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論文

 今年最後の回なので、今年一年の特徴を「逆転というキーワードで考えてみたいと思います。
 「逆転」という言葉でまず思い浮かぶのは裁判での逆転が数多くあったことです。
 3月26日に、「足利事件」といわれる1990年に発生した幼女の殺人事件で逮捕され、翌年の第一審で無期懲役の判決が確定して刑務所で服役していた菅家利和さんが、2009年のDNAの再鑑定の結果、冤罪であったことが明確になって釈放され、今年3月26日の再審の結果、無罪が確定という逆転がありました。
 9月10日には障害者団体へ適用される割引郵便制度の証明書を偽造したという罪で逮捕された厚生労働省の元局長の村木厚子さんに無罪判決が言い渡され、検察が控訴を断念して、無罪が確定するという「逆転」もありました。
 これは、主任担当検事が証拠のフロッピーディスクの情報を改竄したという問題に波及し、ついに、この年末に検事総長が辞任するという事態にまで至りました。
 それ以外にも、今年は裁判での逆転が目立った年で、昨年の裁判員制度の導入、今年の柳田法務大臣の辞任なども併せると、日本の司法制度の根幹がおかしくなっているのではないかと思わせる年でした。

 政治でも「逆転」が目立ち、名古屋市では市議会の解散の直接請求についての署名が、11月24日の時点では必要な数に約1万2000人分が不足していましたが、選挙管理委員会へ約3万2000人が異議申し立てを行い、再審査の結果、12月15日には逆に必要数を約1万2000人分上回るという発表がなされてリコールが成立し、市議会が解散されるという「逆転」になりました。
 それに比べると軽く聞こえてしまいますが、鳩山前首相は6月に辞任したときには「首相は辞任後も影響力を行使してはいけない」と格好をつけて引退を表明していましたが、12月18日に地元の北海道での後援者の集会では「皆様方のご期待というものをいただけるのであれば、次の衆議院選挙においても、行動をともにさせていただきたい」と前言を撤回し、あっさり「逆転」となりました。
 それ以外にも、国会で政治家が暴言や失言を繰返し、前言撤回という「逆転」が頻繁に発生し、政治家から「名誉」とか「恥」という概念が消えたのではないかと思わせる一年でした。

 その政治の決定でもいくつかの「逆転」がありましたが、最近の話題は「諫早湾干拓事業」の潮受け堤防の排水門の開門です。
 1997年にギロチンと呼ばれた堤防の締切りが行われ、9年の歳月と2500億円以上の事業費を費やして1550ヘクタールの干潟を消滅させたのですが、2008年に佐賀地方裁判所が「3年の猶予期間を経て5年の常時開門をする」という判決を出します。
 国は控訴しますが、この12月6日に福岡高等裁判所が同様の判決をします。これに対して菅首相が上告を断念し、3年後には開門するという「逆転」になりました。
 公共事業の逆転では、あまり大きく採り上げられていませんが、前原前国土交通大臣のときには中止で大騒ぎになった「八ツ場ダム」は、馬淵大臣に代わった途端、「私が大臣のうちは「中止の方向性」という言葉には言及しない」と発言し、方針が「逆転」しました。
 日本は法治国家ではなく人治国家ではないかというほど、責任者によって事態が変化するわけですが、その度に調査費や対策費に数百億円が必要になり、いい加減にして欲しいという気持になります。

 少し気楽な「逆転」に移りたいと思います。今年のプロ野球の日本シリーズは最終的に千葉ロッテ・マリーンズの「大逆転」優勝で終わりました。
 ロッテはパシフィック・リーグでは3位でしたが、クライマックス・シリーズのファーストステージでは2位の埼玉西武ライオンズに勝ち、ファイナルステージでは1位の福岡ソフトバンクホークスに勝って日本シリーズに出場し、そこで中日ドラゴンズに勝って日本一になりました。
 2007年から導入された、この制度は面白くはありますが、一発勝負のトーナメント方式での敗者復活戦とは違い、リーグ戦方式で1年間戦って決まった順位を10試合程度で覆すことになり、負けたチームにとっては後味の悪い「逆転」です。

 最後は重苦しい話題で締めくくらざるをえません。
 世界の中で、日本が逆転されつつあるという出来事です。
 長年、世界第2位の経済大国の地位を維持してきた日本が、今年はGDPで中国に「逆転」されて3位になることが確実になりました。
 15年前には中国のGDPは日本の7分の1でしたが、10年前には4分の1、5年前には2分の1となり、5年毎に半分ずつ縮められてきたことが分かります。
 中国との関係はこれだけに留まらず、特許の申請件数でも、2008年には対前年の増加率が日本は1・3%減少、アメリカが横ばいであったのに、中国は18・2%の増加、2009年も世界の主要国が減少しているなか、中国は8・5%の増加で、このまま進めば、今年か来年には中国が世界一になると予測されています。
 特許の基礎となる研究でも、引用数の上位10%の論文について、1988年には1位がアメリカ、2位が日本で、中国は18位でしたが、2007年から2009年の3カ年の平均で、1位がアメリカ、2位が中国、3位がドイツ、4位が日本という「逆転」になっています。

 このように見てくると、2010年という年は、司法、立法、行政の分野だけではなく、日本が得意としてきた科学や技術の分野でも「逆転」が始まった歴史的な年かも知れません。





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