TOPページへ論文ページへ
論文

 毎年10月15日から21日までの1週間は「新聞週間」で様々な関連行事が開催され、特に16日は「新聞配達の日」、今日20日は「新聞広告の日」になっています。
 そこで新聞の最近の事情について考えてみたいと思います。

 まず発行部数が急速に減っているという事情です。
 朝刊と夕刊をまとめて1部として計算した発行部数は、2000年には一般紙は4740万部、スポーツ紙が631万部の合計5371万部でしたが、以後、平均すると毎年1%ずつ減っていき、昨年は一般紙4491万部、スポーツ紙442万部、合計4932万部になってしまいました。
 実部数で440万部、比率で8%以上減ったことになります。

 世帯あたりでは2000年に1・13部でしたが、昨年は0・92部になり、何部も購読している企業や個人も多数ありますから、新聞を購読していない家庭が相当の割合になっていることが分かります。
 そのような読まない人の実態はNHKが5年ごとに実施している「国民生活時間調査」で分かりますが、新聞を読まない人の比率は2000年には男性の20代で31%、40代で58%、60代で79%でしたが、10年後の昨年は20代が31%から13%に、40代が58%から41%、60代が79%から68%と、すべて大幅に低下しており、新聞離れがはっきりと現れています。
 女性についても傾向はまったく同じです。

 その原因は想像できるように、若い世代がインターネットなどの電子メディアに移行しているのではないかということですが、その傾向は文化庁による「国語に関する世論調査」にはっきりと現れています。
 情報源として利用しているメディアは何かという調査で、2001年と2008年について、代表として30代の男性の数字を比較すると、新聞は85%から65%に低下、テレビジョンも93%から79%に低下しているのに、インターネットは24%から55%と急増しています。
 そのような傾向を反映して、企業もより多くの人が情報入手手段とするメディアに広告費を投入しますから、新聞の広告収入は2000年の1兆2500億円から2010年には6400億円とほぼ半減し、一方、インターネットの広告収入は575億円から7750億円(広告制作費を含む)と13倍に急増し、2009年に新聞を追い抜いてしまいました。

 それならば新聞もインターネットへ進出ということで電子新聞を始める新聞社が登場しています。
 昨年春から「日本経済新聞」が電子版を始め、当初、有料会員7万人から今年の夏にようやく15万人になりましたが、紙の新聞の305万部にはまだまだという状態です。
 「朝日新聞」も今年の春から始め、7月末までの無料サービス期間には3万数千人が申込んでいましたが、8月から有料にした途端に2万5000人になり、これも紙の新聞の805万部には遠く及ばない状態です。
 多くの人が慣れていないということもありますが、どちらの新聞も「ニッケイ・コム」や「アサヒ・コム」などのインターネット新聞があり、記事は要約だけですが無料であるのに、本格的な電子新聞は配達経費が不要なのに紙の新聞と同じ程度の料金ですから、転換する人が少ないということだと思います。

 このような問題は世界各国の新聞も抱えている問題ですが、もう一つ、日本の新聞が今後考えなければいけない特殊な問題があります。
 世界新聞協会(WAN)という組織が世界の主要な新聞の発行部数を調べていますが、2008年の結果では、世界1位が読売新聞の1002万部、2位が朝日新聞の805万部、3位が毎日新聞の391万部、7位が日本経済新聞の305万部で、上位20番のうち8紙が日本の新聞です。
 そのなかには東京スポーツが223万部で14位になり、アメリカのウォールストリート・ジャーナルの206万部よりも多く、日刊スポーツが187万部で20位に入り、ニューヨークタイムズの112万部よりも多いという奇妙な事態も発生しています。

 これは日本の識字率が高く、文化水準も高いことを反映している面もありますが、日本は新聞の種類が少ないということが大きく影響しています。
 例えば、アメリカは新聞が減っているとはいえ2008年で1453紙、ブラジルでは673紙、ドイツでは358紙が発行されていますが、日本は毎日発行している新聞は110紙しかありません。
 当然、一紙あたりの発行部数に反映し、日本は61万部ですが、アメリカは3万5000部、ブラジルは1万3000部、ドイツは5万6000部とまるで異質です。
 発行部数について興味深い数字がありますが、1990年頃、毎日1000万部以上発行している新聞は世界に3紙ありました。
 ソビエトの「プラウダ」、中国の「人民日報」、日本の「読売新聞」です。「プラウダ」などは2150万部でした。
 ところが現在、ソビエトの体制が変わったこともあり、「プラウダ」は約160万部、「人民日報」は約250万部に激減し、読売新聞のみが1000万部を維持しています。
 情報というのは多様が本質ですが、日本は少数の新聞が毎日大量に発行し、国民が同じような記事を読んでいるという珍しい国家になっているのです。
 日本の新聞は1951年に制定された「日刊新聞法」により新規参入が不可能に近いために競争が少なく、再販制度によって価格競争もないという状態の中で、世界の中では異常な事態にあるということを、我々は新聞週間に改めて知るべきだと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.