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論文

 先週の20日、日本プロ野球組織(NPB)が2013年に開催されるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に日本代表チームを参加させるという方針を発表しました。
 WBCというのは2006年の第1回大会で王監督が率いる日本代表チームが優勝し、2009年の第2回大会でも原監督が率いる日本代表チームが優勝した野球大会で、名目上は野球の世界一を決める世界大会ということになっています。
 ところが今年の7月頃から、2013年の第3回大会に日本代表チームが参加するかどうかが微妙という情報が表に出てきました。
 その後、アメリカの主催団体であるメジャーリーグ・ベースボール・インターナショナル(MLBI)からおどされたり、なだめられたりして、今回の発表となったわけです。
 2回連続で優勝しているのになぜ喜んで参加しないのか、不思議に思われる方も多いと思いますが、その背景をご説明するためには、このWBCの出生の秘密からご説明する必要があります。

 2005年7月にシンガポールで開かれた国際オリンピック委員会で2012年、来年開かれるロンドンオリンピック大会で実施する競技種目を決めることになり、28種目(陸上競技は1種目)のうち野球とソフトボールを除外することが決まりました。
 これまで野球は1912年のストックホルム大会以来、何回か公開競技としてはオリンピック大会で実施されていますが、正式種目になったのは1992年のバルセロナ大会ですから、5回の実施だけで終わりというわけです。

 理由は3つほどありますが、第一は野球が世界全体ではマイナーなスポーツということです。
 日本にいると実感が湧きませんが、例えば、サッカーの国際団体であるFIFAには209の国と地域が加盟していますが、野球の国際団体であるIBAFは112の国と地域が加盟しているにしかすぎません。
 さらにサッカーの競技人口はプロアマ含めて6億人と推定されていますが、野球は5000万人程度で10分の1以下です。

 第二はIOCの理事の構成をみると、ヨーロッパとアフリカの国々の代表が多く、野球が熱心に行われている国の理事は少数という理由です。

 第三がアメリカのプロ野球の組織であるメジャーリーグ・ベースボールが、アメリカのプロ野球チームの選手をオリンピックに参加させないなど非協力的であったため、オリンピックが本当の世界一を決める大会にならないという理由もありました。
 ところが、シンガポールでのIOCの決定の3日後の7月11日に、MLBが突然、翌年の3月にWBCという世界一を決める野球大会をアメリカで開催するという発表をしました。
 もちろん、ロンドン大会で野球が競技種目ではなくなるということを想定して準備をしていたわけですが、ほとんど根回しもなく発表され、しばらくして日本も出場させるという通知が来たのです。

 当初、日本はIOCのような国際組織ではなく、アメリカの民間団体が主催する大会であり、予選もなく、MLBが勝手に指名した16の国と地域だけの大会であり、さらにオープン戦が始まる3月に選手が全力を出せるように調整するのは4月からのリーグ戦にも影響するということで参加に前向きではありませんでした。
 しかし、アメリカから利益の一部(7%)を配分するというようなアメをちらつかされ、しぶしぶ参加してみたら優勝してしまったということで、2009年の第2回大会は勇躍参加するということになりました。
 予選もない拙速で準備された大会ですから、問題も山積みで、第1回大会では日本は5勝3敗で優勝し、6勝1敗で、しかも日本には2勝1敗であった韓国は3位というスッキリしない結果になりました。

 さらにスッキリしないのが収益の配分で、2009年の場合、主催するMLBが全体の3分の1、MLB選手会が3分の1を頭から取り、残り3分の1を参加した16の国と地域に配分するという仕組で、優勝した日本には13%しか配分されなかったのです。
 しかも収益のかなりは日本の企業の支払ったスポンサー料と放送権料ですから、NPBもようやく目覚めたというわけです。

 第2回大会が開かれた2009年のテレビジョンの視聴率の年間ベストテンにはWBCの試合の放送が3位から6位までと10位という半分を占めており、平均視聴率は40%に接近し、瞬間視聴率は50%を超えた地域もありました。
 ところがアメリカではESPNというスポーツ専門の放送局が放送したのですが、平均視聴率は1・4%でした。
 アメリカでWBCの試合を見に来た観客にインタビューしたところ「アメリカのオープン戦も国際的になって、いろいろな国が参加するようになって結構なことだ」という意見もありましたし、アメリカの野球評論家のなかには「あれはMLBの資金稼ぎの興行だ」という方もおります。

 また世界ではWBCと言えばワールド・ボクシング・カウンシルを連想する人が大半ですし、スポーツに関心のない人はワールド・ビジネス・センターと理解しています。
 2013年に参加するかどうかは日本プロ野球選手会の12月の会議で最終決定されます。
 2年前の春に一喜一憂されたファンの方には失礼かと思いますが、参加することになった場合も、このような国際背景を理解しながら観戦すると一層面白く観戦できるのではないかと思います。





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