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論文

 7月5日に世界貿易機関(WTO)の紛争処理小委員会が、中国のレアメタルの輸出制限をWTO協定違反と認定するという報告書を発表しました。
 これは中国政府が2010年のレアメタルの輸出枠を前年に比べて4割も削減したことに対して、アメリカ、EU、メキシコが不公正な貿易であると提訴していたことへの判断です。
 実際、レアメタルを代表する元素のアンチモンは、確認埋蔵量の60%、生産量の90%を中国が占有していますが、単価は2年前と比べて5・5倍に値上がりしており、中国政府の決定の影響が伺えます。

 中国政府は採掘することによる環境問題への対策や有限な資源を枯渇させないための規制であり、WTO協定違反ではなく、一部の国々によるWTOを利用した圧力であると反論し、上訴を検討しています。
 日本は世界有数のレアメタル消費国で、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイの電極の生産に必須のインジウムは世界の生産量の60%を日本が消費し、コバルトは25%、パラジウムは20%などとなっていますから、日本にとっても大問題です。

 最初にレアメタルについてご紹介しますと、地球に存在する金属元素の中で、埋蔵量が少ないか、抽出することが困難であるために希少だと考えられている資源です。
 日本では、47の元素と、それを含む31種類の鉱物をレアメタルとして指定し、そのうち17種類の元素をレアアースと命名しています。
 レアメタルやレアアースは少量であるが必須の金属という意味で「産業のビタミン」とも言われ、とりわけ日本が得意とする最先端の製品には必須の物質です。
 例えば、ネオジムというレアアースは電気自動車のモーター用の磁石に必須ですし、セリウムは液晶ディスプレイのガラス面やデジタルカメラのレンズの研磨に必須という具合です。
 ところが、中国の輸出制限でネオジムは昨年と比べ単価が10倍、セリウムは14倍などと急激に値上がりしています。
 しかも、中国企業が購入する費用と外国企業が購入する費用も格差があり、セリウムは4・9倍、ランタンは4・7倍も差がありますから、製品の価格競争でも日本には不利です。

 そこで今週の月曜日に海江田経済産業大臣が北京に出向き、中国の陳徳銘商務大臣と会談し、価格の高騰、内外価格差、日本への輸出制限を改善してほしいと要望しましたが、明確な回答はありませんでした。
 このままでは日本の先端産業の国際競争力の低下になりますから、対策を検討する必要があります。

 第一は、中国以外から調達することです。
 昨年10月に菅首相がベトナムを訪問してグエン・タン・ズン首相と会談したときに、レアアースの開発について研究や技術開発で協力するという了解を得ていますし、2年前には日本の商社とカザフスタンの原子力公社の間で、ウラン鉱石の残滓からレアアースを回収する事業で合意するなどの努力をしています。

 第二は国内の産業廃棄物から回収することです。
 廃棄されるレアメタルやレアアースを含んだ製品から回収すると、日本は有数の資源国になるという数字もありますので、これは重要です。

 第三はこれまで使っていたレアメタルやレアアースを使わなくても、同等以上の性能を発揮する技術開発の努力をすることです。
 例えば、三菱電機やダイキン工業などがレアアースを使わない高出力のモーターの開発に成功しています。

 第四は、背に腹は変えられない戦略で、工場を中国に移して、中国の国内価格で資源を調達するという方法ですが、これは日本が輸出した新幹線を参考に中国が国際特許を出願して問題になっているのと同じように生産技術のノウハウが中国に渡ってしまうという心配があります。

 第五は日本がレアアース大国なるという戦略です。
 ハッピーマンデー法により、昨日は何の日の予定が狂ってしまったのですが、7月20日はかつて「海の日」でしたが、その海に答えがあります。
 7月4日に東京大学の加藤准教授などのチームが太平洋の3500mから6000mの海底の泥の中に大量のレアアースが含まれていることを発見したということを発表しました。
 これは以前、別の目的で東京大学の海洋研究所が太平洋の海底から泥を収集していたのですが、その標本にレアアースが含まれていることに気付き、さらに追加して泥を採集して、どのあたりにレアアースを含んだ泥が分布しているかを把握したのです。
 もちろん、場所は公海ですから、国際海底機構に申請して鉱区を確保しなければいけませんし、3000m近い海底から泥を経済的に成り立つ方法で採集することも簡単ではありませんが、日本にとっては他国依存ではない手段を持つことになります。

 今週の月曜日は「海の日」、7月1ヶ月間は「海の月間」になっています。
 意外に知られていませんが、日本は海洋大国です。
 日本の陸地の面積は世界で61番目ですが、日本に利用の優先権のある排他的経済水域の面積は世界で7番目、その海に含まれている海水の量は世界で4番目、海岸線の長さは世界で5番目という大国です。
 そして、この海底には陸上の何十倍にもなる鉱物資源が存在することも知られています。
 海の恩恵というと漁業や海水浴などを思い浮かべる方がほとんどかと思いますが、ぜひ「海の月間」を機会に、資源の宝庫としての海にも注目してほしいと思います。





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