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論文

 2007年にアメリカで発売され、日本でも2008年から利用できるようになった「iPhone」は、日本ではソフトバンクモバイルが独占して発売してきましたが、来年の年明けからKDDIも発売する可能性が出てきて、いよいよ競争状態になります。
 この「iPhone」を筆頭として、電話の役割とコンピュータの役割の両方をもつ端末装置はスマートフォンと呼ばれますが、この分野で日本は後進国なのです。
 まず技術的な面で、このスマートフォンを制御するオペレーティング・システム(OS)の比率(2010)を見ると、グーグルのアンドロイドが43%、ノキアのシンビアンが22%、アップルが18%、カナダのリサーチ・イン・モーションが12%で、日本の技術は存在しません。
 また端末装置を製造している会社の比率(2009)では、アップルが54%、ノキアが18%、台湾のHTCが12%、カナダのリサーチ・イン・モーションが6%など、日本企業は主要会社として登場しません。

 そして使用されている携帯電話全体のうちスマートフォンの比率(2010)は、アメリカでは20%近くになっているのに、日本は5%にも到達していません。
 さらに携帯電話全体の普及比率でも日本は後進国になっており、国際通信連盟(ITU)の調査(2009)によると、日本は57カ国中48番目です。
 これには様々な原因がありますが、重要な要因の一つとして通信料金が高いということが考えられます。
 これもITUの調査(2009)によると、主要55カ国の中で日本は55番目、すなわちもっとも料金の高い国なのです。
 しかも微妙な差という訳ではなく、時間あたりの国内料金の安いほうから5番目のオーストリアの20倍、30番目のアルゼンチンの6・5倍、日本より1つだけ順位が上の54番目のスペインの2倍という状態です。

 このような問題を抱えてはいますが、日本も「iPhone」の提供が来年から競争状態になり、またNTTドコモが発売しているスマートフォン「エクスペリア」が急速に普及しはじめ、さらにWiFiやWiMAXなどの無線も浸透し、「iPad」を代表とするタブレット端末装置も急増し。そして2015年頃には高速大容量の第4世代の携帯電話が登場するようになると、電波が不足するという事態が予想されます。

 地上デジタル放送は、放送用の電波を整理して、通信用の電波を確保することが重要な目標でしたが、その第一歩として、これまで放送局の中継用に使用していた700メガヘルツの帯域と業務用に使用していた900メガヘルツの帯域を来年、携帯電話に割当てることになりました。
 これに対し、携帯電話サービスを提供している4社が使用申請を提出していますが、そのなかから3社に割当てられることになります。

 その割当方法が問題なのですが、この割当を受けるためには、現在、その帯域を使用している会社が設備を変更するために必要な費用として最大1000億円を負担する必要がありますので、その負担が可能であるということを含めて、十分にサービスが可能かということを電波管理審議会が審査して決定することになっています。
 しかし、電波管理審議会には総務省の意向も作用する可能性があり、以前から明朗なオークション(入札)にするべきだという意見が強くあります。
 周波数オークションというのは、ある電波の帯域の使用目的を設定し、その目的で使用したいという会社が入札して落札する仕組です。
 そこで総務省も今年の3月から「周波数オークションに関する懇談会」を設置して諮問し、これまで10回の会議が開かれていますが、少なくとも来年の700メガヘルツと900メガヘルツの利用については従来のままですし、今回、野田内閣で就任した川端達夫総務大臣は「政府内でも議論されているが長短あるので、専門家の議論を見守っていきたい」という意見です。

 ところが、この周波数オークションについても日本はもっとも出遅れた国になっています。
 アメリカでは1993年から、ドイツでは1996年から、イギリスでは1998年から始まっていますし、OECD諸国で、オークションで行う制度が決められていないのは日本以外にアイスランドとスロバキアのみ、制度は整っているが、まだ実施していない国は韓国、フランス、スペイン、ハンガリー、ポーランド、ルクセンブルクしかありません。
 もちろん、どのような制度にも川端大臣の言葉のように長短はあり、懸念されているのは、大企業が電波を独占すること、落札金額が高騰し、結果として通信料金が値上がりしたり、利用しないまま放置されること、一定期間ごと(10年程度が多い)に更新すると、それまでサービスをしていた会社が落札できなければサービスが中断すること、落札した会社が転売したりして利益を稼ぐことなどが挙げられています。
 実際、高額で落札して倒産した通信会社もありますし、転売した会社もありますから、この心配が杞憂というわけではありません。
 また、通信は国家の基幹となる社会基盤ですから、それを経済本位で決定することは大丈夫かという不安もあります。

 しかし一方、国家の財産である電波を、これまではわずかな電波使用料で企業に貸与していましたが、販売すれば多額の歳入になる可能性もあります。
 2000年にイギリスとドイツで第三世代の携帯電話のための電波帯域がオークションにかけられましたが、イギリスは4兆円、ドイツは5兆円の歳入になっています。
 制度を十分に検討すれば、現状のように審議会が十分には透明ではない方法で決定するよりは、市場原理で決定するほうが明朗だと思います。





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