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論文

 今週前半に仙台で被災した友人を見舞いに行き、津波で被災した仙台平野を見学してきました。
 仙台は東北新幹線や東北自動車道が通っている場所から東側に約10キロメートル先の太平洋岸まで広大な仙台平野が広がっていますが、平均すると海岸から5キロメートルくらいまで津波が押し寄せ、見渡すかぎり田畑であった場所のあちこちに瓦礫が集められているという光景でした。
 すこしずつ片付けが進んでいましたが、重機も人手も十分ではなく、相当の時間を必要とする大変な復興作業だと実感しました。
 この仙台平野でもう一つ深刻な事態は田畑の塩害、すなわち、津波で押し寄せてきた海水が土壌の中に浸透して、田畑が使えなくなってしまったということです。
 仙台平野は「ササニシキ」や「ひとめぼれ」など美味しいコメの全国有数の産地ですから、通常の年であれば、現在は田植えが終わって、水田に苗が植わっている状態ですが、ほんの一部に水をはった水田がある以外は、土がむき出しのままで、かなりの部分は白く塩が吹き出ている状態であったり、昨年刈り取った稲の株が残ったままの状態でした。

 農林水産省の推定では、東北3県で約2万ヘクタールの水田が塩害を被っており、その3分の2が宮城県に集中していますから、日本第7位のコメの産地にとっては深刻な事態です。
 土壌の塩分濃度が重量で0・1%以下でないと稲作はできないとされていますが、ほとんどの場所で測定結果は0・1%を超えているどころか、場所によっては10倍以上になっているようです。
 これを回復する一般的な方法は水田に石灰を撒いて土の中に浸透しているナトリウムを吸着させ、水を張ってから水路に流して塩分を除去するのです。
 今回も排水処理場を見学させてもらいましたが、津波の被害で機能していない施設がほとんどで、その回復が先という状態です。
 そのため、現在の見通しでは10年はかかりそうで、費用も1000億円近くは必要という大事業です。

 そこで、すでに専門家は検討されていると思いますが、ファイトレメディエーションという方法の可能性をご紹介したいと思います。
 ファイト(phyto)というのは植物という意味の学術用語で、レメディエーション(remediation)は治療とか救済という意味ですから、植物を利用して土壌や水中の汚染物質を吸収して土壌を回復しようという技術です。
 これが最近話題になったのは、福島第一原子力発電所の事故により放射性物質で汚染された土壌をヒマワリで回復できないかというアイデアです。
 チェルノブイリ原子力発電所の事故(1986年)の後、1995年にアメリカとロシアの植物学者が施設から1キロメートルの場所にある汚染された池の水を採取し、温室内で20種類の植物を栽培して実験したところ、ヒマワリが放射性物質であるセシウム137を根に吸収蓄積し、ストロンチウム90を花に吸収蓄積することが分かり注目されました。
 セシウム137の半減期は30年ですが、20日間、ヒマワリを栽培したところ、95%を除去できたという報告がなされていますが、実用には技術的に困難な問題があり、今回、農林水産省が福島県で実験を予定しています。

 しかし、塩分については有望な方法があります。
 植物の中には塩生植物といい、塩分濃度の高い場所で生育できる種子植物があります。
 代表は海岸の湿地に生育するマングローブで、海水に覆われる土地にも繁殖していますし、北海道のオホーツク地方にある能取湖で秋になると岸辺を真っ赤に彩るアッケシソウも有名です。
 その塩生植物の一種に「アイスプラント」という種類があります。
 南アフリカの乾燥地帯が原産地の多肉植物で、葉の表面に塩分を隔離した細胞があり、それが凍っているように見えるのでアイスプラント、すなわち氷結植物と呼ばれるのですが、少し塩味がして美味しく、フランス料理に使われています。
 最近では、日本でも「ソルトリーフ」「クリスタルリーフ」「ソルティーナ」などの商品名で栽培され販売されています。

 日本へは有明海沿岸の塩分濃度の高い地域で栽培するために輸入されたのですが、現在、日本と中国が共同で、中国の塩害が厳しい砂漠で1億ヘクタールという広大な面積にアイスプラントを植えて実験をしています。
 アイスプラント1キログラムで14グラムの塩分を吸収する能力があるということですから、塩害を受けた水田で栽培すると短期間で土壌を回復できる可能性もあります。
 カドミウムなども吸収する能力があるので、土壌が重金属汚染されていると食べることはできませんが、もしナトリウムやカリウムだけであれば、アイスプラントを商品作物として栽培することも可能で、一石二鳥の効果があります。
 現在、生物の様々な能力を人間の開発する技術に取り込もうというバイオミミクリー、生物模倣という分野が注目されていますが、今回の津波や事故で汚染された土壌の回復にも応用する研究を進めていただければと期待します。





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