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論文

 今日は節分です。明日が立春で冬から春に季節が移りますが、節分は文字通り季節の分かれ目という意味です。
 したがって、立春の前の日だけではなく、立夏、立秋、立冬の前の日も節分ですが、現在では立春の前の日の節分だけが残っている状態です。
 その理由は諸説ありますが、旧暦では明日の立春の日を立春正月元旦として一年の始まりとしていたため、今日は一年の最後の日になり、宮中で「鬼遺(おにやらい)」とか「追儺(ついな)」という厄よけの行事が行われていた影響だというわけです。
 しかし、豆を撒いて鬼を追い払う風習は室町時代に中国から伝わり、これが民間にも伝播して、年男が「福は内、鬼は外」と叫んで豆を撒いて厄払いをするようになったということです。
 しかし、今日、ご紹介するのは豆撒きの話ではなく、撒かれる豆そのものの話です。

 豆というのは植物のなかでも、非常に種類の多いもので、世界には1万8000種は存在しているといわれますが、人間にとって大変に役立っている植物です。
 第一は、もちろん食糧としてですが、1万8000種類の豆類のうち、現在、人間が食用にしているのは約80種類です。
 意外に少ないと思われるかも知れませんが、2006年に発生した白インゲン豆ダイエット事件を思い出していただくと、理由がお分かりかと思います。
 テレビジョン番組で紹介した白インゲン豆を使った料理で、加熱が十分でなかったために食中毒になった人が150名以上になったという事件です。
 これはほとんどのインゲン豆に含まれているレクチンを十分に加熱しないと有害性がなくならないのですが、紹介された調理方法が適切ではなかったからです。
 このように、多くの豆には人間だけではなく動物にとって有毒な物質が含まれており、簡単には食糧に出来ない結果、これまで人間が選別して、安全に食用に出来るということで栽培されてきたのが80種類ほどということです。
 しかし、大豆、小豆、さやえんどう、インゲン豆などの豆類は人間の必要とする三大栄養素、炭水化物、脂質、蛋白質のうち、蛋白質を供給する重要な食糧になっています。
 しかも、種類が多いので、世界の非常に広範な場所で栽培できるという利点もある栽培植物です。

 第二は、空中の窒素を固定して肥料にする能力がある数少ない植物ということです。
 植物が必要とする資源は、水と太陽以外に、窒素、リン酸、カリウムです。
 空気の80%は窒素ですから、空中の窒素を植物が吸収できれば問題はないのですが、その能力は一般の植物にはありません。
 そこで肥料として与える必要があるのですが、これは3週間前に国際化学年の話の中で紹介したハーバー・ボッシュ法によって可能になりました。
 ところが、豆科の植物は根に根粒菌という微生物が繁殖し、空気中の窒素を植物が利用できる状態に変換できる能力を持っています。
 畑にクローバーを栽培している例がありますが、クローバーも豆科の植物なので、植えておくと土壌に窒素分が増えるという効果があるからです。
 この能力がどのくらい素晴らしいかというと、現在、世界全体で使用されている化学工業の力で生産された窒素肥料は窒素の重量で年間8000万トン程度ですが、豆科の植物が生産している量は9000万トンにもなると計算され、金額に換算すると1兆円にもなるということです。
 しかも、窒素肥料だけではありませんが、人工合成した肥料は作物の収量を増やそうと過剰に与える傾向にあります。
 窒素肥料では過去45年間に世界全体で10倍、中国では60倍も使っています。
 それらがすべて植物に吸収される訳ではないので、吸収されないものが川に流れ込み、さらに海に流れ込み、水を汚染させ、環境問題の原因になっています。
 しかし、根粒菌が作り出す窒素には、そのような問題がないのです。

 第三は、工業材料の原料にも役立っていることです。
 大豆インクという製品があることをご存知だと思います。
 これは1970年代の石油危機のときに、全米新聞出版者協会が石油を使わないインクの開発を研究しはじめたことが発端です。
 そこで石油系の溶剤の代わりに大豆油を使ったのですが、高くて普及しませんでした。
 しかし、次第に改良され、現在、アメリカでは商用印刷の25%、日本では新聞の印刷の3分の2に使われています。
 これは印刷のときにも発色が鮮やかであり、インクの伸びも良いという特徴がありますが、材料が分解されやすいので、廃棄されても環境への影響が少ないし、再生紙を作るときもインクを分離しやすいので白い紙になりやすいなどの利点もあります。
 さらに分解されやすいという特徴を活かして、石油樹脂に代わるプラスチック材料にも使われ、小さな商品のパッケージに使われています。
 これは土の中に埋めておくと、微生物によって水と炭酸ガスに分解される生分解性といわれる性質があるので、環境への負荷が少なくて済みます。

 日本では、豆を原料にした味噌、醤油、納豆など、様々な加工食品がありますが、その納豆が環境を救うという話題を最後に御紹介したいと思います。
 納豆は糸を引きますが、九州大学の原敏夫准教授があのネバネバした糸に放射線を照射してから凍結乾燥させた樹脂を作っておられます。これが何と自分の重量の5000倍の水を吸うという能力を持っているのです。
 1グラムの納豆樹脂がペットボトル50本の水を吸収してしまうのです。
 納豆樹脂は大豆からではなく、キャッサバの澱粉を加工して大量生産しますが、オムツにしても高性能ですが、この樹脂を砂漠の砂に混ぜておけば、大変な保水力になりますから、砂漠の緑化が容易になる可能性があるわけです。
 今日、神社などで撒く豆には、大変な威力があるということを知っていただければと思います。





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