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論文

 令和時代が始まりましたが、日本が新しい時代を展開するためには平成時代を客観的に評価する必要があると思います。
 先週は平成時代30年間の産業政策の問題を振り返りましたが、今週は社会問題を取り上げて見たいと思います。キーワードは「格差拡大」です。
 日本を取り上げる前に世界を調べてみると、経済格差は拡大一方です。
 非常に分かりやすい数字をイギリスのオックスファムという非営利団体が発表しています。
 これは世界の個人資産のもっとも少ない方から半分までの人々の資産の合計と上位の資産家の資産の何人分が同じかを計算したものです。
 2010年には上位388人の資産家の資産と下位35億人の資産が同じでしたが、5年後の2015年には上位62人と下位半分の資産が同じになり、昨年は上位26人の資産と下位半分が同額という発表をしています。
 上位にはマイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス、オラクルの創業者ラリー・エリソンなどが登場しています。

 急速に貧富の格差が拡大しているのですが、この理由を説明したのはフランスの経済学者トマ・ピケティが2013年に発表した『21世紀の資本』です。
 大部の専門書にもかかわらず2年間に世界で100万部も売れたというベストセラーになり、日本では内容を紹介する漫画まで出版された平成時代の話題の経済書でした。
 過去200年間の膨大な統計を駆使して得られた要点は、資本収益率(r)は経済成長率(g)よりも大きいということでした。
 株式や貴金属など資産の価値の増加率が給与など所得の成長率よりも大きいということは、富が相対的に資本家の方に移動していくことを意味しており、オックスファムの発表がそれを裏付けています。

 日本はどうかということですが、いくつかの数字を調べてみたいと思います。
 所得格差について理解しやすいのは「ジニ係数」です。これは集団の全員が均等の所得を得ていれば「0」、一人がすべての所得を独占していれば「1」になるような計算をします。
 当然、数値が小さいほど所得が均等な社会ということになります。
 日本は平成時代が始まった1989年には高所得者への課税や低所得者への補助など補正をする前の「当初所得」のジニ係数は0.43でしたが、2010年代中頃には0.55に上昇しています。
 つまり経済格差が拡大してきたことを意味しています。
 これを富裕層への課税や貧困層への補助で調整した数値が「再配分所得」ですが、これも0.33から0.38に増えています。
 一般に0.4を超えると社会が不安定になると言われていますから、日本はかなり微妙な事態にまで接近しています。
 国際的に比較しても、OECD(経済協力開発機構)加盟国36カ国の中で日本の再配分所得のジニ係数は多い方から9番目ですから、世界でもかなり経済格差が大きい国になってしまっています。

 もう一つ、相対的貧困率という数字があります。これも所得のみを対象にして、全国民を所得の順番に並べ、その真ん中になる人の所得の半分以下の国民を貧困と定義して、その比率を求めたものです。
 国民が101人の国家で、51番目の人の所得が200万円としたら、その半分の100万円以下の国民の比率です。
 残念ながら、日本はOECD加盟国の中でメキシコ、トルコ、チリなどに次いで6番目に大きい国になっています。

 日本のGDPは平成初期の450兆円から昨年の550兆円へと増大し、それほどの物価上昇もなく人口は減少していますから、一人当たりGDPの平均も350万円から430万円と増加していますが、それにもかかわらずジニ係数が増大し、相対的貧困率が高いのは、例えば安倍総理が強調するようなトリクルダウン政策(まず富める層が豊かになれば、次第に貧しい層にも富が行き渡る)が機能していない証明です。

 第二は雇用格差、すなわち非正規従業者の増加です。
 平成の始まった1989年には男性で10%弱でしたが、30年後の現在では22%と倍増しています。
 とりわけ15歳から24歳の若い世代の比率は20%から50%に増えています。
 女性については同じ期間に36%から56%に増え、15歳から24歳では20%から56%に増えています。

 第三は男女の賃金格差で、男性を100とした時の女性の賃金は平成の初期には60でしたが、現在では73になっており、改善はされています。
 しかし、国際的に比較すると問題があります。
 OECD加盟国の数字では、男性100に対して女性が90以上の国はベルギー、イタリア、デンマーク、ニュージーランドなど13カ国存在しますが、日本は韓国の63よりは良いものの73で、下から3番目という状態です。

 第四の格差は地域格差です。
 平成時代の始まりの1990年から2015年まで、都道府県単位で人口が増加したのは、宮城(9万人)、茨城(7万人)、栃木(4万人)、群馬(1万人)、埼玉(86万人)、千葉(67万人)、東京(166万人)、神奈川(115万人)、静岡(3万人)、愛知(79万人)、大阪(10万人)、沖縄(21万人)という状態で、三大都市圏と沖縄以外の1府34県は人口減少になっています。
 もっとも減少率が大きい秋田県では17%(20万人)、2番目の青森県は12%(17万人)という状態で、平成時代に日本の人口が地方から三大都市圏とりわけ首都圏に移動してきたことがわかります。
 さらに国の人口問題の研究機関は2025年以後には、すべての都道府県で人口が現在よりも減少すると予測しています。

 今さら「論語」ということでもありませんが、「人は貧しきを憂えず、等しからざるを憂う」と書かれています。
 これは為政者のための言葉とされており、国家だけではなく会社や家族を維持する責任のある人は格差をなくすことが責務であるという意味のようです。
 令和時代の政治家や経営者には平成時代に拡大した格差を是正することを目指していただきたいと思います。





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