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論文

 今回の地震と津波で分かった重要なことは、防災の第一歩は自分で自分を守るということだと思います。
 新聞などでも紹介されていますが、釜石市の小中学生が日頃の訓練によって、とにかく揺れたら逃げろの教訓を守り、しかも上級生が下級生を誘導しながら高台に逃げた結果、ほとんど無事であったというのが好例です。
 もちろん、本格的な救助や復興は政府の力が必要ですが、とにかく発生直後は自助努力や周囲との相互扶助が大切だということです。

 その自分で自分を守ることの、さらに第一歩は正確な情報を入手し、それを理解する能力、リテラシーを日頃から養っておくことだと思います。
 以前もご紹介しましたが、原子力発電所から飛散する放射性物質について、自分の生活している地域が安全かどうかは、政府の発表に疑心暗鬼の方も多数おられると思います。
 かつては、そのような情報は公的情報に依存するしか方法がありませんでしたが、インターネットが普及した現在では、独立した組織や個人の測定している数値も多数参考にすることができます。
 そうすると、自分の生活している地域の測定値を時間と線量の単位に注意して入手し、例えば1時間あたり何マイクロシーベルトという数値を24倍して1日に換算し、365倍して1年に換算し、それが1000を超えなければ、年間の被爆量が1ミリシーベルト以下で問題ないという判断ができます。

 そこで今日は、それぞれの地域で生活しておられる方が、自分の地域に今度どの程度の地震が発生するかを判断する方法を御紹介したいと思います。手許に、昨年、政府の地震調査研究推進本部が発行した「全国地震動予測地図/わが国の地震の将来予測」という簡単な冊子があります。
 昨年の1月1日を基準として、今後30年以内に、どの地域にどの程度の地震が発生するかを示した地図が掲載されています。
 地震というのは大きく分けると2種類になり、今回発生したような海底でプレートが衝突している場所の異変で発生する「海溝型地震」と、地面や海底に入っているひび割れのような活断層のずれで発生する「活断層型地震」がありますが、それぞれについて、どこにどの程度の地震が発生するかを一覧にして示しています。

 驚いては作成された研究者に失礼ですが、最も高い確率で発生するとされていたのは海溝型の「宮城県沖地震」で、M7・5前後の規模の地震が30年以内に99%の確率で発生すると記されています。
 残念ながら、今回はこの地震が引き金となって付近の3カ所で海溝型地震が連動したので、180倍以上のエネルギーを発したM9の大地震になってしまいましたが、三陸沖で30年以内に大型の地震が発生することは、ほぼ確実に予測されていたということになります。
 そこで誰もが関心があるのは、次はどこかということになります。
 細かくは後で御紹介する「地震調査研究推進本部」のホームページを御覧いただければ簡単に知ることができるのですが、今回のような「海溝型地震」では、駿河湾の海底にある駿河トラフと呼ばれる海溝を震源とするM8程度の規模の「東海地震」が87%、静岡県沖から四国沖に存在している南海トラフの紀伊半島沖の海底を震源とするM8・1程度の「東南海地震」が60〜70%、そして同じ南海トラフの四国沖を震源とするM8・4前後の「南海地震」が60%となっています。
 また「活断層型地震」では神奈川県の国府津から松田にかけての断層帯でM7・5程度の地震が最大16%の確率で発生すると予測されています。

 それでは、その地震が発生したとき自分の生活している地域は震度どの程度の影響を受けるかについても、日本全体を250m角の升目に切って予測した地図を簡単に見ることができます。
 検索システムで「J−SHIS」を探すと簡単に表示されますが、「どの程度の確率で地震が発生するか」「土地の地盤がどのように形成されているか」「活断層がどこにあるか」「被災する人口は何人くらいか」など、様々な地図を全国にわたって見ることができます。
 例えば「今後30年間に震度6弱以上の地震に見舞われる確率」や「今後30年間にある震度以上の地震に見舞われる確率が3%となる場所」をご覧になると、大凡の判断ができると思います。

 これほど危険な場所に住まなければいけない無情を感じられる方も多いと思いますが、これは日本列島に生活する宿命です。
 地球の表面は14から15の薄い板のようなプレートがせめぎあっており、日本列島は4枚のプレートが衝突している上に存在していますから、世界でも有数の海溝型地震の発生しやすい場所です。
 そのような場所は他に中米からカリブ海にかけて、ボルネオ島とニューギニア島の一帯しかありませんが、いずれもここ10年程度の間に大地震が発生した地域です。
 しかし、危険だからと1億3000万人が移住することも不可能です。そこで対策を考えることになりますが、今回、巨大な防潮堤のような技術を駆使した文明では十分に防ぐことができず、過去の経験から、ある地点より低い場所に住まないとか、「稲村の火」や「津軽てんでんこ」の言い伝えを守ってとにかく逃げて助かったとように、地域の文化が重要だということが明らかになりました。
 文明に任せ、他人に任せていた社会を、地域ごとの文化を重視し、自分で判断する社会に転換する発想が必要ではないかと思います。





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