝の山です。
 幸いなことに、日本の政府が調査している統計のほとんどはインターネットで閲覧できるようになっていますし、外国の統計もその方向にあります。
 世界統計の日を契機に、この宝の山の探検をされては如何かと思います。





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