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論文

 東日本大震災の被災地域の方々は大変なご苦労をしておられ、それに比べれば何ほどのことでもありませんが、首都圏では計画停電により、一時的にせよ不便な生活を強いられています。
 今回の大震災前の東京電力の最大供給能力は5200万KWですが、現在は3350万KWとなり、35%も低下しています。
 それでも予定の計画停電が何度も中止になったことが証明したのは節約が大変な効果をもたらすということです。
 それには企業の生産活動の縮小や鉄道の運転本数の間引きなどの効果が大きいのですが、各家庭の節電努力も効果をあげています。
 しかし、現在は冬から春にかけて比較的電力需要が少ない時期なので、何とか対処できていますが、これから夏にかけて冷房需要などが増大していくと、5500万KWから6000万KWに需要が増大するので、現状の1・8倍の供給能力が必要とされます。

 対策として東京電力が想定している第一の計画が今回の地震の影響で停止している火力発電所や老朽化して停止させていた火力発電所を復旧して稼動させ、600万KWを増加させることです。
 第二が電力会社以外の電力卸供給事業者(IPP)から購入することです。
 1995年に電気事業法が改正されて石油会社や鉄鋼会社が電力の販売を目的として発電を行っていますが、そこから購入するわけです。
 第三は一基で30万KWの発電能力のあるガスタービン発電機を何基か新設して発電能力を増やすことです。

 それらを合計して4月末までには4300万KWにし、需要が急速に増大する7月前までに5000万KWにするというのが、東京電力の構想です。
 それでも1000万KWは不足するので、さらなる節約を行う必要が出てきます。
 企業も計画生産で電力需要を減らすことになると思いますが、実は現状では工場などが使用している電力は全体の30%であるのに、家庭が使用している電力が33%となっており、家庭の節約が重要になります。
 そこで家庭の電力消費の内訳を調べてみると、エアコンが25%、冷蔵庫が16%、照明器具が16%、テレビジョン受像機が10%という割合です。
 エアコンの温度設定を1℃さげると10%の節約、冷蔵庫の温度設定を強から中にすると11%の節約になります。
 途中の計算は省略しますが、この2つの方法だけで、全電力消費の1・4%を節約できますので、東京電力の最大の需要のときに当てはめれば85万KWの節約になります。
 また、照明器具については、来年には白電電灯の生産が打ち切りになり、蛍光電灯かLED電灯に切り替わることになります。
 LED電灯は2Wで60Wの白熱電球と同じ明るさが得られますので、現在、白熱電灯を使っている家庭が、すべてLED電灯に変換すれば、消費電力は30分の1になりますので、これも計算は省略しますが、105万KWの節約になります。

 これで190万KWの節約になりましたが、まだまだ不足です。
 そこで次に対象となるのが待機電力です。これはテレビジョン受像機、ビデオデッキ、電話機、温水洗浄便座などに常時通電されている電力ですが、世帯あたり35Wになっています。
 東京電力管内の1800万世帯では63万KWになりますから、使わない電気器具のプラグを抜いておけば、それだけ節約できることになります。
 ここまでの合計で約250万KWになります。

 今回の計画停電では、鉄道が運転停止をしたり本数を間引きしたために、多くの通勤客が不便を経験されたわけですが、これを在宅勤務に変更することも効果が期待できます。
 量的には、毎日20kmを鉄道で通勤している人が自宅で通信機器を活用して仕事をすると、エネルギー消費は数分の1で十分ですから、東京23区に毎日通勤してくる約270万人の輸送エネルギーを削減できれば、大変な効果になります。

 さらに大きな節約が可能です。
 以前にも御紹介したことがありますが、世界一の清潔国家である日本には温水洗浄便器が7割の家庭に普及しています。
 この3割が出勤前の朝8時頃に一斉に使用されているようですが、そのために必要な電力が470万KWになります。
 計算してみて、神の啓示ではないかと思うほど符合するので仰天したのですが、今回被災した福島第一原子力発電所の1号機から6号機の最大発電能力を合計すると469万6000KWですから、朝、我々がお尻を洗うために福島第一原子力発電所の6基が稼動していることになるのです。
 これを使わないようにと言うと抵抗がある方も多いと思いますが、これはピーク電力の消費量なので、使う時間をずらして分散させれば十分な節電効果があります。

 日本は現在1兆1000億KW時の電力需要が2030年までに1兆2200億KW時に増大すると想定し、その38%を原子力発電で供給するという長期計画を策定しています。
 この間、人口は1200万人減少する予測なのに、電力消費が増大するのは、人々が豊かな生活をするために必要とするだけの電力を供給するという前提で計画が作成されているからです。
 そのために14基の原子力発電機を新設する計画ですが、今回の事故で実現は大変に困難な情勢になってきました。
 そこで最大の資源は節約であるという信念で、今回の大災害を契機に計画停電から計画節電へという新しい社会を構築するべきではないかと思います。





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