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論文

 災害のときには、家族が相互に安否を確認する場合にも、自治体が住民に連絡をする場合にも、情報通信が重要な役割を果たします。
 阪神淡路大震災のときには、相当に混乱がありましたが、そのときの教訓から、今回の東日本大震災では、171番の災害用伝言ダイヤルが活躍し、個人同士の安否の確認や避難場所を連絡するのに役立ちました。
 自治体が住民に連絡する手段としては市町村防災行政無線が設置されており、今回も住民が津波から避難するときには役立ちました。
 しかし、自治体も復興作業に追われているし、住民も避難して各地に分散している現在の状況では、防災行政無線は必ずしも上手く機能しませんし、津波によって防災無線の設備自体が損傷して利用できない場合も各地で発生しています。
 そこで今回活躍しはじめたのが「さいがいFM」というコミュニティ放送です。

 まずコミュニティ放送から説明すると分かりやすいと思いますが、1970年代にアメリカなどで電波の規制緩和が行われ、小規模なFMラジオ放送局が急速に増加しました。
 日本でも70年代から、社会が地方分権の方向に動き始め、情報通信政策も地方分権を後押しする政策が検討されるようになりました。
 そこで市町村単位でFM放送局を設置する制度が検討され、1992年1月10日に「コミュニティ放送制度」が制定されました。
 これは76MHzから90MHzの帯域を利用するFM放送で、当時3300存在していた市町村すべてが開局をしても電波を割当てることができることを想定し、相互に混信しないように、電波の出力を最大1wとしました。

 1992年12月24日にコミュニティFM放送局の第一号が函館に「FMいるか」という名前で誕生しましたが、アンテナを函館山の頂上に設置するため電波が遠方まで届くという理由で、出力はわずか0・1wに制限されました。
 このTBSラジオは100kwで放送していますから、その100万分の1という微弱なものです。
 その後、アメリカほど多数の放送局は登場しないということが分かってきたので、出力の最高が20wまで上げられ、合併した市町村の範囲でも電波が届く程度になりました。
 5月31日現在で国内に246局が開局しており、申請を検討している放送局が100近くあるというのがコミュニティFM放送局の現状です。

 このコミュニティFM放送局は放送時間の60%以上は自主制作番組で、地域に密着した番組を放送することを義務づけられていますが、今回のような災害時には臨時に免許をもらって開局することができます。
 一例として、今年の1月27日には秋田県の横手市に「よこてさいがいFM」が開局しましたが、これは市内の道路の除雪状況、道路や鉄道の交通状況の提供を目的とする放送局です。
 この「よこてさいがいFM」が臨時災害放送局の6例目だったのですが、3月11日の大震災以後、岩手、宮城、福島の3県で一気に増えました。
 地震発生から2時後に開局した「はなまきさいがいFM」を先頭に、これまで23局に免許が与えられましたが、そのうち5局は役割を終えたとして閉局し、現在18局が放送をおこなっています。

 なぜ2ヶ月程度の間に23局も開局したかということですが、普通は放送局の免許は複雑な手続きにより、時間もかかり、数ヶ月の実験放送を経過してから本免許が与えられるのですが、さいがいFMは非常事態のときに期間限定で免許を出すために、申請は市町村に限られますが、書類を用意しなくても口頭で申請でき、電波利用料も免除され、出力も20w以上でも可能です。
 実際「おうしゅうさいがいFM」は150wで放送していました。
 4月に三陸地方に出掛けたときに、宮古市に3月22日から開局した「みやこさいがいFM」に短時間出演しましたので、どのような様子かをご紹介したいと思います。
 まず驚いたのは、ラジオ放送の場合、外部の音を遮断するブースがあるのですが、臨時放送局のため、オフィスビルの3階の一部屋の片隅をつい立で仕切っただけの場所に、簡単な机の上にマイクロホンもミキサーも置いて、まさに臨時という設備でした。
 内容は市長が市民にメッセージを送るとか、市役所の職員が災害弔慰金の申請方法を知らせるなど公的な内容以外に、放送しているスタッフも被災者が多いため、避難している人々の気持を安らげる話など、地域密着の内容です。

 かつて情報通信は、個人と個人が連絡する通信と、不特定の多数の人々に一斉に情報を伝達する放送に明確に分けられていました。
 インターネットの登場によって境界は曖昧になってきましたが、インターネットでユーストリームやポッドキャストを利用するためには通信回線が必要で、被災地域では困難ですし、一斉に情報を伝えることもできません。
 ラジオは手許に受信機があれば、簡単に情報を受信することが出来ますし、コミュニティFMであれば、身近で必要な情報を知ることも出来ます。
 古いと思われていたラジオ放送の役割が、災害の中で改めて浮上してきたのではないかと思います。

 さらに無縁社会と言われる時代に、市町村単位の地域社会を維持するためにもコミュニティFMは役に立ちます。
 多くのコミュニティFMがユーストリームやポッドキャストでも放送していますので、一度、お聞きいただくと、その役割が実感できるのではないかと思います。





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