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論文

 先月、日本最大の砂丘である鳥取砂丘を海から眺める機会がありましたが、丁度その10月に、この鳥取砂丘の西側にある白兎(はくと)海岸から兵庫県の但馬海岸を経て、京都府の丹後半島までの約110キロメートルの山陰海岸が「世界ジオパークネットワーク(GGN)」に加盟することが決まったところでした。
 これは10月3日にエーゲ海にあるギリシャのレスボス島で開催された世界ジオパークネットワークの会議で認定されたものですが、この世界ジオパークネットワークは国際連合の組織であるユネスコの支援で2004年に発足した組織です。

 ユネスコというと1972年に成立した世界遺産が有名です。
 これはエジプトがナイル川中流のアスワンに建設したアスワンハイダムによって、古代エジプトの遺跡アブ・シンベル宮殿が水没することになり、世界の60カ国の支援によって宮殿全体をなんとか高台に移設することに成功したのですが、このような消滅や破壊の危機に直面する人工の遺跡や自然の景観を守るために作られた制度です。
 世界遺産は人類が建造した建造物を対象とした文化遺産と、自然の地形や生物を対象とした自然遺産、両方を対象にした複合遺産に分かれていますが、世界ジオパークは、大地を意味する「ジオ」と公園を意味する「パーク」を合成した言葉であることからも推測できるように、地球の規模から検討して、保存すべき地形や地質を守るための制度で、日本では「大地の公園」と訳されています。

 具体的にどのような場所が加盟しているかをご紹介すると概要が分かると思います。
 ヨーロッパではアイルランドの南東部にある延長約25kmの「カッパー海岸」、ここは広大な砂浜や断崖絶壁が続く海岸です。
 スコットランドの北西部でヘブリディーズ諸島に面する「北西高地(ノースウエスト・ハイランズ)」は荒々しい海岸に雪に覆われた山々が近接している地域です。
 中国の昆明にある四大自然景観の一つとされる「石林」は風雨によって浸食された石灰岩の尖った岩が林のようになっている地域。
 中国の山東省にある道教の聖地「泰山」、標高1545mの山頂に約3時間、延々と石段を上って行く聖地です。

 日本では、約10万年前の噴火でできたカルデラ湖である洞爺湖、65年前の噴火で出来た昭和新山、つい10年前に噴火した有珠山などの様々な時期の地殻変動現象が集中している北海道の「洞爺湖と有珠山」。
 日本列島を二分する断層フォッサマグナのある「糸魚川」。
 1792年に大爆発、さらに1990年から95年にかけて噴火を繰返した「島原半島」。
 そして今回、加盟した「山陰海岸」の4カ所です。
 この山陰海岸には、日本列島が大陸の一部であった6500万年前の古第三紀(こだいさんき)から、2500万年前に日本海が誕生した中新世、その後の火山活動が活発だった時代の鮮新世、そして現在の第四紀までの日本列島と日本海の歴史を示す地質が揃っている場所です。
 そして、165万年前に地球の北磁極と南磁極は逆であった地磁気逆転現象が日本で最初に発見された玄武洞も存在しています。

 しかし、ヨーロッパ、中国、日本とも、認定されている場所が世界遺産と比べて、どちらかと言えば有名ではない地域が多いし、同じユネスコの世界遺産とどこが違うのかと疑問をもたれる方もあるかと思います。
 実際、中国の「泰山」は世界複合遺産にも認定されています。
 基本的な違いは世界遺産が「世界の文化遺産と自然遺産の保護に関する条約」という国際条約に基づいた国家の活動でるのに対し、ジオパークはユネスコが関与しているものの、任意に設立された各国や各地域のジオパーク委員会が国内のジオパークを認定し、その中から世界ジオパークネットワークが認定する仕組で運営されています。
 したがって、日本国内には、恐竜の化石が数多く発掘されている「恐竜渓谷ふくい勝山ジオパーク」、東アジアの黒曜石の大産地である「白滝ジオパーク」、巨大なカルデラ草原のある「阿蘇ジオパーク」など12の国内ジオパークがあります。

 現在、世界25カ国の70カ所以上が「世界ジオパーク」に認定されていますが、分布を調べてみると、ヨーロッパに34カ所、中国に22カ所と集中しており、珍しい地質の多いオーストラリアは1カ所、南米大陸はブラジルに1カ所のみ、そして北米大陸には1カ所もないのです。
 これは世界遺産が、オーストラリアに18カ所、南米大陸に65カ所、北米大陸に37カ所存在していることと比較すると奇異な感じがします。
 個人的な推測ですが、ユネスコの本部はパリにあり、歴代のユネスコ事務局長9人のうち、ヨーロッパ人が5人と主導しており、アメリカはユネスコの運営の不透明さに遺憾の意を表明して一時脱退していた時期もあったほどユネスコの活動に批判的であったことが影響しているかも知れません。
 そして中国は現状では世界ジオパークの30%近くを占めていますが、文化的な面で国際的な認知度を上げたいという意向が反映されているようです。

 それらの趨勢と比較すると、日本では国内組織である日本ジオパーク委員会が設立されたのは2008年5月と、4年も出遅れていますし、それに加盟しようと努力している地域も、加盟が認定されれば観光などで有利になるというような地域の思惑が中心で動いている気配です。
 それは本来の精神からすれば妥当なことですが、このような文化活動も国際社会での地位を高めるための手段の一部と考えて行動するヨーロッパ、アメリカ、中国などと比較すると、国内志向で純粋すぎるという気もします。





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