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論文

 オーストラリアの北東部に当るクイーンズランド州では、昨年の12月からオーストラリアの気象観測史上最大の降雨量を記録し、大洪水になっています。
 クイーンズランド州は日本の面積の5倍もありますが、その30%以上が洪水の被害を受けているようですから、日本の1・5倍の面積が洪水という異常な事態です。
 その影響により経済的にも大打撃で、今年6月までの2010年度のオーストラリアのGDPの成長が0・5%下がると予測されています。
 しかも洪水はオーストラリア国内だけではなく、世界の経済にも深刻な問題を起こしています。
 この洪水地帯は世界有数の石炭の産地で、製鉄に使用する石炭の世界の輸出量の3分の2を占めていますが、炭鉱の水没などの被害とともに輸送網も寸断され、港まで石炭を輸送できないために、各国の製鉄会社にとっても深刻な事態です。
 さらに日本では、あまり報道されていませんが、1月にブラジルのリオデジャネイロ周辺でもブラジル史上最大の洪水が発生して500人以上の死者が出ており、南半球は異常気象に見舞われています。

 これが地球温暖化の影響かどうかは明らかではありませんが、92年にヨーロッパのライン川の氾濫、93年にアメリカの中西部のミズーリ川の氾濫、98年に中国の長江の氾濫など、世界各地で大洪水が発生しています。
 それによる災害も、91年に中国で2300人が亡くなり、92年にパキスタンで1300人、93年にネパールで1800人、94年にインドで2000人、95年に中国で1200人、96年にベトナムで1000人など、97年にソマリアで2000人など、毎年、世界各地で1000人以上が亡くなる洪水被害が発生しています。
 このような中でも史上最大の洪水は有名なノアの方舟に関係する地球全体を襲った洪水ですが、またまた森本さんにからかわれてしまいますが、今日は「ノアの洪水の日」なのです。

 これは『旧約聖書』の最初の「創世記」の第7章に出てくる「ノアの600歳の年の第2の月の17日に豪雨が始まり、40日40夜の間降り続いた」という文章に依っている日付です。
 そして、その後の第8章に「方舟は7月17日にアララトの山々に留まった」書かれており、現在ではアルメニアの高地とする意見が主流ですが、昔からイランとの国境に近いトルコ国内にあるアララト山だとする意見も存在しています。
 この山には2つの山頂があり、大アララト山が現在の標高で5165m、小アララト山が3925mの高山ですから、大アララト山であれば富士山の1・4倍も高い地点まで水が上がってきたことになり、幾ら何でもという気がします。
 しかし、『旧約聖書』を歴史の記録だと信じる人々が、これまで何度もアララト山で方舟の残骸を発見しようと探索してきました。
 近代になってからだけでも、何度も探検が行われていますし、ごく最近では昨年の4月26日に、トルコと中国の共同探検隊がアララト山の標高4000mの場所で、方舟の一部にあたる木片を発見し、炭素年代測定法で調べたところ、現在から4800年前の木片で、旧約聖書に書かれている年代とほぼ同じだというニュースが流れています。

 ノアが600歳のときに洪水が発生し、900歳まで生きたという物語なので、方舟の真偽は難しいのですが、大洪水についてはかなり確実な発見があります。
 1920年代に、古代メソポタミアの古代都市ウルを発掘したことで有名なイギリスの考古学者チャールズ・ウーリーが、ユーフラテスの河口付近で掘削をしていたところ、地下13mまでは様々な遺跡が出てきたのですが、そこから先4mは細かい粘土の層になり、まったく遺跡がなく、その層を通り抜けた下の地層からは石器などが出土したのです。
 この粘土層の地層は洪水で流れてきた土砂で、その年代は現在から5500年から6000年前で、洪水の規模は最高の水位が8m、幅150km、長さ500kmほどですから、確かに大洪水です。
 この大洪水がどのようにして発生したかについて、1998年にコロンビア大学の2人の地質学者が新説を発表しています。
 現在、黒海となっている場所は7600年前には、当時の海面よりも150m水位が低いエウクセイノス湖という淡水湖でした。
 ところが、その時期に地球が温暖になり、地中海の水がマルマラ海からボスポラス海峡を通って、毎秒、ナイアガラ瀑布の200倍に相当する海水がエウクセイノス湖に流れ込み、湖は1日15cmの勢いで水位が上がりはじめ、2年間で55mも上昇し、現在の黒海になり、周辺が大洪水になったということです。
 この洪水から生き残った人々の記憶がノアの方舟の洪水伝説になっているのではないかという訳です。
 このような巨大な洪水の神話はギリシャ神話にも、スカンジナビアの先住民族ラップ人の神話にも、オーストラリアの先住民族アボリジニ人の神話にも、アメリカインディアンの伝説にも残っており、世界には1500以上の洪水神話があるという学者もいます。
 日本周辺でも8000年前から海面が上昇しはじめ、6000年前には最大3mから5m上昇した縄文海進が知られていますが、大きく見ればノアの方舟の時期に世界各地で洪水が人々を脅かしたことは確かです。
 それほどの大洪水が近々発生するかは別にして、現在、南半球の各地で発生している規模の洪水は他人事ではなく、備えあれば憂いなしの精神で対処することが必要だと思います。





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