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論文

 5月4日に細野総理大臣補佐官が民間放送局のテレビジョン番組で、放射性物質の拡散を予測する情報を「早い段階で公表すべきだった」と発言し、さらに5月9日の日本外国特派員協会での講演で「(公表しなかったことは)非常に問題が大きかった。透明性確保の観点から十分な対応が出来なかった部分があり反省している」と発言しています。
 これはどういう事かというと、財団法人原子力安全技術センターに設置されている「SPEEDI(スピーディ)」という情報システムの情報を、3月11日の福島第一原子力発電所の事故以来、2ヶ月近く公表しなかったことへの陳謝です。

 その問題を考える前に、SPEEDIという情報システムについて概略をご紹介しておきたいと思います。
 これは「System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information」の頭文字を集めた略号で、日本語では「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」と翻訳されています。

 大きく2つの役割があり、第一は、放射性物質が空中に飛散したとき、その影響がどの範囲に及ぶかを予測して国や都道府県に情報を提供すること。
 第二は、全国の原子力施設周辺の環境の放射線を常時監視し、異常が発生したときに通報することです。
 これは1979年にアメリカのスリーマイル島の原子力発電所で事故が発生したのを機会に、翌年から128億円の予算をかけて開発され、1985年から一部が稼動を開始したシステムです。

 具体的には、原子力施設の周辺で、都道府県が測定している環境に放出されている放射線データを10分ごとにオンラインで収集し、それ以外に気象庁が発表している風向や風速のデータを一体として、1時間後から6時間後までの周辺の放射性物質の大気中の濃度を予測し、地図の上に等高線のように表現するシステムです。
 この情報は都道府県と各地にある「緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)」に送信されます。
 まさに今回のような事故が発生したときのために、毎年7億8000万円の税金を投入して維持してきたのですが、いざというときに有効に利用できなかったのです。

 SPEEDIは着実に計算を行い、事故直後から2000枚以上の予測図を作成していたのですが、内閣府の原子力安全委員会が公表したのは約2週間後の3月23日に1枚、1ヶ月後の4月11日に1枚の2枚だけで、本格的に約5000枚の公開が始まったのは5月3日からでした。
 理由は、放射性物質の放出源である福島第一原子力発電所のデータ収集システムが地震で機能せず、信頼性のある結果となっていないということです。
 それが冒頭にご紹介した細野総理大臣補佐官の陳謝に到る経緯です。

 ところが、福島第一原子力発電所1号機で水素爆発が発生した翌日の3月13日に、文部科学省から福島県に32枚の地図が送信されていたのですが、「提供されたのは前日のデータで住民の避難に役立つものではなかった。公表による混乱を避けたかった。」という理由で公表されませんでした。
 さらに3月18日には日本気象学会理事長が、学会のホームページで学会員宛に「当学会の関係者が不確実性を伴う情報を提供することは、国の防災対策に関する情報を混乱させる事になりかねない。防災対策の基本は信頼できる単一の情報を提供し、その情報に基づいて行動する事であり、会員は適切に対応される事をお願いする」という意図の文書を掲載していました。

 このような日本の情報非公開姿勢に対し、ドイツの気象庁は独自に開発したシステムで福島第一原子力発電所を中心とする放射性物質の拡散の6時間ごとの予測地図を4月4日以後、ホームページで一般に公開していますし、ノルウェーやフィンランドも同様に予測をして結果を公開しています。
 さらに、失礼ながら情報隠蔽体質が強いと思われているロシアでさえ、チェルノブイリ原子力発電所の事故の25周年の前日の4月25日にメドベージェフ大統領が「チェルノブイリ原子力発電所事故の主要な教訓は、人々に事実を話す必要があることだ。政府による情報の隠蔽や修正は許されない」と発言しています。

 皮肉な事に、日本の原子力安全委員会、福島県、日本気象学会の行動基準はその逆で、細野総理大臣補佐官の「公表して社会にパニックが起こる事を懸念した」という言葉に象徴されています。
 確かに、3月11日の爆発直後に、食糧の買い占めに走ったり、家族を疎開させたりという行動もあり、パニックになる国民が存在した事も確かです。
 それは長年の「依らしむべし、知らしむべからず」という政府の姿勢への不信感があるからだと思います。
 しかし、これまで、放射線量の測定は公的機関以外にも多数の民間の測定が行われていること、地震の将来予測についても「地震調査研究推進本部」のホームページで詳細なデータが公表されていることを紹介してきました。
 また、SPEEDIの情報を政府が一般公開しないのであれば、ドイツ語の知識は多少必要としますが、ドイツの気象庁のホームページから知る方法もあります。
 これはグーグルで検索すれば、内容をたどたどしい日本語に即座に翻訳もしてくれます。
 私たちはインターネット時代の恩恵を最大に活用して、真実を知る努力を自分でする必要があると思います。





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