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論文

 晩秋になって空気が澄み渡るようになると星空が美しくなりますが、特に1週間後の18日は18時頃に、有名な獅子座流星群の活動が最大になり、多くの流星が見られます。
 このような天体観測をするためには望遠鏡が使われますが、この分野もスーパーコンピュータと同様に、世界が抜きつ抜かれつの激しい競争をしています。
 今日はその最新状況をご紹介したいと思います。

 望遠鏡にはレンズや反射鏡で人間の目で見ることの出来る可視光を集めて対象を拡大する「光学望遠鏡」と、人間の目では見ることの出来ない電磁波を集めて対象を観察する「電波望遠鏡」があります。
 まず「光学望遠鏡」は1608年にオランダで発明されてから急速に普及し、発明の翌年にはイタリアでガリレオが自作の望遠鏡を作って、世界最初の天体観測をしていますし、日本には発明からわずか5年後の1613年に伝来しており、尾張藩の初代藩主である徳川義直が所有していた日本最古の望遠鏡が名古屋市にある徳川美術館に保存されています。いかに当時の世界が望遠鏡に関心があったかが分かります。

 この光学望遠鏡には、一般にガリレオ式望遠鏡といわれる、レンズを通して光を集める「屈折式望遠鏡」と、ニュートン式望遠鏡といわれる反射鏡で光を集める「反射式望遠鏡」があります。
 屈折式望遠鏡はレンズを光が通るとき波長によって屈折率が違うために、像が滲んでしまう色(いろ)収差を補正する必要があるし、巨大なレンズを作るのが難しいため、現在の大型望遠鏡はほとんど反射式望遠鏡です。
 望遠鏡の性能の基本は、より多くの光を集めることによって決まるので、競争は反射鏡の口径を大きくすることです。
 しばらく前まで世界最大の望遠鏡は、1999年にハワイ島の標高4205mのマウナケア山頂に日本が作った「すばる望遠鏡」で、反射鏡口径は8・2mでした。
 しかし重さが23トンもあるガラスなので、傾けると微妙に反射鏡の形に歪みが生じます。そこで鏡の裏側から261本の支柱で支え、それらをコンピュータ制御で調整し、いつも完全な曲面にするという高度な技術が使われています。

 ところが2007年にアメリカがアリゾナ州の3260mの山頂に口径8・4mの反射鏡をもつ望遠鏡を2台作り、合わせると口径11・8mに相当する「大双眼望遠鏡」を完成させました。
 さらに1枚の反射鏡ではなく、多数の反射鏡を合わせて巨大な反射鏡の能力を発揮させる「分割鏡式」では、36枚の鏡を合わせて10・4mの口径に相当する望遠鏡がカナリア諸島のラ・パルマ島に作られ、また、チリのアタカマ砂漠には口径8・2mの反射鏡をもつ望遠鏡を4台建造し、それらの画像を光ファイバーで集めて一体にすると、口径16・2mの反射鏡の能力に相当する望遠鏡も実現しました。
 その結果、わずか10年で「すばる望遠鏡」は口径の比較では8位に後退しました。まさにスーパーコンピュータの世界に匹敵する競争です。

 さらに巨大な望遠鏡を作るということになると、1基で1000億円を越える投資が必要なため、最近では国際協力で制作する方向になっています。
 大きな計画が3つあり、第一はアメリカの大学などが共同でチリのアタカマ砂漠に建造する「GMT計画」で、口径8・4mの鏡を7枚組合わせて口径22mに相当する反射鏡にする構想。
 第二は日本も参加している国際協力で、ハワイ島のマウナケアの山頂に492枚の小型反射鏡を組合わせて口径30mの反射鏡にする「TMT計画」。
 第三はヨーロッパ南天天文台がチリのアタカマ砂漠に984枚の鏡を組合わせて口径42mの反射鏡にする「E-ELF計画」で、いずれも2018年頃の完成を目指しています。

 「電波望遠鏡」の分野でも巨大な構想が進展しています。
 電波望遠鏡はパラボラアンテナで宇宙から到来する電磁波を集めて観測する装置で、日本にも長野県佐久市に直径64mのアンテナを持つ「臼田宇宙空間観測所」などがありますが、世界最大の装置はプエルトリコのアレシボの山の窪地を利用して直径305mのアンテナを設置した「アレシボ電波天文台」です。
 これは007シリーズの『ゴールデンアイ』の舞台にもなりましたので、ご記憶の方もおられると思います。
 しかし、それをはるかに凌駕する巨大な設備の建設が、やはりチリの標高5000mのアタカマ砂漠で進んでいます。
 これは「ALMA計画」と言われ、直径12mのアンテナ50台で構成される電波望遠鏡と、直径12mのアンテナ4基と7mのアンテナ12基を一体とする電波望遠鏡ですが、その合計66台のアンテナは移動可能で、最大18・5kmに展開することができるという壮大な装置です。
 日本は後者の電波天文台の中心的な役割を果たしています。

 先程からチリのアタカマ砂漠の名前が何度も出てきますが、理由があります。 
 第一は周辺が無人で真っ暗闇の高地なので、光学式望遠鏡に邪魔な人工の光がないことです。もう一つの望遠鏡の難敵は空気があると、風や気流によって画像が揺れるのですが、高山であれば空気が薄いので、その影響が少ないということです。
 電波望遠鏡にとっての難敵は大気中に水蒸気があると電波を吸収してしまうので、アタカマ砂漠のように、年間の降水量が100mmにもならない地域は絶好の場所だということです。

 そうであれば空気も水蒸気もほとんどない宇宙の方がより適していると、1990年に地上600kmの軌道に打上げられたのが「ハッブル宇宙望遠鏡」です。
 これは宇宙飛行士がスペースシャトルから出て何度か修理をしたおかげで、予定よりも10年ほど寿命が延びましたが、2014年で寿命です。
 そこで2013年に「ジェイムズ・ウェブ宇宙望遠鏡」が打上の予定ですが、これは可視光の範囲ではなく、赤外線の領域で観測しますし、場所は地球から150万kmの彼方のラグランジェ点といわれる特異な場所に打上げられます。
 この10年以内は宇宙観測の大飛躍期と言えます。





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