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論文

 今週の新聞などの情報によれば、今年の春に北極の上空のオゾン層が大幅に破壊されて、オゾンが最大では80%も消滅したということです。
 このような状態をオゾンホールと言いますが、これまでオゾンホールはもっぱら南極の上空の問題とされ、北極でオゾンホールが出現したのは、人間が観測しはじめて初めての現象です。

 まずオゾンとは何かということですが、酸素の原子Oが3個集まったものです。
 普通の酸素はO2(オーツー)と呼ばれるように、酸素原子が2個集まった分子ですが、3個集まった分子O3はオゾンと命名されています。
 オゾンの語源はギリシャ語の「OZO」で「臭う」という意味で、臭う物質ということで「OZONE」と名付けられました。
 最近の都会ではあまり見掛けなくなりましたが、布団を太陽に干した後に顔を近付けると、何となく甘い匂いがする経験をされた方は多いと思います。
 その臭いの元がオゾンです。
 これは殺菌効果のある物質ですが、大気中に0・1ppm、すなわち0・00001%以上存在すると有害で、1ppm、すなわち0・0001%にもなると頭痛を覚え、その10倍になると呼吸困難にまでなる有害物質です。

 今回、話題になっているオゾンホールとは、地球の上空10kmから50km、すなわち1万メートルから5万メートルの高度にオゾンの濃度が高い部分があり、特に20kmから25kmではもっとも濃度が高いのですが、その部分の濃度が大きく下がってしまった状態がオゾンホール、すなわちオゾンに穴の空いた状態と言われるわけです。
 このオゾン層が破壊されることが心配されるのは、オゾン層は宇宙から地球に降り注ぐ紫外線を防いでくれているからです。

 紫外線は大きく3種類に分けられ、波長の長いほうからUV(ウルトラバイオレット)−A、UV−B、UV−Cに分けられますが、生命にとってもっとも有害な波長の短いUV−Cをほぼ完全に防いでくれているのがオゾン層なのです。
 普通の状態のときは、オゾンの量を表す単位(DU)で高緯度の地域では300から450という水準ですが、オゾンホールになった場所では100程度、すなわち平常の3分の1から5分の1になり、北半球ではスカンジナビア半島、ロシアの北部、カナダの北部などに人間が生活していますから、南極上空のオゾンホール以上に心配されるということです。

 このオゾンは自然の状態でも一酸化窒素(NO)や塩素原子(Cl)などにより、
     NO+O3 → NO2(二酸化窒素)+O2(酸素)
     Cl+O3 → ClO(一酸化塩素)+O2(酸素)
 のように分解されますが、このような反応はオゾンの生成と均衡が保たれていたので、オゾン層を減らすことにはなりませんでした。

 ところが1974年にカリフォルニア大学で研究をしていたシャーウッド・ローランド博士とマリオ・モリーナ博士が衝撃的な論文を発表しました。
 それは産業界が大量に使用している、炭素とフッ素と塩素から合成されたCFC(クロロフルオロカーボン)と総称される物質が上空のオゾン層を破壊するという内容でした。
 実際に南極上空のオゾン層が春になると大幅に減少することは1985年に発見され、翌年、アメリカの気象衛星ニンバスの撮影した画像で確認され、ローランド博士とモリーナ博士は1995年にノーベル化学賞を受賞することになります。

 CFCの代表的な製品は日本で「フロン」と呼ばれ、発明して特許を取得していたデュポン社では「フレオン」と呼ばれる物質ですが、これは世紀の大発明でした。
 この大発明をしたのはトーマス・ミッジリーというジェネラル・モーターズの研究所にいた研究者です。
 彼は100以上の特許を取得していますが、有名なものは1921年に発明したガソリンエンジンのノッキングを防止する「有鉛ガソリン(エチル)」、さらに有名に発明が1928年に発明した「フレオン」です。
 これはもともと冷蔵庫の冷媒として発明されました。当時の冷蔵庫はアンモニアやプロパンなどを冷媒に使っていましたが、それらは有害で可燃性の物質であったため、安全な代替品が必要だったのです。
 そこに登場したのがミッジリーの発明した「フレオン」で、無毒、無臭、不燃であり、ミッジリーが学会で発表したとき、フロンガスを胸一杯に吸って、ロウソクの炎を消したという逸話があるほどでした。
 これは20世紀最大の発明とも言われ、ミッジリーは数々の賞を受賞し、アメリカの科学アカデミーの会員に選ばれ、1944年にはアメリカ化学学会の会長にも選ばれ、栄光の中で亡くなりました。

 ところがミッジリーが亡くなってから丁度30年後、世紀の発明は地球環境を破壊する物質と一変し、1987年には「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が国際的に採択され、次々と製造が禁止される事態になってしまいました。
 「禍福は糾える縄の如し」を代表するような事例ですが、このような事例は人間の発明の中に数多くあります。
 ダイナマイトと起爆する雷管を発明したアルフレッド・ノーベルは、土木工事を効率よく進めるつもりでダイナマイトを発明したのですが、戦争で多数の人々を殺傷する結果になったことに思い悩んでノーベル賞を創設したといわれています。
 インターネットも通信網の一部が故障しても通信が途切れないように発明されましたが、それが最近ではスパイ兵器どころか破壊兵器として使われはじめているという事例もあります。
 今回の福島第一原子力発電所の事故も一例かと思いますが、人間の発明する技術は万能ではないことを考えるべきだと思います。





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